第233話 ツンツン、ツンデレラ
「えっ? お、俺達がダンジョンへ行けっていうのかよ?」
「ええ、そうよ。私の話をちゃんと聞いていなかったのかしら?」
「いや、そういうわけじゃねぇけどさ……」
食事を終えたマリーからそんな突拍子も無い話を聞かされてしまい、俺は驚きを隠せない。
何故ならようやく平穏な日々という名の平和を手に入れたばかりなのに、再び危険と隣り合わせの地下迷宮へ行くようにと言われてしまったのだ。驚くなと言うほうが無理と言うもの。
「で、でも俺達は……ほら、店の仕事があるし……ね、シズネさん?」
「確かに宿屋や武具屋、そしてクランなどの新規事業を立ち上げたこの時期にそんなことを言われても……」
どうやらシズネさんも仕事がある手前、マリーの申し出に対して難色を示している様子。
「そんなことは言われなくてもちゃんと分かっているわよ! でもね、ギルドを運営……アナタ達の場合はクランらしいけれども、それを営むうえでこれは外せない重要なことなのよ。なんせ一つの組織を束ねるということは、それに精通していなければならないんだもの」
「あっ……ギルドマスターか」
「あら、ちゃんと理解しているじゃないの。ええ、そうよギルドマスター。ダンジョンに精通していない者が冒険者達にどうして仕事を派遣できるというの? 今はまだ新規開店という好奇心から人は集まっているようだけれども、いずれは一人、また一人……っと減っていくことになるわよ」
「なるほど……マリーさんの言い訳にも一理ありますね」
「言い訳って……シズネ、貴女はもう~っ」
どうやらマリーは俺達がクランを立ち上げたことにギルドを預かる者として、またギルドの長として苦言を呈しに訪れたようだ。
確かにギルドないしクランを統括する者が1番の要であるダンジョンについて、精通していなければいけない道理も納得できることだった。
ダンジョンに潜るということは遊びではなく、まさに生死をかけた命懸けの仕事なのだ。ただ依頼人と請負人との仲介をするだけが仕事ではなく、冒険者達の安全を確保するのも重要なことである。
「皆さん、誤解しないでいただきたいのですが……」
「えっ? ご、誤解……ですかアヤメさん?」
「はい。お嬢様は何も皆さんのクランに対して意地悪をしているわけではないのです。むしろ逆にクランの心配をなさっているから……」
「アヤメっ! 余計なことは言わなくていいのよ」
「あっ、す、すみませ~ん」
アヤメさんが尽かさずマリーのことをフォローしようとするのだったが肝心のマリー本人は照れているのか、彼女のことを少し強い口調で戒めた。
「ふむ。なるほど、要するにツンデレラのマリーさんはワタシ達、クランの行く末を心配しているから、わざわざ昼食を食べに来た体を装ってアドバイスに来てくれた……というわけなんですね?」
「誰がツンデレラなのよっ!! あ~も~う、分かったわよ。そうよ、そう。でもね、私は何もクランを心配しているから来たわけじゃないのよ。え、え~っと……そ、そう! ギルドのライバル的存在がいとも容易く潰れてしまうのが忍びなくてなのよ」
「そっか……マリー、ありがとうな」
「あ、アナタに感謝してもらいたいからとか……そんなんじゃないんだからねっ! ふ、ふん! (照)」
そうソッポを向きながらむくれるマリーの横顔は照れとも恥ずかしさともとれる朱に染まっていた。
俺は改めてマリーが良い女性なんだと思い、心の中で感謝の言葉を抱く。
「……ふむ。主殿よ、話は聞かせたもらったぞ」
「ウルフ? それにエルフィ達まで……俺達の話を聞いていたのか?」
「はい、ご主人様。お店のことなら、どうか私たちにお任せくださいませ」
ふと後ろを振り返ると、そこにはウルフを始めとする従業員のみんなが勢ぞろいしていた。
どうやら俺達がダンジョンへと赴かなければならない話を聞いていた様子。
「そうだよ、お兄さん! 料理ならボクとエルフィでなんとか回せるもん」
「そうさね。それにダンジョンに潜るっていうのは、なんと言っても冒険者の花じゃないかい。どうせなら一発ド派手に咲かせてみなよ。アリアもそう思うだろ?」
「ん~……まぁそれなりなら私は構わないわよ~」
「みんな……」
ジャスミンに呼応するかのようにアリッサとアリアまでもその意見に賛同してくれていた。
「わ、私もまだまだ至らないところばかりですが、ちゃ、ちゃんとシズネお姉様のようにクランを運営していけるよう努力しますから、マスターもちゃんとマスターになってきてくださいっ!!」
「ミミ……」
ミミも勇気を振り絞り自信満々とまではいかないまでも、どうにかクランを運営していくと約束をしてくれた。
「ついに私も勇者としてダンジョンへと行けるのだな!」
「おうなのじゃ! この聖剣でバッサバッサっと冒険者から村人までも斬り捨ててやるのじゃよ!」
「もきゅ~♪」
「アマネ……サタナキアさん……もきゅ子……」
初期メンバーであるアマネ達も、どうやらダンジョンに行く気満々と言った感じに興奮を覚えている。
そして若干サタナキアさんの言動が怪しいのだが、鞘に入れておけばたぶん大丈夫だと思う。
「シズネさん……」
「ええっ、旦那様っ!」
そして俺は最後にシズネさんの顔を見て、互いに頷くのだった。
「マリー……」
「……アヤメさん」
「ふふっ」
「はい!」
俺達は目の前に居るマリーとそしてアヤメさんの名前を互いに呼び、こう宣言する。
「「その申し出……せっかくですが、謹んでお断りさせていただきます」」
そう俺達夫婦は揃いも揃って、そんな断りの一言を口にしたのだった。




