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第2話 交渉と提案と妥協案

「オラっ! そこのてめえもコイツを食いやがれっ!!」

「もがもが……あっつーう!? ~からの……ウマーっ!!」

「……なんだよこれは?」


 俺は目の前に広がっている光景を目の当たりにし、ただただ戸惑うばかりである。


 それもそのはず、カワイイメイドさんがナポリタン片手に自分より遥かに大きな体の山賊達に襲い掛かっていたのだ。そして地面のそこらかしこには、熱々ナポリタンの犠牲になりお決まりの定型文(コピペセリフ)を発し、幸せそうな顔をした山賊達が転がっていた。


「てめえで最後だっ……オラッ!!」

「もがっ……ぷしゅ~っ」


 パタリッ。そして数十人いた山賊達はたったいま、最後に残されたリーダー格の口にナポリタンを突っ込まれ倒されてしまった。だがやはり、その中でもリーダーはだけは特別仕様なのか、それまで他の山賊達が口にしていたコピペセリフとは違うセリフを口にしていた。


挿絵(By みてみん)

「は~い♪ それでは皆様のお食事も終わったようですので、そろそろお代の方を頂きますね♪ あっ、はい。お一人様当たり『2シルバー』ずつになりま~す……(ごそごそ)ありがとうございましたー♪ あっ、はいはい。貴方もですね~……(ごそごそ)ありがとうございやしたー♪」


 オーナーだという目の前の少女は、地面に倒れ転がり、一切の反応を示さない山賊達に声をかけると、勝手にその服へと手を突っ込み、そして懐から「これがナポリタン食った代金だからな!」っと言った具合で、茶色の麻袋の財布ごと(・・・・)強奪していたのだ。

挿絵(By みてみん)


「いやいや、どこが『2シルバー』だって言うんだよ。完全にボッタクリの店じゃねぇかよ……」


 この辺りのレストランでは、食事一人前に付き『2シルバー』は妥当な価格である。だがしかし、それはあくまで『お一人様に付き……』という枕詞が付属されるのだ。その枕感を例えると、もはや枕営業も真っ青といった具合かもしれなかった。


 だから強引とはいえ、山賊一人から代金を貰うのは正論かもしれない。でも全員から料金を、そしておそらく全財産であろう財布ごと強奪するのは、普通の店でないことは確かだった。


「おいおいマジかよ……」


 そして後に残されたのは、ちょびっとだけ鉄皿に残ったナポリタンを持っている少女と、その光景をただ眺めていた俺だけである。


「おやおや~、どうやら背景(モブ)風情が最後に残ったようですね。……で、アナタはどうしますかね? このナポリタンを口へと強引に突っ込まれて初めて(・・・)を奪われてしまうのか、それとも……」

「(ごくりっ)そ、それとも……なんだって言うんだよ?」


 俺は蛇に睨まれた蛙のように、生唾を痛いほど飲むと、目の前にいる少女から目を離せなくなっていた。きっと今し方見た、山賊達の末路に対する恐怖もそうなのだが、彼女の目が尋常ではなかったからだ。


 声は明るく軽い感じなのに、目だけはまるで猛禽類が獲物を狙い定め、鋭い爪で既に捕獲し終えて後は食べるだけ……っと表現したいほどであった。正直、今まで生きてきた中でこれほど恐怖を味わったことがなく、意識的に、また無意識的に体全体が小刻みに震えているのを嫌でも自覚してしまうのだった。


「ふふっ。そのように怖がらなくても大丈夫ですよ。何もアナタを食べるつもりはありませんので。先程のやり取りを見ていらしたのなら理解していると思いますが、実はワタシ、料理が『ナポリタン』しか作れないんですよ」

「……あ、ああ。知ってるよ」


 少女は自分を怖がる俺に対してまるで安心させるよう、視線を外すとそんな風に優しく語り掛けてきた。だが、それでも俺は警戒を緩めることはなかった。未だ話の途中であり、またワンド付きのナポリタンを口に突っ込まれる代わりに、どんな難題を突きつけられるのか、検討もつかなかったからである。


「そこでアナタに頼みたい事というのは……ワタシと共にこのレストランを経営して欲しいのですよ。今はまだ小さなお店なのですが、将来的にはこの世界(・・・・)で一番のレストランにするつもりなんですよ」

「俺と一緒にこの店を経営していくって言うのか? しかもこの世界で一番ってのは大きく出たもんだな。はんっ! そりゃまるで夢物語みたいな話だぜ!!」


 俺は少女の大言壮語すぎる軽口に呆れ返るようにそう言い放つ。だが少女は顔色一つ変えぬまま、自信満々に言葉を続けるのだった。


「ふふっ。確かに今はまだ夢物語ですね。ですが、どうせ夢を語るなら大きい方が良いじゃないですか? ワタシはこのお店を……レストランの最高峰である三ツ星☆☆☆(トリプルスター)SSSランクに仕立てるつもりなんです。そのために力を貸してください。まぁもちろん当面は人手不足なため、貴方も私も主な業務(仕事)は『料理人(コック)』として、ですがね。ふふふふふっ」


 少女はそれだけを告げると、何が可笑しいのか笑っている。


「俺が……料理人(コック)にだって? アンタ、本気で言ってんのかよ?」

(普通、そこらを歩いてる背景(モブ)にそんなこと言うかよ? ましてや、こんなうまい話(・・・・)なんて……)


 いきなり突拍子もない話を振られてしまい、俺は心底戸惑ってしまうのだった。共同とはいえ、レストランの経営をするということは、少なくとも今までのような『冒険者』という不安定な職から救われ、食いっぱぐれが無くなるということだ。


 だが、それと同時に不安もあり、少女に質問してみることにした。


「あの……何で俺みたいなモブに声かけてきたんだよ? 他にも……ほら、アイツとかいるだろ?」


 俺はそこらを歩いている同じ役割の通りすがりのモブ男を指差しながら、何故自分を選んだのかを聞いてみた。


「……いいえ、アナタでなければいけません。何故なら……」

「(ごくりっ)な、何故なら……」


 俺は息を呑み、少女の言葉を待つ。


「何故なら、アナタのような背景の中のゴミ背景(モブオブモブ)……つまり『モブの王様』ならば、今作のメインヒロインであるワタシの良き引き立て役になるのでは? っと思いましてね。それに……既にあらすじにてアナタについてを書いてしまったので、ぶっちゃけ今から変更するのは面倒なのですよ」


「……要は俺が選ばれたのって、制作上の手抜きが理由なんっすかね?」

「はい♪ あっ……い、いえ……こほんっ。きっとアナタが選ばれたのには、何かしらの理由があるはずでございます♪ うんうん」


 目の前の少女はさすがに自分の言動があまりにもあざとすぎると勘付いたのか、途中区切るようにわざとらしく咳をすると、打って変わった満面の笑みでフォローの言葉と共に頷いていた。



 常に制作上の手抜きの心を抱きつつ、第3話へと猛進する。

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