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元冒険者と元魔王様が営む三ツ星☆☆☆(トリプルスター)SSSランクのお店『悪魔deレストラン』~レストラン経営で世界を統治せよ!~  作者: 雪乃兎姫
第7章 クランの設立と開業編

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第228話 本当に求めるモノとは……

「姉さん、そろそろ俺はこの辺で失礼させてもらうよ」

「うん? もう行っちまうのかい? せっかくなんだからもう少し話してたっても……」

「いや、ほんと言うと俺だってアンタらといつまでも武器について語りたいところなんだが、ほら何かと要り様でな。稼がねぇとならねぇんだわ」

「そうかい。それもそうだね。またいつでも来なよっ!」

「おうよっ!」


 屈強な男はバトルアックスを肩に背負うと後ろ手でアリッサの言葉に応えた。

 武器を新品にしていないにせよ、刃を研いでもらうということはそれなりに金がかかるということなのだ。彼も冒険者なのだから貯えなど当然無いに等しいはずである。これから一稼ぎするため、ダンジョンへと向かうことだろう。


「…………」

「なんだい、そんな悲壮感溢れる顔をしながらあの男の姿なんて追っちまってさ。ああ、そういやアンタも元は冒険者だったんだね。それでかい?」


 特にこれと言って意識していたわけではないのだが、どうやら俺はアリッサが言うように悲しそうな顔をして彼が去った後を見ていたらしい。


「……もしかしてアンタ、戻りたいのかい?」

「えっ? も、戻るってどこに……」

「いや、そんな顔してたみたいだからさ。アンタがもしかして冒険者として戻りたいんじゃないか……そうあたいが勝手に思っただけさね」


 まるで俺の心内を見透かすかのようにアリッサはそう言った。


「それで、どうなんだい?」

「……いや、分からない。自分がどうしたいのかも……」


 それが今の俺の率直な気持ちだった。


 実際、冒険者とは毎日博打に興じるような行為であり、明日の未来どころか今日のことすらも不確定な日々である。

 ダンジョンへ潜ったとしても何も得られる保証なんて無いに等しいし、いつ死ぬかも誰にも分からない。


 けれども、冒険者としてダンジョンに潜ることはそれ以外の『何か』を得るためなのではないかと思ったりもする。

 それが不安や恐怖心から得られるスリルなのか、それとも毎日を気ままに生活できる自由さなのか、もしくは命の危機に晒されることによる(せい)への実感なのだろうか……。


 それはとても愚かしくもどこか人としての生きがいを感じさせてくれる場所とでも言うべきなのか、そんな気持ちにさせられる……それを俺自身も望んでいるのではないか?


「ふん! 戻りたいって顔しながらな~にが分からない、なのさね。アンタは安定した生活を求めながらも心のどこかでは非日常ってヤツを欲しているんじゃないのかい? 違うかい?」

「……」


 図星を指された俺はアリッサの言葉に何も反論することもできなかった。


(本当にそうなのか? 俺は毎日が平和に暮らしていけることを望みながらも心のどこかではスリルや自由、そして命の灯火を感じられるのを求めていたのか?)


 ここに来て数ヶ月、初めて自分が何を求めているのか、そして何をすればいいのかと考えてしまう。


「ほらほらアンタ。この後はどうするつもりなんだい? いつまでもこうしてあたいなんかと話していたら、せっかくの休日を台無しにしちまうよ。どっかに遊びに出かけるなり、逢引するなりしてきなって!」

「それもそうなんだけどな……」


 アリッサからそう言われてしまい、俺は今日この日休日というものの扱いについてほとほと困り果てていたのだ。

 誰か一緒の休みならば共に過ごすことも考えられるのだが、生憎一日に二人同時に休ませることができるほど今のウチには余裕がなかった。


 こんなことなら、休み無く何も考えずに働いていたほうが精神的にも肉体的にも楽というもの。

 むしろそっちのほうが一日一日の時間の流れが早く感じ、充実しているのではないだろうか?


 俺はアリッサの問いかけに応えることができずに昼食を食べることで、その間に自分の中の考え方をまとめることにした。


「と、とりあえずそろそろレストランのピークも過ぎた頃合いだしさ、下で飯でも食べてから考えることにするよ。色々考えてもらって悪いけど……ごめんなアリッサ」

「ふん! 別にアンタの休日なんだい。勝手にしたらいいさね。それにイチイチあたいなんかに謝るこたぁ~ないさね」


 謝罪されることが照れくさいのか、アリッサは少し照れながらも「ほら、さっさとお行きよ!」っとまるで追い払うかのように俺の背中を押して一階のレストランへ向かうように言った。

 朝も食べず腹も空いたこともあって、俺はそのまま一階の道具屋を抜けてレストランへと戻ることにした。


「あら、旦那様ではありませんか。どうされたのです、そのように難しい顔をしながら……それにアリッサの所へ行ってお出でだったのですか?」

「シズネさん……」


 俺が考えあぐねながらも武具屋から降りて来るのを見ていたのか、シズネさんが姿を見かけるなりそう声をかけてきてくれた。

 なんだかそれが懐かしくも、どこか俺にとって必然のように思えてしまい、泣き出しそうになってしまう。



 第229話へつづく

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