第225話 商品値引きの落とし穴について
「(そういえば勝手に値引きなんてしちまって大丈夫だったかな? 後からジャスミンに怒られるんじゃあ……)」
俺はウルフが来たときのジャスミンとのやり取りを思い出し、不安で仕方なかった。
「主殿どうしたのだ、そのような不安そうな顔をして? 具合でも悪いのか?」
不安が顔に出ていたのか、ウルフは俺を心配してそう声をかけてきてくれた。
「いや、ほら……ジャスミンがなんて言うかと思って、それで……」
「ははっ。何を心配しているかと思えば、そんなことだったか。はっはっはっはっ」
そんな俺とは対象的にウルフは笑っていた。
「いやいや、笑ってしまって悪かったな。なぁ~にジャスミン殿とて、主殿を褒めこそすれ、怒るなんてことはまずしないであろうから安心なされよ」
「そう……かな?」
「ああ、そうとも!」
自信満々にウルフに頷かれ、俺は少しだけ表情を和らげる。
「なんだ。本当に怒られると思っておいでなのか? ははっ。これは愉快愉快♪」
何が可笑しいのか、ウルフは先程よりも口を開け盛大に笑っている。
そして再度「安心なされよ。もし怒られることがあれば、俺が代わりに怒られる。ま、そんなことは絶対にないでだろうがな。はっはっはっ」っと俺の肩を叩いたのだ。
俺だけが「何でなんだ?」と不思議に思い首を傾げることしか出来なかった。
「……ところで話は変わるのだが、主殿はこのような所へ来てどうかされたのか? 確か本日は休日ではなかったのか?」
そこでようやく俺が何故道具屋マリーを訪れたのかと、ウルフから尋ねられた。
さすがに「一人寂しいから……」などとは口が裂けても言えず、今はちょうどお昼時なのでそれを口実にすることにした。
「あ、ああ実はお昼を食べようかと思ったけど、ほら見てのとおり混雑しているだろ? だから良い機会だから営業中の店を見てまわっていたんだよ」
「なるほど……。確かに普段仕事をしていれば、他の店を見て回れる機会はないであろうからな。ふむ。感心感心」
本当はいきなりの休日で手持ち無沙汰なだけだったのだが、それっぽい言い訳を口にするとウルフは「良い心がけだ」っと感心するように頷き、長いヒゲを撫でて喜んでいる。
「むぅ。本来ならば主殿に店の中を案内したいところなのだが、生憎と俺はここを離れるわけにはいかないのでな。すまんな主殿」
「いや、別にいいよ。それに俺が勝手に来ただけだし、適当に店内をブラって見させてもらうよ」
道具屋には他にも客が居る手前、客への商品説明でも無い限りはさすがのウルフと言えども、会計する場所であるカウンターからは離れられない。こんなとき店員が一人しか居ない店は不便と言える。
もちろん俺もそれを理解しているので、案内できないからと断りを入れてくれたウルフに対して、気軽に返事をしたわけだった。
道具屋での接客とはレストランの接客と等しく、基本的に『客待ちの仕事』である。
客達が欲しい商品をカウンターに持ってこなければ、物が売れない。けれども従業員がただカウンターに突っ立ってて、商品が自動的に売れるわけではないのだ。
だから何かしら行動を起こさねば、お店の経営は成り立たないというわけである。
もしお客が商品を購入するかどうかと迷っている場合、店の従業員は『どのような効果があるのか?』『そして使い道は?』『他の商品との質の違いや価格差』など商品説明をして販売促進をする。
実はこの商品説明こそ、道具屋や武具やにおける接客商売の要と言えるのだ。
それは先程の冒険者の男が良い例であろう。
客が購入するかどうかを迷っている場合には、その背中を押してやればいいだけのこと。しかし、この背中を後押しするというのが実に難しく、ただ「商品を買ってください」と言うだけでは押しが弱くため、客自ら買わざろうえない状況へと持っていくことが肝心である。
それにはまず商品を購入する『メリット』と『デメリット』を客達に明確に提示することが重要であり、またその話す順番もしっかりと構成しなければならない。
要するにマイナスからのプラスへ。悪い話から良い話へと持っていく交渉話術と演出が大事なのだ。
人間誰しも悪いことよりも常に良いことを望む生き物であり、その深層心理をより生かすためには良い話を敢えて後者へと位置づけることにより、更に印象深さを与えることができる。
先程の冒険者とのやり取りで例えるならば、デメリットは『客は既に薬草を持ち合わせている』こと。
逆にメリットは『もしもへの備え』と『余らせても次の冒険で使えること』それに『まとめ買いによる値引き』が当てはまることになる。
「もしかするとそれだけの数では足りないかもしれない……」などと客の不安を煽りつつ、仮に今回余らせても次の冒険で使えるうえ、今だけ・アナタだけの特別価格と銘打てば迷っている客ならば飛びつかないはずがない。
またこれと同じ意味合いの『セール価格』や『在庫処分品』、または『限定品』などの甘い言葉で客を誘うのもセオリーである。
けれどもそれらの謳い文句は、時に諸刃の剣と言えることもある。
一定期間行うセール価格やオープニング価格というものは、確かにお買い得である。
けれども一度安い値で販売してしまえばお客達は我がままなので、この次買いに来た時にも「今回もこの前と同じで値段にしろ! でなければ今後は別の店で買う!」などと言われてしまい、結局店側は価格を値切らざろうえなくなってしまう。
一旦そうなってしまえば利益度外視の販売をずっと続けてしまうことになり、最後には店が潰れてしまうことになるのだ。
だからこれを防ぐには先程のように『この場限りの特別価格』と名言もしくは明記するか、通常販売している品物……ウチの店で言えば薬草などがこれに当たるわけなのだが、それを避けて今後仕入れの見込みが無い売れない商品に限定して値引き販売すればいいだけである。
そうすることにより客からの不平不満を言われないで済み、また売れない品物の在庫処分もでき利益となり得る。まさに一石三鳥なのだ。
またメリットはそれだけでなく常に何かしらの品物をセール価格として販売すれば、宣伝しなくても自然と客達が集まるため、集客するための『餌』にしてもいいわけだ。
この他にも販売方法は数え切れないほどあるが、それは追々説明していこうと思う。
第226話へつづく




