第195話 新たな従業員達の自己紹介と人員強化
「主達よ、もう遊びの方はよろしいのか?」
「はぁはぁ……ああ……もうたくさんだ……」
「ふふっ。旦那様は元冒険者なのに体力が無いのですね」
「にゃはははっ。お兄さん、だっらしないなぁ~」
俺としては遊んでいるつもりは無かったのだが、ウルフの目にはシズネさんやジャスミン達と追いかけっこで遊んでいるように見えていたようだ。
「さてっと。旦那様で遊ぶのにも飽きましたし、そろそろ新しく入れた従業員達の紹介をいたしましょうかね」
シズネさんは気を取り直すかのようにそう切り出すと、少し離れたテーブルで待っていた二人の女の子へと声をかけた。
「まずはエルフ族の『エルフィーナ』さんです。得意なことは『料理』と『狩り』です。ま、あと見た目もすっごく綺麗です。接客をすればお客様がたくさん呼べること間違いなしですね! ですので、お仕事は主にレストランでの接客業務や調理補助をしてもらいます」
「エルフィーナです。少し名前が長いので『エルフィ』とお呼びくださいませ。ちなみに年齢は乙女の秘密になっております♪ 皆様、どうぞよろしくお願いいたしますね」
まず俺達の目の前に現れたのは『エルフィ』と名乗る、金髪のサラサラとした長い髪が特徴のエルフの美人さんだった。
そのエルフのお姉さんの髪は腰下までと長く、キリっとした眉に青く輝く瞳と全体的に整った顔つき、衣服は肌の露出が大目の緑色を基調とした短いスカートに、肩出しヘソ出しの目のやり場に困る短めの上着。一応防御のためなのか、胸元には皮の胸当てをしているのだが、逆にそれが大きい胸を強調する形となっていた。
エルフはその見た目から分かるとおり、なんと言っても一番の特徴は尖った耳、それと男女問わず容姿端麗なことである。男はイケメン、女は美少女か美人がデフォルト。それは子供においても同じことである。
また種族的特長としては人間や他の生き物などよりも遥かに長寿なため、見た目と実年齢が噛み合わないことがほとんどである。
「へぇ~エルフィさんって言うんだぁ~。あっ、ボクの名前はジャスミンだよ。ここでは主に調理場と道具屋の運営の仕事して、将来は大商人になるのが夢なんだ! よろしくね♪」
「ジャスミンさんですね。ご丁寧にありがとうございます」
ジャスミンは持ち前の明るさを武器に満面の笑顔を差し向けながら握手を求めた。
対するエルフィもそんな彼女に行為を持つように挨拶をしながら、右手を差し出し握手をする。
そしてその隣に居た俺とふと目が合い、微笑まれてしまう。
それはとても美しく、また妖艶であると同時に、まるで天使が微笑みかけているように俺には思えてしまった。
「こ、こほん。俺の名はタチバナ・ユウキってんだ。え~っと、シズネさんとは夫婦関係にあるからその……」
俺は目の前の彼女の雰囲気と美貌、そして何よりその笑顔の虜になりそうになって、動揺から何を喋ればいいのか戸惑ってしまう。
「そうなのですね。それでは我が主君に当たるお方なのですね。その……貴方様をなんとお呼びしたらよろしいでしょうか?」
エルフィは変わらずに微笑みかけ、俺のことを「なんと呼べばいいのか?」と訊ねてきた。
「あ~っと、す、好きなように呼んでいいよ。他のみんなも好きに呼んでいるしさ」
俺はそう口にするだけで精一杯になる。
「あら、私の好きに呼んでもよろしいのですか? それなら遠慮なく……ダーリン♪」
「ぶっ!! ごほっごほっ。だ、ダーリンって、それはちょっと無いんじゃないかなエルフィさん」
エルフィのその清楚そうな顔に似つかわしくない、いきなりのビッチ呼び『ダーリン』などと呼ばれてしまった俺は思わず噴いてしまった。
さすがにここでダーリン呼びが来るとは、夢にも思わなかった。
「ふふっ。ほんの冗談です。それでは『ご主人様』ではいかがでしょう? それと私のことはエルフィと呼び捨てで構いませんので」
「おおう。ご、ご主人様呼びも正直どうか思うけど、ダーリンよりはマシ……なのか。いや、マシだよな? もうそれでいいよ……えっと、エ、エルフィ」
俺は何かを諦めたかのように、エルフィには自分を『ご主人様』と呼んでもらうことにした。
「だがしかし、何故か美人なお姉さんのエルフ族エルフィにご主人様と呼ばれると、イケナイになってしまうのは俺が男の子だからかもしれない。だがな、それも嫌いじゃないんだぞ! そして俺は夜も従順なエルフィを自らの部屋に連れ込み、ご主人様と呼ばせた挙句に……」
「…………あの、シズネさん。俺の心の声をセリフとして代弁しないでくれるかな? その……恥ずかしいからさ」
(メッチャその話の続きが気になるところだけど、これ以上はさすがにマズイだろ。主に規約的問題懸念事項においてな!)
「ふふっ。ご主人様もシズネ様も面白いお方なのですね。私、ここで仕事をするのが楽しみになります」
俺達のやり取りを傍で見ていたエルフィは愉快そうに口元を隠しながら、笑っていた。
なんだか俺を弄る人間が増えたのは、この際気のせいだと思い込みたい。
「ふむ。主殿が終わったのならば……俺様の名はウルフだ。見てのとおり一匹狼でお前と同じく今日入ったばかりの新人だが、よろしくな」
「ウルフさんですね。よろしくお願いしますね♪」
ウルフとは極々普通に挨拶を交わしている。
やはり俺だけがからかわれていたのかもしれない。
「さてお次は……兎兎族の『ミミ・フォルト』さんですね。いやぁ~、これまたケモノ耳が可愛らしいのなんの……これは旦那様の性癖にピタリっと当てはまりますよね♪」
「いきなり俺に振るんじゃねぇよ。そんなの振られてもコメントに困るじゃねぇかよ、シズネさん!」
(だから何で俺の心の中はアンタに見透かされているんだよ。もうちょい配慮というか、気配りをしてくれ)
何故か俺のフェチズム情報がここにいるみんなに開放され、今度は次なる女の子が挨拶をする。
「み、ミミは『ミミ』って言います。とととと、得意なことは『笑顔』です」
そこには先程の美人なエルフの女性とは対照的に、なんとも可愛らしい『ミミ』と名乗る少女が佇んでいた。やや緊張しているのか、言葉が出にくくなっているみたいだが、笑顔が可愛らしい子である。
その見た目は一見すると普通の人間とあまり変わりがないように思えるのだが、髪の毛のように左右から垂れ下がっている耳は兎のそれそのもの。
そして髪の毛はピンク色のわりとショートヘアに緑色が鮮やかな瞳と整った顔つき、頭には赤ワイン色のベレー帽を被り、衣類も同じく赤ワイン色を基調としたワンピースに皮でできた茶色のコルセットを身に着けていた。
また首周りには緑色のスカートを瞳と同じ鮮やかな宝石の止め具が目立つ、これまたウチのメンバーに引けを取らないほどの美少女だった。
「ミミさんはどうもあがり症のようでして、それを克服するためウチのクランの受け付けをしてくれるそうです。やはりあがり症を治すには、より多くの人と接することが大事ですからね」
「よ、よろしくお願いします!」
シズネさんの説明に合わせるようその子が頭を下げると、少し遅れてふんわりとスカートが舞い上がった。
「こ、こちらこそ……ミミ(照)」
「は、はい、マスター♪」
「ぅぅっ(照)」
本来ならば見えない生足が見えてしまい、俺は少し照れながらに挨拶を返してしまう。
そしてミミは俺のことをマスターと呼ぶことにしたようだ。別にそれに対して違和感というか、まぁ実質この店のマスターみたいなものだから、あえて突っ込みは入れないことにしよう。
「(ってか、マジで店の中が美人さんに美少女ばっかじゃねぇかよ。まぁ男というか、ウルフも新しく従業員になってくれたんだけれども、それでもこれは……ある意味ハーレムだよな?)」
俺はこれまでウチのメンバーやマリーやアヤメさんで美少女は見慣れたものとばかり思い込んでいたのだったが、いざこうして面と向かいエルフ族の美人なお姉さんと兎兎族の美少女を前にして、とても緊張してしまっていた。
そして男は俺一人なので、実質俺のハーレムと言っても何ら過言ではない状況になってしまっていたのだ。
ウルフもいるが彼は獣人なので、たぶん人型の女の子には興味がないと思う。
それが証拠に……
「俺様の名は……」
「う、ウルフさん……ですね。ご迷惑をおかけしないよう頑張りましゅ」
「う、うーむ。そうだ。よろしくな」
「は、はいぃぃぃ」
ウルフとミミは俺の目から見ても噛み合っていないというか、両者ともさっきよりも緊張しているように思える。
たぶんミミはあがり症だけでなく、人見知りもあるのかもしれず、ウルフもそんな彼女にどう対応したらよいのかと戸惑っている感じに見えた。
「私はエルフィよ。よろしくね、ミミちゃん」
「は、はい。よろしくおねがいしますエルフィさん♪」
「もしかして、ミミちゃんも私と同じくやっぱり北東地方出身かしら? ヴェールの森じゃない?」
「え、エルフィさんもなんですか! うわあぁぁぁぁ、同郷の人と会えるなんて久しぶりで、ミミとっても嬉しいです♪」
そして今度はエルフィとミミとが挨拶を交わすのだが、意外と話せてはいる。というか、むしろぴょんぴょんっと、飛び跳ねるように両手を握り締めながら喜んでいる。もしかするとミミは、あがり症や人見知りというよりも……。
「はいはい。これで『道具屋』『調理場』『クラン』の人員補強ができました。これだけいれば仕事がスムーズに進むこと間違いなしです! みなさま、今日からよろしくお願いしますね♪ 他の従業員とは夕食時にでも改めて自己紹介することにしましょう。ウルフさんはジャスミン指導の元、道具屋を。エルフィさんは旦那様と調理場へ、最後にミミさんはワタシとクランについての説明をいたします。よろしいですね?」
パンパン。っと手を叩き、改めて自分に注目するようにシズネさんが声を張り上げて、「そろそろ仕事に取り掛かろう!」と各々への支持を出し始めた。俺はミミに対する考えを遮られてしまい、本人に聞くのは後回しにすることにした。
「任されよ」
「ええ♪」
「はい♪」
三人は改めて俺とシズネさんの前に並ぶと、そう元気よく返事をしてくれた。
この人数ならばシズネさんだけでなく、ジャスミンやアマネ達の負担が大幅に減るに違いないだろう。
第196話へつづく




