第227話 戦闘時における武器の特色
「それはそうとアリッサとそっちの冒険者の人は何だか武器の手入れについて話をしていたみたいだけど……」
「おうよ! この間クランの嬢ちゃんに勧められて、ここの武具屋を訪ねたら姉さんに色々と相談に乗ってもらったわけだ」
「へぇ~っ。アリッサから武器のアドバイスを……」
俺はアリッサが武具屋で働いている姿を知らないため、その男の話に感心するよう頷きながらアリッサの方へ顔を向けた。
「べ、別にアドバイスってほどのものじゃないさね! ほら、武器一つ買うのにも大金がいるだろ? だから今持っている武器の状態を見せてもらって、それで刃を研ぎ直せばまだまだ使えるって言っただけだよ。そんなものアドバイスでもなんでもないさね!
「いや、それだって立派なアドバイスだと思うぞ。ね?」
「ああ、俺だって姉さんにそう言われなかったら、アックスの切れ味がただ落ちたからって新しい武器を購入するだけだったからな。ほんと姉さんには感謝しているぜ!」
「ふん! 別に褒められたってあたいは嬉しくともなんともないさね!! (照)」
嬉しくはないと言いつつもアリッサは、まるで俺達の視線から逃れるようにトレンドマークでもある海賊帽子で顔を隠してしまったのだ。
けれども帽子脇から覗く頬は少しだけ赤く染まっていた。
なんだかそんな言葉とは裏腹に、そんな行動を取っているアリッサのことが可愛いと思えてしまう。
さすがにそれを追求してしまうと、逆上してしまうと思った俺は別の話題を振ってみることにした。
「それにしても、アリッサにそんな特技があるとは思わなかったな」
「うん? ああ、意外だったかい? まぁ唯一あたいに出来る特技の一つさね。な~んて言っても、ただ砥石で研いでお仕舞いなだけで、誰にでもできることなんだよ」
特に偉ぶることもなく、アリッサはそう言って退けた。
「姉さん! ただ研ぐだなんてとんでもねぇっ!! 武器の刃ってのは、包丁なんかのそれとはワケが違うんだぜ! 切れ味なんかはもちろんのこと、獲物の肉からの抜き具合なんかも肝心なんだぜ!」
「抜き具合だって? それってつまり剣でいうところの切れ味のことか?」
「あっ、いや違うぞ。アックスにだって切れ味はあるしな。それにほらアックス……つまり斧ってのは、基本こう上から振り下ろして使うか、横から振るものだろ? その一撃で相手を真っ二つにできりゃ一番良いけれど下手に肉と骨との間に食い込んじまったら最後、これがまたなかなか抜けやしねえんだよ。そんなことが戦闘の真っ最中にでも起こってみろよ。みすみす大切な武器を手放しちまうことになるんだぞ」
確かにそんなことが戦闘の真っ最中にそんなことが起こってしまえば命をも左右することだろう。
それにアックスは普通の剣や槍などとは違い、刃が大きく金属を多く使うので値段自体も断然高くおいそれと買えるものでもないし、また重く大きいためもしもの予備に……なんて2本も3本も持っていけるわけではない。
「なるほどなぁ~。アックスにも剣と同じく向き不向きというか、得意不得意なことがあるんだな。俺はいつも扱いやすい剣ばかり使っていたから、ほんと他の武器のことは疎くて……」
「まぁそれも仕方ねぇことさ。俺だってアックスばかり使ってるんだぜ。むしろ何でも武器を扱えるやつなんてそうはお目にかかれねぇと思うぞ」
ガタイの良いその男の話を聞きながらアリッサも腕を組みながら「うんうん……」っと頷いていた。
実際戦闘などでは前衛ならば剣かアックス、後衛なら槍か弓の武器を使うのが基本である。
それとは別に魔法を使える者も当然後衛となるが、それを扱えるのは一部の人間だけである。
このように扱える武器により前衛と後衛が決まってしまい、基本的には変わらない。
またそれぞれ特徴的な役割をになっており、戦闘時において『後衛だから楽ができる・魔法使いだから安全である』という立ち位置は存在しない。
まず後衛は前衛にいる味方への援護攻撃と支援が基本である。
近づいてくる敵に槍を突き刺すことで前衛から遠ざけ弓もまた敬遠させる意味合いもあるが、後衛ならば前衛に守られているので少し余裕を持って戦況を判断できるため冷静になって攻撃したり作戦を考える指揮系統でもある。
そして前衛は剣やアックスを振るいながら後衛を守りつつも、敵を攻撃して後衛が援護攻撃や支援をしやすくする役割も担っている。
前衛後衛……それぞれ特徴があるが、基本的に味方がいる場合にはその連携が不可欠である。
それに前衛が怪我をして倒れたり武器が壊れてしまうなど戦況は常に変化しており、その都度後衛のいる味方も臨機応変に対応しなければ生き延びられない。
このように戦闘とは味方の協力なしには成り立たず、一人で冒険するというのは極稀なことである。
かくゆうこの俺も冒険者だった頃には頼れる仲間もいなかったため、なるべく戦闘を避けて逃げに徹していたからこそ今日この日まで生き延びてきたのだ。
これがもし本当に一人でまとうもに戦闘をしようものならば、俺はここに存在するしていなかったかもしれない。
第228話へつづく




