第204話 唸り声の正体と拗ねるジャスミン
「ご主人様、こちらのお店がその道具屋なのですね」
「ああ、そうだ。で、ここの店の運営なんかはすべてジャスミンが一手に引き受けてたんだよ」
「ほえぇぇぇ~っ。ほんっとに品物がたっくさんありますねぇ~♪ わあぁぁぁぁぁ♪ なんだか昔ながらの道具屋っぽい、って感じがしますよねエルフィさん!」
「本当ね。この独特の雰囲気はそれっぽい感じがするわね」
エルフィとミミは一階にある道具屋マリーに足を踏み入れると、道具屋独特のいかにもそれっぽい雰囲気を肌で味わっていた。
「ぅぅぅぅぅっ」
「うん? 今なにか獣のような唸り声が聞こえたような気がするけど……気のせいか?」
それは一瞬だったが、どこからともなくまるで獣のような低い唸り声が聞こえた。
「んっ……マスター、今の声はアッチにあるカウンター下から聞こえた感じですよ」
「なに本当か? よくあんな小さな音が『声』だって判ったな。凄いな!」
「へっへぇ~ん♪ 私達、兎兎族は耳が他の種族よりも断然良いんですよ~♪」
ミミは自らの長く垂れ下がった耳を持つと、カウンターの方向へと差し向け音を拾っているようだ。
そして俺に褒められたのがよっぽど嬉しいのか、ちょっとだけ胸を張り自慢げにしている。
「あら、本当だわ。この声はカウンター下から聞こえてくるわね」
「今の、エルフィにも聞こえたのか?」
「ええ、もちろんですわ。我々エルフ族も兎兎族に負けないほど、聴力には優れていますので……」
そう語るエルフィの尖った両耳は可愛らしくもピクピク……っと、ちょっとだけ動いている。
触りたい……ミミの耳もエルフィの耳にも、そのどちらも可愛らしく動いており、俺は手で触りたい衝動に駆り立てられてしまうが、先程のエルフィとのやり取りを思い出し、グッと堪えることにした。
「ぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ」
「この声って……ジャスミンさん?」
「……えっ? ジャスミン? これ、ジャスミンの声なのか!?」
俺達の声が聞こえていたのか、その低い唸り声は自らの存在を知らせるよう、更に大きくなっている。
そしてミミが言うには、この声の主はジャスミンなのだという。一体何故、彼女が唸り声をあげているのだろうか?
「おーい、ジャスミーン。お前なのかー?」
俺は恐る恐るっと言った感じで、カウンター上からそっと下を覗き込んだ。
「……うん。そうだよお兄さん」
居た。ジャスミンだ。それは紛れもなく、ジャスミン本人に間違いない。
けれども彼女は何故だかカウンター下で、膝を抱え顔を伏せてしまっていたのだ。それはまるで俺に顔を見られたくはない……そんな風にも見える。
「ど、どうしたんだよジャスミン!? そんなところで膝なんか抱えてさ」
俺は慌てて回り込みカウンターの内側へと入ると、膝を抱え顔を埋めているジャスミンの元へと駆け寄った。
「……なんでもない」
そう一言だけジャスミンが口にする。だがその声はとても悲しそうだった。
「いや、なんでもねぇってことはねぇだろジャスミン。そんな所で膝を抱えちまってさ」
ジャスミンのその声は、まるで泣いている声のように思えた。
「ジャスミンさん、どうかされたのですか? そのように落ち込んでいる理由を私達にも話してください」
「そうだよ……ってあれ、ウルフさんは一緒じゃないんですかぁ~? 確か案内をしていたはずですよねぇ~?」
「あっ、そういえば……」
確かにミミの言うとおり、ジャスミンは自分の道具屋をウルフのことに案内していたはずである。なのに彼の姿がどこにも見えないのは変である。
これはもしや……俺はそう思い、思い切ってジャスミンに聞いてみることにした。
「なぁジャスミン……。もしかしてウルフと喧嘩でもしたのか?」
「っ!? ぅぅぅぅぅっ」
どうやら当たりのようだ。
俺がウルフの名前を出した途端、ジャスミンはピクリっと反応を示し 一瞬だが狼狽したのがわかった。
「ジャスミンさん、ちゃんとその理由を話してください。でなければ、私達も状況が判断できません」
「そうだよ! もしもウルフさんがジャスミンさんに何か悪いことをしたなら、ミミとエルフィさんが黙っていません! マスターもそうですよね?」
「ええ、もちろんですわ!」
「ああ、そりゃそうだ!」
もし本当にウルフのヤツがジャスミンに対して良からぬことをしたのならば、俺だって黙っているつもりはない。それはミミやエルフィも同じ気持ちだった。
「ウルフは……何もしていないよ」
「えっ?」
ミミやエルフィ、それに俺までも怒り心頭になっていたその矢先、意外な言葉がジャスミンから放たれた。
「本当にウルフのヤツは、ジャスミンに対して何もしていないっていうのか?」
「……うん」
これは一体どういうことなのだろう? ウルフは何もしていないのにジャスミンは落ち込んでいる。そしてウルフの姿もここには見えない。
俺はまるで「キツネかタヌキにでも化かされているのか?」そんな気持ちになってしまうのだった。
第205話へつづく




