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元冒険者と元魔王様が営む三ツ星☆☆☆(トリプルスター)SSSランクのお店『悪魔deレストラン』~レストラン経営で世界を統治せよ!~  作者: 雪乃兎姫
第7章 クランの設立と開業編

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第205話 商人としての嫉妬

「それでは何故ジャスミンさんはそのように落ち込み、泣いていたのですか?」

「……ぅっ」

「ぅ?」


 エルフィが理由を問うとジャスミンは言いたくないと言った感じで、更に強く膝を抱え身を縮めてしまった。それはまるで貝が自らの殻に閉じこもる姿のようにも思える。


「じ、実はね……」


 だが観念したのか、ジャスミンは少しだけ顔を上げると、その理由とやらをポツリポツリっと語りだした。


 最初のうちはジャスミンも、普通に自分の店である道具屋の中をウルフに案内していたのだと言う。けれども店の中を見て回っているうち、ウルフから色々と意見というかアドバイスを言われたらしい。


「ここの商品は種類ごとまとめ、広いスペースの方がよく売れるはずだ」

「この商品はもう少し値段を高くしたほうが、もっと利益が得られるだろう」

「あまり売れず在庫として残った商品は、特別特化価格として値を下げ、在庫を売り切るべきだ」


 ……などなど、ジャスミンの経営方針や商売の方法に口を挟んできたとのこと。


「じゃあ、ジャスミンはそのウルフの意見が気に食わなかったのか? だから泣いてたのか?」

「……ううん。違うよ、お兄さん。全然()だよ……」

「はっ? ぎゃ、逆ぅ~っ? 逆って……それで何でジャスミンが泣いてるんだよ???」


 俺は本当に訳が解からなくなってしまった。


 逆ということは、それ即ち、ウルフの意見は正しいのだとジャスミンも理解したことを示す。

 けれどもそれならば何故、彼女はカウンター下で泣いていたのだろうか? 普通なら喜ぶべきはずなのに……。


「ご主人様……私は分かりましたわ」

「エルフィ?」


 そこでエルフィが何かを理解したと横から声をかけてくる。


「ジャスミンさんはきっと、ウルフさんに嫉妬したのですわよ。だからこのように落ち込んでしまったのでしょう」

「っ!?」

「し、嫉妬ぉ~っ? ジャスミンお前、ウルフに嫉妬して泣いてたのかよ?」

「ぅぅぅぅぅぅっ」


 どうやらエルフィの言っていることは本当のようだ。それが証拠に、ジャスミンはまた顔を膝で埋め隠してしまった。


「何でウルフなんかに嫉妬したり……」

「……だってウルフの意見というか、アドバイス全然間違っていなかったんだもん。だからボクの方が商人としての資質が劣ってる……そう思っちゃって……。そう思い始めたら、何だかボクが今までしてたことって何なのか分かんなくなっちゃって、それで……」

「そうだったのか」


 ようやくジャスミンが落ち込んでいる意味を理解することが出来た。


 ウルフのアドバイスはジャスミンよりも優れた意見であり、それと同時にジャスミンは納得してしまい、その商人としての才能に嫉妬し、自分の存在意義を見失ってしまったのだろう。


 俺としては、ジャスミンの商人としての能力を推し量ることはできないのだが、凄いということだけは知っている。それなのにジャスミンは「自分があまり商人として、向いていないのではないか?」っと疑問に思ってしまったみたいだ。


 才能ある者は時として、自分より優れている者に嫉妬する。そして自分の存在意義というものを見失ってしまうことがある。

 これは何もジャスミンに限った話ではない。自分より上の者は必ず存在するわけであり、それが目標となり、それと同時に自分への戒めとなり得ることもあるわけだ。


 けれども、あまりに自分自身に自信がある者は一度の挫折を味わってしまうと、もう立ち直れないほど落ち込んでしまう時がある。それがまさに今のジャスミンだったのだ。


「ジャスミンさんは、何でそんなことで落ち込んでいるんですかぁ~?」

「み、ミミ!? それはちょっと……もう少し言葉というか、言い方を優しくしたほうが……っ」


 だがそんな空気を読まずして、ミミが明るくジャスミンへと問いかけていた。

 俺は一切配慮のないミミの言い方に戸惑いを隠せず、すぐに止めようとしたのだったが、隣に居たエルフィに「お待ちください」というように手で行く手を遮られてしまう。


「何で俺を止めた? 止めるなら、ミミの方じゃねぇのか!?」そんな言葉を口にしようとした矢先、エルフィはそっと俺の口元に自分の右の人差し指を当てると「ここはミミを信じて、任せまてみましょうご主人様」っといった感じのジェスチャーをした。

 物理的にも心理的にも勢いを殺がれてしまった俺はコクコクっと頷き、唇から伝わる彼女の小さな温もりを楽しむことにした。


「だって、ウルフはボクよりも商才あるみたいなんだもん。なら、ボクなんてこの店に必要じゃないでしょ? ミミ……違う?」


 ジャスミンはやや投げやり気味で、そう答えた。

 少し拗ねている感じであり、また自らがこの店に必要ではないとの拒絶の意味も含んでいるように思える。


「違いますね! もうは~っきりと、ミミは断言できますよ。今ジャスミンさんが言ったことは、絶対に違いま~す♪」

「……えっ? えっ? それってどういうこと???」


 まさかこんなに明るく自分の考えを否定されるとは夢にも思わなかったのであろう、ジャスミンはぽかーんっと口を開け放ちながら、ミミの顔を見ていた。



 第206話へつづく

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