第49話 更なるアイディア提案とエロルート開放の序曲
「でもよ、ウチの店の規模でショーなんてできるのか? それにそうなるとアマネがまたピエロ……いや、ヒーローをやることになるんだぞ。それでもいいのか?」
俺は店内の設営設備、並びにアマネが過去に仕事ができないからとやらされていた演劇を再びやること自体に疑問があるのではないか? アマネはそれでも平気なのか? それを心配していた。だが当のアマネ本人はというと……、
「あっいや、ショーをやるのにはそれ程場所は必要ではないのだ。店内を見渡せる程度で、しかもどのテーブルからでも見える間合いがあれば……つまりはちょっとした段差の膝下程度の高さがあれば問題無いのだ。それに私のことを心配してくれているようだが、私ならば平気だ。私はな、嬉しいのだ。この店で働けることが……そして、ここで再びお客の前でショーを披露できることが……」
「アマネ……そっか」
一瞬それはアマネの強がりではないのか? っと勘繰ってしまったのだが、それは間違いだった。アマネは心から店の役に立ちたい。そう決意をした眼差しと喜びに満ち溢れている顔をしていた。
「ふふっ。そうですね、アマネもれっきとしたこの店の一員ですしね。それになんだかショーをやるのって、面白いそうですよね♪」
「もきゅ♪」
「ああっ、そうだよな!」
「みんなぁ~。正直、私なんかの意見なんて一蹴されてしまうかと思ったが……その、ありがとう♪」
シズネさんももきゅ子も、アマネの提案を受け入れてくれた。なんだかみんな他人なのだが小さな店の家族経営というか、そんな温かみがあるように感じてしまう。
「うん。なら『朝食セット』の他に『ショー』をやる、ってことでいいかな? シズネさん、設営というかそれは……」
「あっ、はい。そちらはあの三下共にやらせようかと考えております。ま、簡単な工事ですし、また材料などは木材が主なるでしょうから例の如く、木材調達はジズの力を借りることになるでしょうがね。ま、これも経費節約のためですしね。強制的にでもやらせましょう♪」
三下共……それはきっと序盤で出てきたあの山賊達グループを指しているのだと、俺は嫌でも気づいてしまったが敢えては口に出さなかった。何故なら口に出したが最後、俺までその手伝いをやらせれることが目に見えていたからである。
「おおっ! 本当にこの店でショーが出来るのだな! なんだか嬉しいなぁ~♪ あっはははっ~♪ それそれそ~れっ♪」
「もきゅもきゅ、も~きゅっ♪」
「(アマネのヤツ、あんなにはしゃいじまって。ほんとにショーが出来ることが嬉しいんだな……)」
アマネはもきゅ子の両手を取り、ブンブンブンっと振り回して喜びを体で表現していた。そんな光景を見ていた俺は微笑ましく思い、少し口元を緩めてしまう。
「ううっ……きもちわるい」
「うっぷ……きゅ~」
「……ははっ。何やってんだよ、二人とも」
「あらあら……ふふっ♪」
どうやら回りすぎたのか、目が回り気分を悪くしてもきゅ子と共に床に倒れてしまった。俺もシズネさんも「コイツら学習しねぇなぁ~」っと蔑み……いや、馬鹿にした笑いを……いやいや、た、楽しそうだなぁ~っと眺めていた。いや、ほんと全然馬鹿にしてたとかじゃないよ、うんうん。
「あっ、シズネさん。設営の作業はいいけどさ、費用とかの問題は大丈夫なのかな? 資金的には大丈夫なの? あんまり余裕は無いって言ってなかったっけ?」
「えっ? ああ、それなら大丈夫でしょ。向かいの店の廃材ですし、三下共やジズにはナポリタンでも食わせときゃいいでしょうしね」
どうやら山賊さん達も、またジズさんも無料奉仕という体で働かされるようだ。というか、むしろ前回玄関ドアを直した際にはナポリタンの代金徴収していたよな? むしろ逆に金払った上で働かされるってオチなのかもしれない。
「それで旦那様は何かアイディアをお持ちではないのですか?」
「へっ? お、俺も? そ、そうだなぁ~」
まさか自分にまでアイディアを求められるとは思っておらず、いきなり意見を求められて戸惑ってしまう。だがここで一応旦那様兼主人公ぶりを見せ付けねば、シズネさん達はもちろんこと、読者からも「あれ? ぶっちゃけアイツいらなくねぇ?」などと、いらない子宣言されてしまうだろう。それだけは何としても避けたいので、何かしら言わなければならない。
『何のアイディアを持ち出しますか? 以下よりお選びくださいませ♪』
『半額セールを提案する』一時的にお客が増加。だが大赤字になり、破産ルートへ。
『何も思いつかない』主人公不要に。バットエンドルートへ。
『ヒロイン達と混浴したいので温泉を提案する』そろそろエロルート開放しちゃう?
「うーん。そうだね……確かウチでは近々宿屋も運営するって話だったよね?」
「あっ、はい。レストラン経営の安定と仕事慣れが必然課題になりますがね。えっと、それと何か関係あるのですかね?」
俺はとりあえずシズネさん達と合法的に混浴したいがための軽い話の前振りをすることにより、話のきっかけを作ることにした。そうしなければ読者からただのエロ主人公に成り下がってしまうとの、レッテル貼りを危惧し慮る防衛手段だった。
「うん……もしも作れるならの話だけどさ、『温泉』とかはどうかな?」
「温泉……なのですか? うーん」
さすがにいきなり怪しい言葉だったのか、シズネさんは温泉と聞いた瞬間に腕を組み眉を顰めてしまった。
「(やっぱりダメなのか? もしかしてシズネさんには俺の混浴催促理論が即行でバレちゃった感じ?)」
「温泉だと!?」
「もきゅっ!?」
そんな俺の心配を他所に、アマネももきゅ子も『温泉』というキーワードにとても食いついた様子だった。それもそのはず、この世界では水は貴重品なのはもちろんのこと、それを焚く薪も当然自分達で森などに取りに行くか、買い入れなくてはならず、風呂に入れるのはめったなことではないのだ。
また男ならあまり気にはしないだろうが、ここにいるのはみんな女の子なのだ。常に綺麗でいたいし、毎日お風呂にだって入りたい。そんな欲求と俺の欲望とが重なりちょうどよい隠れ蓑になるのではないか? そんな思惑も兼ね備えていたのだ。
「ど、どうかなシズネさん? もしもウチに温泉があれば街にある他の宿屋とも差別化が図れるだろうし、お客も喜ぶと思うんだ。それに毎日冒険で疲れてる冒険者達の体力回復はもちろんのこと、普段絶対に宿泊しない街の人にも開放すれば喜ぶんじゃないかな? それに『宿屋代』と『入浴代』として、二重の収益を得ることだってできるし、女の子なら毎日お風呂に入りたいでしょ? なら安定的な収入源になると思うよ。違う?」
(そりゃ~もう、人間欲望のためなら何でも頑張りますよ。それが男のエロティックな事柄なら、尚更な!)
俺は自らの欲望実現のため、シズネさんに対して普段使わないような理論的で綺麗な言葉を並べ立てた挙句、名も実利も同時に得られると温泉のメリットを必死に説明した。
「うん。それもそうですね! 温泉があればより宿屋に泊まる人が増え、街の人達も温泉を利用するでしょう。それに常時だと人員も手間もあまりかかりませんし、それになにより収入も増えますよね♪」
「だろ! やっぱり、温泉は良いよね~」
「おおっ!! 本当に温泉を作るのか!? やったぁ~♪」
「もきゅ~っ♪」
みんな俺のアイディアである温泉設置に賛成のようだ。やはり女の子はみんな温泉好き。俺ももちろん、混浴的な意味で大好き♪
「ふふっ。皆様子供のようにはしゃいでますね。まぁ……例えそれが本当の目的が旦那様の欲望を実現するためだったとしても、読者サービス的観点からも温泉を作ることには賛成ですよ♪ ニッ♪」
「…………」
(なんだよ、シズネさんには全部バレてやがったのか? バレた上であえて俺を泳がせていやがったのかよ……)
どうやら俺の浅い思惑なんて、シズネさんにはバレバレだったようだ……。
そのうち温泉の話を描こうかなぁ~、などと微エロ感を漂わせながら読者を期待させ話をいつまでも引っ張りつつ、第50話へつづく
※薪=まき・たきぎ=主に廃材などの木材を利用し、お風呂のお湯などを沸かすために使われる。旅の途中では『火起こし』とも呼び、暖をとったり、調理や獣を寄せ付けないなど
※風呂に入れるのはめったなことではない=今でこそ、毎日お風呂に入れますが、大昔は1年に1度入れれば良い時代もあったらしい




