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元冒険者と元魔王様が営む三ツ星☆☆☆(トリプルスター)SSSランクのお店『悪魔deレストラン』~レストラン経営で世界を統治せよ!~  作者: 雪乃兎姫
第4章 初めての客とありえない注文

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第30話 アヤメ式強さの価値観と勘違いの裏表。

「ちょ、ちょっと待ってください。この方はワタシの旦那様なのですよ! それを……」

「それを知っていて、でしょ? ええ、だからこそよ。それにその子だってとても懐いているし、私達としてもそちらの方が都合が良いのよ」


 シズネさんは慌てた様子で横から口を挟むが、マリーは「ふっ勝ったわね」っと勝ち誇った表情をしている。どうやら先程の仕返しまでも、含まれているのかもしれない。


「都合が良いだって? それってつまり……」


 俺はマリーの言い方に少しだけ引っ掛かってしまう。

挿絵(By みてみん)

「あら、これは言葉が悪かったわね。気に触ったのならごめんなさい。でもね、私もギルドを束ねる(おさ)なのよ。伴侶も必要だし、当然後継者だって欲しいのよ。ま、後はそうね……周りが口を閉ざす『男除け』も兼ねているかしらね」


 全然悪びれた素振りをせずにマリーは謝罪の言葉を口にした。どうやら俺の立場は名目上の夫と言う意味らしい。


 きっと彼女のような立場では、常に傍で支える伴侶つまり夫の存在が欠かせないのだろう。またその後継者だって若い内にいれば、それだけ安定した権力を維持する事ができるので、周りだって安心する。


「要は……俺を夫にするのは、口減らしって意味なのかよ?」


 ここでも俺をモノのように扱われてしまい、俺は少し声に影を落としてしまう。


「ふふっ。あら、勘違いして欲しくないわね。もちろんそれも()だけのことなのよ。傍にいれば貴方という存在を知る機会も当然増えるでしょうし、もしかしたら好きになるかもしれないわね。ふふっ。もしも私自身が欲しいというのならば、惚れさせてみなさいな!」

「そっか。そういう意味だったのか……」


 要は周りから「早く後継者を! 伴侶を!」などと言われないため俺を夫にするようだが、互いを知る機会が増えればそれが現実になるかもしれない。そしてそのためには、マリーを本気で惚れさせれば妻になってくれるようだ。


「……にしても、すっげぇこと考えるな。それに自信も……」

「これくらいは当然のことよ。それに自信だけでなく、ちゃんとした実力だって兼ね備えているわよ(む、胸は小さいのだけれども……)」


 さすがはギルドを束ねる長と言うべきなのか、まだ若い少女がこれだけのことをしているのにも何故か納得できてしまう。そして自らの胸についてだけでは、自信無さ気の小声だった。


「じゃあアヤメさんも……」


 俺はマリーの言ってることが冗談ではないと理解し、アヤメさんの話を切り出した。


「私もお嬢様と同じ気持ちですね。貴方がどうゆう人間かを傍で見極めたいと思っています。あと私よりも強くなってもらえば、もしかするとお慕いするかもしれませんね」

「アヤメさんよりも強くって、そんな無茶な……」


 アヤメの実力は確かめるまでもなかった。


挿絵(By みてみん)

 彼女の身のこなしと体全体から滲み伝わる雰囲気(オーラ)、それに自分自身を信じる自信とその余裕。そのすべてがシズネさんが持ってるモノと同じだったのだ。これで彼女が弱いわけがない。その彼女よりも強くなるというのは、俺などでは無理難題と言えるだろう。


「ふふっ。少し誤解をされているかもしれませんね」

「誤解?」


 アヤメさんは俺の困惑の表情から、まるで心の内までを見透かしているように言葉を続ける。


「何も私が男性に対して求める『強さ』とは、単純な『武力()』だけではないのですよ。男性が女性を守る強さ、また人としての強さ……強さとは一口に言っても様々です」

「武力では無い強さ……か」


 俺はアヤメさんの言葉を噛み締めるように呟いた。彼女が求める強さというヤツが、なんとなく理解できた。


「えぇ。少なくともその子は貴方を慕っているでしょ? つまりはそういうことなのですよ」


 アヤメさんはそう言いながら、俺の右胸に抱きついているもきゅ子を口元を緩め優しい目を向けていた。


「……もきゅ子」

「もきゅ~?」


 名前を呼ばれたもきゅ子は「な~に~?」っと、首を上へ向け俺を見ていた。


「…………」

「(じーっ)」


 互いに一言も発せぬまま、もきゅ子の円らな瞳と目が合ってしまう。くすみが一切(あお)い色、まるで何かに吸い込まれるように綺麗だ。


挿絵(By みてみん)

「もきゅ!」

「あっ、いや……何でもねぇよ」


 もきゅ子はずっと黙ったまま見つめている俺が不思議だったのか、沈黙を破るように右手を挙げ鳴いた。俺は我に返り、少しだけもきゅ子から視線を外してしまう。


「強さとは……何かを倒すものではなく、自分の大切なものを守る『想い』だと私は考えています。それが私の求める、貴方への強さなんです」

「大切なものを守る……想い」


 アヤメさんはそっと俺達から視線を外すと左腰に携えている武器に目を向け、更に言葉を続けた。


「えぇ。武力で相手を屈服させるのは容易です。ですがそれでは、何の意味も持ちません。人だけでなく、魔物でさえも想い労わり、そして守ることができる。それこそが『本当の強さ』なのではないでしょうか? あっ……ふふっ。どうやら少しお説教染みてしまいましたね。すみません」

「あ、いや、お説教だなんてそんなこと……」


 アヤメさんは気恥ずかしかったのか、少し頬を赤く染め謝罪の言葉を口にする。俺は説教どころか、むしろ為になる話しを聞いたと思ってたほどだ。


「よかった……。なら、貴方は貴方なりの強さを見つけてください。もし貴方を襲う(やいば)があるならば……私は貴女を守る剣となり、その刃から貴女を傍でお守りいたします」


 アヤメさんはそっと武器に右手を添えると目を瞑り、そして少し間を置いて、俺に優しく微笑みかけながらそう言ってくれた。それはまるでプロポーズとも思える、そんな言葉にも思えてしまった。


「(にこにこ)」


 そして彼女はまるで親愛の証と言わんばかりに右手を差し出し、にこやかな笑顔と共に俺へと握手を求めてきた。


「もきゅ……」

「アヤメさん……」


 俺は座り右手を差し出している彼女へと近づく。右手はもきゅ子で塞がっているため、失礼ながら左手を差し出すことに。


「アヤメさん。俺さ、貴女の期待に応えられるよう頑張ろ……」


 俺は少し照れながらに、彼女の右手を受け取ろうとした。だがしかし、である。


「あ、あれーっ?」


 スカーッ。……えっ? 俺の差し出された左手は、アヤメさんの手を握ることなく、酸素と二酸化炭素また水素などが大半を占める混合物、つまりは『空気』と握手をする形になってしまう。それと同時に俺の胸元から短く赤い手が伸び、アヤメさんの右手と握手をしていた。


「これからよろしくお願いしますね、お嬢さん♪ 貴女のことはこの私が命に代えても守りますので」

「もきゅもきゅ♪」


 アヤメさんともきゅ子は少し照れながら、仲良さそうに握手をしていたのだ。


「(いや、ま、確かにアヤメさん途中から『貴()』ではなく、『貴()』って言ってたんだよね。途中誤字なんだろうなぁ~って淡い期待してたけどさ、まさかそれがもきゅ子を指していたなんて……そんなのアリありかよ……)」


 その頃、俺はというと所在なさ気な左手を差し出したまま、固まってしまっていた。どうやらすべては、俺の一人勘違い祭り(フェスティバル)だったようだ。


「おや、どうされたのですか? 左手などを差し出されて? もしや何かあったのですかね?」

「もきゅ~っ?」


 今なお、握手をしている二人はそんな所在なさ気な雰囲気を察したのか、左手を空虚にも差し出している俺を不思議そうな顔で見ていた。


「あ、いや……」

「(ニヨニヨ)あらあら~、旦那様。これはこれは……」


 俺の隣に妻であるあの悪魔が歩み寄り、「こりゃ、面白い見世物だわさ。えっ? なになに、その左手はどういう意味? シズネ、分からな~い♪」っと言った感じのニヤケ顔をしながら、何かを言おうとして途中で止めた。きっとそっちの方が面白くなると、判断した結果なのかもしれない。


「(チクショーめっ! 結局こんな結末が待っていやがったのかよ!! あとシズネさんもそこで敢えて止めるんじゃなくて、ちゃんと突っ込んでくれよ。何だか俺が勘違い野郎の痛いヤツになっちまうだろ)」


 俺は居た堪れなくなり、その場から逃げ出そうとするがもきゅ子がアヤメさんと握手をしているため、どうすることも出来ず動けない。


「あっ……冗談ですよ、冗談。……ね?」

「きゅ? ……きゅ!」


 アヤメさんももきゅ子も空気を読み、俺をフォローしようとしていた。逆になんだかそれが俺の勘違いの惨めさを助長するのは、もはや言うまでもない事だろう……。



 常に勘違いする心を胸に抱きながら、お話は第31話へつづく




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