第203話 エルフィの涙と許し
「いや、ちげーって! エルフィの話を疑うわけねぇだろ!! だから泣くなって……俺、女の涙なんか見たくねぇからさ。だから泣き止んでくれよ……頼むよ……」
「……はい♪ ご主人様に頼まれてしまっては、もう泣くのは止めにいたしますね♪」
「へっ?」
「あら、どうかされましたかご主人様? ふふふっ……」
「~~~っ!?」
見ればさっきまで泣いていたエルフィだったが、今は打って変わったように満面の笑みを浮かべていたのだ。
どうやら泣き真似をするだけで、実際には泣いていなかったのかもしれない。
「やはりご主人様は純粋なのですね~。先程までの私が泣いている姿を見て、必死にうろたえているご主人様の姿はとても愛らしかったですわよ~♪」
「え、エルフィっ!!」
「ご主人様、申し訳ありません。ですが、私が泣いていたのは本当……なのですよ」
「えっ?」
からかわれていたと分かった俺はエルフィに対して怒りを露にしようとしたのだったが、いきなり頭を下げて謝罪されてしまった。
そして先程まで泣いていたのも本当だと言われてしまい、心だけでなく怒りまでもたじろいでしまう。
「実際、私はご主人様に嘘吐きと呼ばれてしまい、心が裂けてしまうかと思ったほどでした。まだご主人様とは出会ったばかりだというのに、なのになのに……」
「…………」
それはとても嘘を言っているようには見えなかった。
確かに今日会ったばかりにも関わらず、今のエルフィは本気で悲しそうな顔をしていたのだ。それもたった一言。たった一言、俺に言われただけで本気で悲しみ落ち込んでいた。
「ご主人様……申し訳ありませんでした」
「えっ? えっ?」
今度は床に頭が着きそうな勢いで、丁寧に謝られてしまったのだ。
それは心からの謝罪。エルフィは俺のことをからかっていた事を本当に心から悪いと思い、謝罪してくれている。
そんな彼女の心理や行動とは反面して、俺の心はまさに上がったり下がったりっと、感情を揺さぶられまくっていた。
それこそ始めエルフィにからかわれ、それに対しての怒りがこみ上げてきていたのだったが、俺から疑われていたことが本当に心から悲しいのだと涙を浮かべる姿には、正直心にくるものがあった。
それはまたエルフィの容姿が綺麗な美人のエルフであり、そんな彼女が泣いている……ただそれだけでも、俺は感化されてしまっているのかもしれない。
「あ、あの……俺こそ、ごめん」
「えっ?」
俺が謝罪の言葉を口にすると、エルフィはとても驚いた表情をしていた。
「ほら、本当かどうかの判断もつかないってのに、エルフィの話を嘘だと決めつけちまってさ」
「いえ、そんな……。私のほうこそ、ご主人様をからかってしまい、あまつさえ嘘泣きなどをして騙してしまい、なんと許しを請えばいいのやら……」
「いや、許しなんていいよ。それに嘘泣きだろうと、エルフィを泣かせちまったのも事実だろ? だから……ごめんな、エルフィ」
俺は頭を下げ、エルフィに謝罪した。
「そんなっ!! ご主人様が私などに頭をお下げにならないでくださいませ。どうかお早く顔をお上げになってください。でなければ、私も身の置き場所に困ってしまいますわ」
先程までの余裕はその影すらも見られないほど、エルフィは戸惑っていた。
そして俺の手を取ると、大事そうに自らの両手で包みこみ、必死に下げている頭を上げて欲しい懇願している。
「でも……」
「でもも、何もございません! 主人が臣下に頭を下げるなど、本来あってはいいことではございません!! だからお早く……顔をお上げになってくださいませ……おねがいします……」
最後は本当に消え去りそうな声でそう彼女に促された俺は、ゆっくりと下げていた頭を上げることにした。
「え、エルフィ……お前……」
すると、そこには驚くべき光景が広がっていたのだ。
「ご主人様……本当に申し訳ありませんでした。心からお詫びいたしますわ」
「あ、あの……エルフィさん」
なんと彼女の目からは、幾重もの涙が頬を濡らしていたのだ。
それは先程の嘘泣きなどとは違い、本当に目から涙が溢れ出している。
きっと自分の行いのせいで、主人である俺が頭を下げたことに対して心を痛めたのかもしれない。
「ぅぅっ……もうしわけ……ありません。ご主人様……ぅぅっ」
「い、いいっていいって。もういいからエルフィも、もう泣くのは止めろ」
「ですがっ!!」
エルフィは本当に悲しみ溢れるほどの感情で泣き出し、俺も俺でどうしたらよいのかと戸惑ってしまう。
「もうマスターもエルフィさんも遅いですよ~っ! ミミ、待ちきれなくて戻って来ちゃったじゃないですかぁ~。ぷんぷん♪」
「「あっ……」」
そこでようやくそんなミミの一言によって、俺達の間にあった気まずい空気が払拭されることになる。
しかもミミは怒っているはずなのに、何故かリスのように頬を膨らませて、まるで小動物のように可愛い感じに俺達に対する怒りを露にしていた。
「ぷんぷん……うん? あれあれぇ~マスターに、それとエルフィさん……どうかしたんですかぁ?」
だがミミは変な空気感を読んだかのように、俺達を心配するように声をかけてくる。しかも既に先程までの可愛らしく怒った顔ではなく、とても心配するような顔をしている。
「いえ、何でもありませんわ。ね、ご主人様?」
「あ、ああ……ちょっとした誤解というか、そんな感じなだけだから……」
「ん~~~っ……本当ですかぁ~? ホントのホントにそれだけ? お二人の間の空気が何だか悲しいというか、気まずいようにミミには思えましたけど……」
野性の本能なのか、やはりミミは俺達の間を流れる空気に感づいている様子。
「ほんと大丈夫だから、な、エルフィ?」
「ええ、そうですわ。実はその……今夜ご主人様のお部屋にお邪魔しようかと思い、お誘いしていただけですわ」
「わわわわっ! そ、そうだったんですか! (照)ふえぇぇ~っ、やっぱりエルフィさんは凄いなぁ~。さすが大人は女性って感じですねぇ~♪ あっ、もしかしてミミ、お二人のお邪魔虫さんでしたか?」
「いいえ、大丈夫ですわ。ちょうどその今夜のお誘いもご主人様から袖にされてしまったところですから……」
どうにかエルフィの機転によって俺達の誤解は解けたようだったのだが、逆に別の誤解を生んでしまったことはもはや言うまでも無いのだった……。
第204話へつづく




