第29話 トラブルの解決方法と、新たなトラブルの始まり勃発!
「ふふふふふっ。さぁここ書かれている文字をお目目かっぽじって、よぉ~く見てみなさいなぁっ!!」
シズネさんは自信満々っといったドヤ顔とドヤ声を決め込みながら、メニュー表のとある一部分を指差していた。いや、だからお目目かっぽじっちまったら、何も見えねぇだろうが……馬鹿なのかよ。
「こ、これって……」
俺も改めて書かれている小さな文字に注目することに。するとなんとなくだがシズネさんが言いたいこと、そして彼女の自分棚上げ理論を嫌でも理解してしまったのだ。
「し、シズネさん。もしかして……」
そこには『(より)』が赤い罫線で消され、『(かもしれない)』っとかもしれない運転チックな文字が躍り出ていた。
「えぇ、えぇ! そうです、そうなんですよっ!! 確かにオプションは10万シルバーなのでしょうが、けれどもナポリタンの代金は『2シルバーかもしれない』と書かれています。つまりはこれは時価とも受け取れる表現方法なのですよ! ですので、金貨一枚程度ではとてもとても……」
シズネさんは「おっ! ようやくてめえらも、あたいの意図を理解しやがったな。まったく世話かせさせやがってからに……今後はもっと注意して値段のとこ見ておけよな!」っと言った傲慢な態度で、ナポリタンの代金は金貨一枚では足りないのだと述べていた。
はっきり言って屁理屈も屁理屈、こんな開き直りの仕方は初めて目にした。それはこの国を動かしている大臣の不正がバレてしまい、法的条文の解釈によってどうにか自分なりの罪を帳消しにしようと画策するかのようも思えてしまう。
「(おいおい、こんな屁理屈なんかで誰が納得できるっていう……)」
「そうね。確かに貴女の言うとおりかもしれないわね……ならば、その時価とやらの値段はいくらかしら?」
またまた俺の心理的描写を全否定するかのような意見が、マリーによって紡がれ疎外されてしまう。
「そうですねぇ~。ナポリタンお二つなので合わせて100万シルバー……なんてのはでしょうかね? ふふふふふっ」
シズネさんはピンっと右の人差し指を立てながら、「100万シルバーですよ♪」っと悪魔的微笑みを浮かべ、マリーに対してそう堂々と言い放ったのだ。
「ひゃ、100万ですってぇ~っ!? ぐぬぬぬぬっ」
マリーもマリーでその金額100万シルバーとは大いに予想外だったのか、驚きの声を上げながら両手を強く握り、そしてプルプルと震わせ動揺とも怒りともとれる行動を見せていた。
ま、尤もそれも本来なら4シルバーの代金をいくら屁理屈から来る時価価格とはいえ、100万シルバーも請求しようとするのは……いくらなんでもボリすぎである。
ちなみに100万シルバーとは、一回のお食事に換算すると50万回分に相当する金額である。ま、これを読んでる読者の方々は、自分達の世界的な価値観で計算してみてくれ。そうすれば、いかにこの金額がボッタクリなのかよくわかるであろう。
「ふふっ」
「っ!? あ、アヤメっ! いま貴女、私の事を笑わなかったかしら!?」
さすがにそんな二人のやり取りがあまりにも可笑しかったのか、今の今まで目を瞑り、一切口を開かなかったアヤメさんが少しだけ口元を緩めて笑い、声を漏らしてしまっていた。
「あっ、いえ。でもさすがにこ、これは……ぷっ。お嬢様……これはどうやら、我々負けのようですよ」
軽く握った右手を口元に当て、笑っていることを誤魔化そうとしていたアヤメさんだったが、「これ以上は埒が明きませんので……」と降参するよう主であるマリーに進言する。
「はぁーーっ。確かに……そう、ね。100万シルバーが出せないわけではないのだけれども、どうせ貴女のことだから用意したらしたで、また価格を吊り上げるつもりなんでしょ? 正直、こちらとしても暇でないのだから、そんなお遊びに付き合いっていられないのよ」
マリーはそんな大きな溜め息と共に両腕を前で組むとバツが悪いのか、そっぽを向きながらもきゅ子を買い取る事を断念してくれた。
「えっ??? あ、あの別にワタシはこれ以上価格を吊り上げるつもりは……って、うん?」
シズネさんは「あれ? 変だなぁ~、どうにも彼女と上手く話が噛み合っていないぞ? これはどういうことなんだ?」っと言った面持ちで、そっぽ向いているマリーに右手を伸ばしたが当然の如く、その手は空を切ってしまう。
「……ああっ! そ、そうでそうです! くくくっ、あ~っはっはっはっはっ。ようやく貴女方も観念したようですね! そそそそ、そもそももきゅ子をカネで買おうと言う気持ちが傲慢なのですよ! 恥を知りなさい恥を! ……(ちぇっ)」
そこでようやく話の流れを理解したのか、魔王様口調になりながらシズネさんもまたもきゅ子を売り飛ばすことを断念した様子である。何気に後半付近から言葉を詰まらせ動揺し、そして最後は口を少し尖らせて残念そうに舌打ちしたのはきっと気のせいだろう。
「(おっほぉ~っ♪ シズネさんが自分棚上げしまくってやがるぜぇ~♪ もきゅ子をカネで買おうってマリーもマリーだけどさ、そもそも事の発端はあのメニューを書いたシズネさんなんだぜ! それをよくもまぁマリーを悪く言えたもんだわな。ってか絶対途中まで、もきゅ子を売り飛ばす気満々だったんじゃねぇかよ、おい!!」
俺は我妻であるシズネさんを心理描写を用いて、褒め称えることにした。まぁそれも良い意味ではなく、完全に悪い意味で褒めたのだが。
だがこれでようやくもきゅ子を売らず、また店も更地にしなくて済んだのだ。だから強引とも言えるシズネさんの屁理屈、自分棚上げ理論には、感謝しなくてはならないのかもしれない。
「シズネさん、ありがとう……もきゅ子を助けてくれてさ。ほんとシズネさんじゃなきゃ、どうなっていたことか……」
「もきゅ! もきゅ!! もきゅ~っ!!」
俺はシズネさんに近寄り、そんな感謝の言葉を並べ立てた。またもきゅ子も自分を売り飛ばすことを断念してくれた事を喜び、俺の胸元からシズネさんへ向け移り渡ろうと必死に手足をバタつかせていた。
「い、いえ……こ、これくらいの事はととと、当然です、はい。何せもきゅ子はウチの、え~っと、そのぉ~……か、可愛らしいマスコットなのですよ!! 誰がそのようなははは、はした金で売り飛ばすものですか! ええっ、そうですともっ!!」
シズネさんもまたマリー同様にバツが悪いのか、俺達が近寄ると居心地悪そうに首を横に向け動揺しながら、どうにかこうにかそんな言葉を搾り出していた。きっと彼女も必死なのだろう……誤魔化すのに。
「ふっ。貴女達、本当に仲が宜しいのですね。ちなみに先程からそこに突っ立っている殿方はもしや、貴女の……」
アヤメさんは俺達のそんなやり取りを微笑ましいと口元を緩めながらも、もきゅ子が懐き、そしてシズネさんと親しそうに話している俺へと注目していた。
「あ、あの俺は、その……」
(どうせアンタも俺の事なんか背景とか、ゴミクズとかってディスりやがるんだろ? もう既にワンパターン化してんだぜ。何を今更驚くことがあるよ? それなのに……)
俺は諦めとも落胆とも言えぬため、言葉を詰まらせてしまう。
「……想い人、なのでしょうか?」
「へっ? お、想い人……ですか?」
アヤメさんは女の子らしく両手を合わせ「あ、あれ? 違いましたかね?」っとこの俺にさえ敬語を使い、すごく気を使っていた。
「(正直……俺……このお姉さんに惚れたわ。さっき斬られそうになったけど、つり橋効果ってヤツかもしれん。ってか、こんなお姉さん系美人さんに嫁になって欲しいわ!!)」
そんなアヤメさんとお目目が合うと互いに見つめ合い、なんだか余計胸が高鳴ってしまう。
「だ、ん、な、さ、まぁ~~~っ!!」
「あててっ!? し、シズネさんっ!? い、痛い、痛いってば!! ほにゃにゃにゃふぅう~っ」
シズネさんの地獄の底から来たかのような恨みが込められた言葉と共に、俺の左頬をうにょ~んっとお持ちのように引っ張られ、まともに喋れなくなってしまう。
「もきゅ? もきゅもきゅ♪」
「も、もきゅ子、てめえまで……ほにゃうにゃうにゃ」
遊びと勘違いしたのか、シズネさんを真似するようにもきゅ子も「えっ? なにそれ楽しそう~♪」っと俺の空いている右頬を引っ張り回していた。
「旦那様? あっ、お二人は夫婦でしたか? 何だか良いですね~♪」
アヤメさんは恋する乙女のような憧れとも取れる眼差しで、俺とシズネさんを「素敵ですね~♪ 私もいつか殿方と……(照)」などと意味深な事を呟き照れていた。
「へぇ~……コイツ、アンタの旦那なの? へぇ~へぇ~」
また先程まではまったく興味を示さなかったのに、俺がシズネさんの旦那様と聞いた瞬間、まるで値踏みするように上から下までじっくりと観察してきた。
「ね、そこの貴方。私のものにならない?」
「はぁ~っ!?」
俺は突拍子も無いことを突然言われてしまい、驚いてしまう。
「そ、それってどういう……」
「どうもこうもないわよ。私の夫にならないかって話よ。何よ、私じゃ不満なの?」
シズネさん、もきゅ子もそれには驚いたのか、俺の頬からパッっと手を離すと、そのままの体制で固まっていた。
「いや、不満も何もキミとはさっき会ったばかりじゃないか。それを……」
っと言いながら、俺は再度言葉を詰まらせてしまった。何故ならそれはシズネさんも同じだったからだ。まだ会って数時間も経っていないのに、仮とは言え夫婦なのだ。だからこそ、この子が言ったことに余計驚いてしまった。
「どうやらその態度なら、別に私のことが嫌いってわけじゃなさそうね。なんなら……このアヤメを付けてもいいわよ。あっ、そうそう。別に貴方が愛人を作ろうと私は構わないわ。だって私がその中で一番なら、何の問題も無いもの。むしろ一人の女性しか愛せない男なんてのには、まったく興味ないのよ」
マリーはアヤメさんの手を取り、「なんなら夜の相手だって三人でしても良いのよ? どうかしらね?」っと俺を誘惑してきたのだ。
「……お前、本気かよ?」
「ええ、こんなこと冗談なんかで言うものですか」
俺はマリーの目を見て再度確認したのだが、マリーも一切目を逸らさずに「本気よ」っと答えた。
「いや、でもそんなのアヤメさんだって……」
俺は救いを求めるようにアヤメさんにマリーを止めるよう視線と言葉を投げかけた。だが当のアヤメさんはと言うと……
「私は別にそれでも構いませんよ。ですが、貴方が私の事もしっかりと愛してくれる、という条件付きですがね」
アヤメさんもマリー同様に、一切の曇り無き眼差し面と向かい俺へとそう答えてくれた。
「(おいおい、ま、マジかよ。何でこんなことになったんだ?)」
俺は戸惑いながらも、その場に立ち尽くすことしかできなかったのだった……。
いきなりハーレム路線が始まり、これも何かの伏線なの? っと思わせつつ、お話は第30話へつづく
※価値観=1シルバーは現実世界の日本円にすると約200倍の価値であり、ナポリタン1つ400円換算すると……ザッと2億円に相当する金額。ちなみに更地にするのには、約2000万だから強ち適当に決めた同世界通貨インフレも間違いでは無くてホッとした。
※つり橋効果=危険な場所で相手といるとその真理によって胸が高鳴り……いや、ぶっちゃけ惚れたわ!!




