第42話 ダンジョンでも、リサイクル精神だけは忘れずに!
「さて、朝食も終わりましたね。まずアマネは店内を箒で掃き、その後店の外を掃いてください。それが終わりましたら、テーブルの雑巾掛けをお願いします」
「ふむ、分かった。ならここは勇者らしく魔物を一掃する気持ちを抱きながら、正義感溢れる掃除を披露してやるぞ!」
朝の食事を終えるとシズネさんはさっそくアマネへと指示を出し始めた。アマネの役割は接客が主なので必然的にホール仕事のようだ。
「それで旦那様はまずこの食べた食器を全部洗い場まで運び、そして倉庫に行き食材の整理をお願いしますね。それが終わりましたら、厨房にて野菜を切るなどの仕込みをしていただきますので……」
「うん、分かった」
聊か俺の仕事量が多いようにみえるが、それも致し方ない。男は俺一人だし、単純仕事の方が性にあっている。
「もきゅもきゅ」
「あっ、もきゅ子ですか。貴女はそうですねぇ~……」
もきゅ子はシズネさんのスカートを引っ張り、「私は何すればいいのぉ~」っと俺やアマネと同じように指示を欲しがっているようだ。
「うーん。それでは昨日と同じく、外で客引きをお願いできますかね? あっでも開店まで時間がありますので、それまでは自由にしてていいですからね。そこいらで可愛らしい愛想でも振舞っててくださいな♪」
「もきゅ!」
「(もきゅ子への指示だけ、あまりにも雑すぎるんじゃないのかなぁ……あれはいいの?)」
もきゅ子も仕事ができるのが嬉しいのか、元気に右手を挙げて応えている。だがそこで一つの疑問が生じていた。その疑問とは……。
「あの、シズネさんシズネさん。ちょっと質問があるんだけどさ、今いいかな?」
「えっ? あ、はい。何か御用ですかね、旦那様?」
俺は箒を取りに行ったアマネに聞こえぬよう、小声でシズネさんに声をかけた。
「そもそももきゅ子って、現魔王様なんだよね? ならさ、こんなところに……いや、こんなところって言うのも変なんだけどさ、ウチの店に居てもいいわけなの? 昨日だって俺の隣で寝てたしさ……」
そう読者の皆なんかとっくの昔に忘れているだろうが、もきゅ子は現魔王様役なのだ。本来ダンジョン奥深くにいるべき存在の魔王様が、このような街中のレストランにいつまでも居るのはマズイのではないか? そう疑問が湧き、これまた元魔王様であるシズネさんに聞いてみることにしたのだ。
「ああ、それなら大丈夫ですよ。そもそもそんなダンジョン奥深くまで辿り着ける冒険者などあまりいませんし、それにちゃ~んと魔王の間にある王座のところに『魔王様は現在留守にしております。またのお越しを魔王軍一同、心よりお待ちしております。尚、急ぎのご用件がある方はお近くにおります従業員に何なりとお申し付けくださいませ……』などと、あまったチラシの裏側に書いて張り紙をしておりますので……抜かりはありませんよ♪」
「…………いや、それはあまりにもダメすぎるだろ。そんな大事な文言を適当に書くんじゃねぇよ。それは色んな意味で抜かしちゃってんだよ」
「(そもそも冒険者達は、ダンジョン内に落ちているアイテムや魔王討伐がメインでダンジョンに来るわけなんだろ? それが不在だなんて……そんなのアリか? あと魔物って雇われ従業員だったのかよ。もうその勢いだとギルドやクランなんかで、普通に仕事募集とかで集められてるレベルだぞ)」
「ちなみにさ、そのダンジョン奥にいる魔物ってどんな感じなの? もきゅ子みたいなのがたくさんいるのかな? それとも人間型のサキュバスとか? もしくはジズさんみたいなドラゴンかな?」
俺はちょっと興味本位でそんなことを聞いてみた。ちなみに『サキュバス』とは人間を夢の中で快楽へと誘う夢魔であり、女型はサキュバス。男型はインキュバスと呼ぶ。
『女型サキュバスの代表格:リリス』
『男型インキュバスの代表格:リリン』
「あーっ。そういう方々もおりますが、何しろ見た目栄えするように基本ビジュアル重視で雇い入れますと、どうしても賃金が高くなってしまいがちになりますので、今はこんなのばかりかもしれませんねぇ~」
『…………誰だ、このおっさん!?』
「……怖っ!? いきなりどうしたんだよ、おいっ!? 可愛い系から一転、劣化が著しく激しいぞ!? ってか、どこを見つめてやがるんだよ。普通に怖すぎんだろうがっ!!」
「そうですね~、まぁこちらの方はそこらで朽ち果ててしまった元冒険者達なので、雇い入れの賃金が安いと言いますか……ぶっちゃけ無料なんですよ。それにほら昨今はいくら魔王軍とはいえども環境問題について、やいややいやっと煩く言われてますのでエコロジーに力を入れていると言いますか……リサイクル精神旺盛みたいな感じになっているのです! じゃないと潜りに来た冒険者達からクレーム入れられてしまいますしね。ほんっと嫌な世の中になったものですよ、はぁーっ」
「ま、魔王軍も色々と大変なんだね……」
「ほんとそうですよ! それにダンジョンは地下なので、まったくと言っていいほど光が差し込みませんからソーラーパネル等を設置するわけにもいきませんしね! そこらの民家からこっそりと電源ケーブルを引っ張って、電気を奪うことでダンジョン内の電気需要を確保しております」
そう説明をするシズネさんはやや溜め息をついている。きっといくら人間の敵、魔王軍といえど地球環境を念頭に置くのには疲れるのかもしれない。あとあんま、挿絵導入システムで遊ぶんじゃねぇよ。そっちの方で読者からクレーム来ちまうだろ……ったく。
今日も今日とて、まったく物語が進まずに話数と文字数を重ねつつ、お話は第43話へつづく




