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元冒険者と元魔王様が営む三ツ星☆☆☆(トリプルスター)SSSランクのお店『悪魔deレストラン』~レストラン経営で世界を統治せよ!~  作者: 雪乃兎姫
第7章 クランの設立と開業編

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第208話 頭を下げるその価値

「さっ、ミミさん、お早くお立ちになってくださいませ。そのように床へと座り込んでいるとお尻を冷やしてしまいますよ」

「あ、ありがとうございますエルフィさん」


 エルフィは未だ床へと座り込んでお尻をベタ付きにしている耳のことが不憫に思ったのか、立つように手を貸しながら声をかけた。

 そしてこうも付け加える。


「いえ。それに先程からご主人様の視線がミミさんの足へと向けられ、何やら視線をどこへ向けたら……っと、まるで獲物を狙う猛禽類のようになされておりますので、お早く」

「ふえぇぇぇぇぇっ!! マスタ~、見ないでくださいよぉ~。ミミを食べても美味しくありませんから~」

「み、見てねぇって!! エルフィも変なこと言うなよ! ほら、ミミ」


 俺はエルフィに心の内を見透かされてしまい、このままでは埒が明かないっと、右腕を抱えている彼女と一緒にミミの左腕を取って立たせてやることにした。


「うんしょ、っと」

「マスターもエルフィさんも力持ちさんなんですねぇ~♪」

「ふふっ。それはミミさんが軽いからですわ」


 まるで子供が親の両腕へとぶら下がり、遊んでいるような格好になってしまう。けれどミミはそれが楽しいのか、のんびりっとした感じで今も腕で持ち上げられている。

 そうしてようやくミミは自分の足で立ち上がると、俺達にお礼を言った。


「マスター、エルフィさん、ミミを助けてくれてありがとうございます♪」

「いえいえ♪」

「ああ、別にこれくらい……」

(それに良いものも見れたしな……)


 俺は若干そんな笑顔で礼を述べているミミの視線から逃れるよう、顔を背けてしまう。なんだか目を合わせるのが、ちょっと気恥ずかしかったからだ。


「あら、そういえばジャスミンさんは大丈夫なのでしょうか?」

「「あっ……」」


 そうだ。そうだった。色々なことがありすぎて、ジャスミンのことをすっかり忘れ去っていたのをエルフィの言葉で思い出した。


「そ、そうだぜ。二人とも早く追いかけようぜ!」

「「はい!」」


 俺達は今更ながらジャスミンの後を追い、二階にある武具屋へ向かうことにした。



「困ったな……そのように謝られては俺様も身の置き場所がないぞ」

「それでもだよ!」


 二階へと駆け上がり、槍が飾られているその前でウルフとジャスミンを発見した。どうやらジャスミンが先程の非礼を詫び、ウルフがどうしたいいのかと対応に困っている様子である。


「いやはや、本当に困ったことになったぞ……んっ? そこにいるのは主殿? 主殿達ではないか! どうしてそこに……いや、貴公からもこのお(じょう)へと言ってはもらえないだろうか?」


 二人の様子を窺がっていた俺達のことをウルフが見つけると、俺に向け謝罪しているジャスミンのことをどうにかして欲しいと頼み込んできた。

 ちなみにウルフが『お嬢』と呼んでいるのは、ジャスミンのことを指す言葉だろう。たぶんお嬢()という意味ではなく、お嬢ちゃん(・・・)と少し砕けた呼び方をしているんだと思う。


「あっ、お兄さん達も……」

「どうかしたか……って、今更それを二人に聞くのはなんか白々しいよな」


 ウルフのその言葉にハッとしたジャスミンがこちらを見た。


 そして少しバツが悪そうな顔をして、途中で言葉を止めてしまう。たぶん「お兄さん達も来たんだ……」そうジャスミンは言いたかったに違いない。それは気まずそうな顔をしている表情からも見て取れる。


「ふむ。主殿も事の詳細を知っておいでであったか。ならば、このお嬢を止めてはくれぬか? 先程から何度もこうして頭を下げ謝られ、困っていたところだ」

「いや、まぁそれは……」


 確かに何度も謝られるってのは、ウルフではないが身の置き場所を失ってしまうことだろう。俺だってウルフからそう話を振られ、対応に困ってしまう。


「なぁジャスミン。ウルフもこう言ってるんだから、もういいんじゃねぇのか? それにちゃんと自分の非を認めて謝ったんだろ?」

「ぅぅっ。そう……なんだけど、それだけじゃボクの気が治まらないというか……」

「むむむっ」


 どうやらジャスミンもジャスミンで、ウルフに対して謝罪することしか思いつかないと、何度も謝罪をしているらしい。

 ウルフも交え、俺達三人は「一体どうしたら一番いいんだろうか?」などと思い悩んでいると、そこにこんな救いの言葉が投げかけられた。


「それではウルフさんもジャスミンさんに謝りになったら、いかがでしょうか?」

「はっ? エルフィ、お前なに言ってんだよ……そんな訳の分からないことってあるか?」


 俺はエルフィがウルフにまでジャスミンに対して、謝罪するよう言っているのか全然理解できなかった。


「ふむ。それも一つの手……か」


 だがそんな俺とは対象的に、何故かエルフィのその言葉を聞いたウルフは納得するように頷いている。

 そしてなにを思ったか、彼はジャスミンの前に立つと信じられない行動に移したのだった。


「お嬢、俺のほうこそすまなかった。このとおりだ」

「っ!?」

「う、ウルフ!?」

「ウルフさんっ!?」


 ジャスミンだけでなく、俺もミミも驚きを隠せない。何故なら、ウルフはエルフィの言うとおり頭を下げ、謝罪の言葉を口にしていたのだ。


「なぜウルフがボクに頭を下げているの?」

「一体どうしてウルフが謝っているんだ?」

「ウルフさん、後ろの毛までもフサフサしている!?」


 俺達三人は同じ気持ちになり……いや、ミミだけは別の意味で驚いていたようだ。


「ウルフが謝ることないんだよ! だってウルフの意見を受け入れようとしなかったボクが悪いんだもん!」

「いや、俺のほうこそお嬢にもう少し配慮と言うべきか、言葉が足りなかったと今更気づいてしまったのだ。もし意見を述べるにしても、言い方というものがあったのだと反省している。このとおりだ!」


 二人とも互いに頭を下げ、謝罪の言葉と自ら戒めの言葉を口にしている。


 確かに言葉が足らず、またお互いへの配慮が足りなかったのも事実かもしれない。

 ウルフが言ったように意見を述べるにしても言葉を選ぶ必要もあるだろうし、ジャスミンも起用するかどうかはさておき、他者の意見として聞き入れる必要性もあったことは間違いない。


 互いに言い争うには簡単であるが、相手の意見を受け入れ、更にそれを生かすのは難しいものである。

 特に自分の能力に自信がある者ならば、余計にその傾向が強く、他者の意見を受け入れることはしないだろう。


 けれども生き残りを賭けた厳しい世界において、それは衰退を意味するのと同義である。

 何故なら世界は常に動き、絶えず変化を求めるものであるからだ。だから自分の考えだけに固執して、他者の考えを排除するものはいずれ遠からず滅ぶものである。

 

 人が二人以上集まれば喧嘩が起こり、三人以上集まれば戦が起こり得る。

 それは人の闘争本能でもあり、生存本能でもあるのだ。また争いを好むと同時に、それにより得るものがあれば成長するものである。



 第209話へつづく

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