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元冒険者と元魔王様が営む三ツ星☆☆☆(トリプルスター)SSSランクのお店『悪魔deレストラン』~レストラン経営で世界を統治せよ!~  作者: 雪乃兎姫
第7章 クランの設立と開業編

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第189話 不安と笑い

 俺達は今日も変わらず店を開店した。

 ……っと言っても病み上がりのシズネさんの仕事は各自に割り当てられ、調理場をジャスミンと俺、調理補助はアマネとサタナキアさん、そしてクランの仕事はアリアに任せられている。


 もちろんそれと並行する形で従業員募集の張り紙を店の至るところに貼り付け、仕舞いには冒険者の背中にまで貼っていた。

 だが、それでもすぐに応募者が現れるわけもなく「シズネさんのため、今日一日だけでも……」っとアヤメさんとマリーがレストランの手伝いとして、ウエイトレスになってくれたのだった。


「ユウキさん。一番テーブルは朝食セットが2、ナポリタンが1です! あっ、ナポリタンだけ大盛りでお願いしますね」

「朝食が2に、ナポリタン大盛りが1ですね。わかりましたアヤメさん……ジャスミン!」

「お兄さん、こっちにもちゃんと聞こえてるよ♪」


 俺はアヤメさんから注文を受け、そしてそのままジャスミンへと注文を通す。


「ちょっと貴方! この水差しに全然水が入っていないわよ! さっきも注意したはずなのだけれども、私の話を聞いていなかったのかしら?」

「ごめんごめんマリー。こっちも忙しくてさ、つい忘れちまっててさぁ~」

「そんな言い訳なんてしなくてもいいわよ。私が求めるのは過程ではなく、結果のみ!」


 今日入ったばかりのマリーから仕事に対する雑さを指摘されてしまう。


 二人は卒なくも接客の仕事をこなし、俺の目から見ても即戦力なのは間違いない。

 正直、もうこのままウチの店に従業員として今すぐにも欲しい人材なのだが、あくまでも臨時というか、新たな従業員が決まるまでの言わば繋ぎ役なのだ。


 マリーはギルドの長として、アヤメさんはその補助としての雑用などウチの仕事よりも大事な本来の役割があるため、ここでずっと働くことはできない。

 今日という日が異例中の異例な出来事だと言えよう。


「マリーちゃ~ん、注文いいかなぁ~?」

「はぁ~い、ただいま~♪ ……ちっ」

「ほおわわぁ~、メイド服を着たマリーちゃんに舌打ちされちゃったよ~♪」


「アヤメお姉様ぁ~。お冷のお替りいただけますでしょうか?」

「あの……先程からお水ばかりですが、大丈夫でしょうか?」

「ごぼぼぼぼ……だ、大丈夫ですわアヤメお姉様。あっ、よろしければ手を握っていただけますでしょうか?」

「うん? 私の手……ですか? はい♪」

「あわわわわわ~、アヤメお姉様に手を握られてしまいましたわ~♪」 


 マリーに至ってはシズネさん顔負けのスマイルと辛辣すぎる舌打ちを武器に、お客達からは「マリーちゃん」などと呼ばれている。それも特におじさん連中から圧倒的支持を受け、マリーに罵倒されたいがため、わざわざ注文取りに指名されるほど人気者になっている。

 そしてアヤメさんもその容姿端麗さと柔らかい物腰に加え女性らしい凛々しさのおかげか、客達からは「アヤメお姉様」と呼ばれており、特に女性客を中心に人気者になっていた。


「ほんとすっげぇーなあの二人。今日が初めてだってのに……」

「ええ、マリーさんは以前少しだけ手伝ってくれたことがありますが、まさかここまでとは……」


 そういえばマリーは以前、俺達が街中で宣伝ビラを配っている最中、シズネさんに拉致られて店を手伝わされていたことを思い出した。

 確かあのときにもメイド服を着て、ウエイトレスをしていたはずだ。今回もご丁寧にも同じメイド服を着ているわけなのだが……あれはいいのかな?


「それはそうとシズネさん、従業員応募の方は……」

「その……残念ながら未だ一人も現れていませんね」

「そっか……」


 もうお昼のピークも終わろうとしているにも関わらず、喉から手が出るほど欲しいはずの従業員は今なお誰一人と応募してくれていなかったのだ。

 さすがのシズネさんもこれには動揺と焦りを隠せない様子。


 そうして何も打開策が思いつかないまま、客足はパタリっと止まり、ついにお昼の混雑時間帯(ランチタイム)は終わりを迎えてしまったのだった。


「ふぅ~っ。これでようやく休むことができるわね」

「お嬢様、お疲れ様でした」


 今日ウチの店で一番活躍してくれたマリーとアヤメさんが、休憩しに俺達がいるカウンター席へとやって来た。


「無償で手伝ってあげたのだから、労いの言葉くらいかけたらどうなの?」

「……あっ、マリーもアヤメさんもお疲れ様」

「ふ、ふん! わかればいいのよ(照)」


 マリーは普段使い慣れない言葉と客達への接客のためか、肩を痛そうに右手で左肩を揉んだり、首を回したりしている。

 そして礼の言葉の催促をしたかと思うと、今度は少しだけ頬を赤らめてそっぽを向いてしまう。


「ふふっ。お嬢様も素直ではありませんからね~。でもそんなところが可愛らしくて魅力の一つなんですよ、ユウキさんにシズネさん。だから誤解しないでくださいね」

「ああああ、アヤメっ! 貴女ねぇっ! ななな、何を言っているのか分かっているの!! それになんでそんなことをこの二人に言ってるのかしら!!」


 そんなマリーのツンデレ具合が可愛らしいと感じたのか、アヤメさんが横槍を入れる。そしてそれを制するように、ちょっとだけ怒ってみせるマリー。

 なんだかそんな二人がまるで本当の姉妹のように思えて、俺は微笑ましく思ってしまう。


「ええ、ええ……ちゃ~んと理解していますから大丈夫ですよ、アヤメさん。ほんとマリーさんはツンデレさんですからねぇ~……はん!」


 シズネさんもシズネさんで、アヤメさんが言ったことを理解していると言いつつも、最後は馬鹿にするように「やべっ。何コイツ、ツンデレちゃんなの? かーわーいーいー」というような、やや冷ややかで呆れた感じの視線をマリーへと差し向けていた。


「シズネっ! 貴女も貴女で私の何を理解しているっていうのよ! それにその最後のふざけた顔まで……いえ、いいわ。どうせ貴女のことだから、聞いてもろくな返しをしてこないわよね。聞くだけ無駄だわ。ふん!」

「ふふふふ~っ。そんなこと言っちゃってぇ~、本当はワタシに構って欲しくて仕方ないんですよね~……マリーちゃん♪ ツンツン」


 シズネさんは更に煽りを入れるよう、接客時に客達が呼ぶようにマリーのことを『ちゃん付け』で呼ぶと、そのリスのように膨らんでいる頬を指でツンツンっと小突いていた。


「ぷっ、つーん! シズネ……貴女はしてはいけないことを私に対してしてしまったようね」


 さすがにからかい過ぎたのか、マリーは更に顔を赤くして静かに怒り、それにたぶん無意識下なのだろうが、ご丁寧にも堪忍袋が切れたのをちゃんとセリフとして口に出していた。


「おやおや、天下のギルドの長であるマリーさんはこの程度で怒ってしまう器でしたか。これはこれは……はははははっ」

「シズネ……ほんと良い度胸しているわね。いいわ、その喧嘩、買ってあげるから表に出なさいな!」


 マリーはそんなシズネさんの態度に痺れを切らしたのか、喧嘩の買い言葉の定番中の定番である「表に出ろ!」っと小者感丸出しで、席を立つとシズネさんを指差した。


「いやぁ~、今日はなんだか体調が悪くて……ごほっごほっ。あっ、明日ではダメですかね?」

「そう……なの? まだちゃんと治っていないのに無理をするからいけないのよ。じゃあ明日でもいいわよ」

「ぷぷっ……ほんとマリーさんは面白い方ですよね~」

「っ!? し、シズネっ! 貴女、仮病で私を騙したのねっ! ムッキーっ!!」


 シズネさんの仮病ネタで更にからかわれ、マリーはそれはもう怒りを露にするかのように地団駄を踏み鳴らして怒っていた。


「ははははははっ。シズネさん、あんまりマリーをからかうなよ」

「そうですよ~。そ、それ以上は……ぷっふっ」

「そこの貴方にアヤメっ!! 貴方達も何を笑っているのかしら!!」

「……それはもちろん、マリーさんの顔を見て笑っているのでしょうねー(戦後最大の棒読み)」


 俺達はマリーをからかい、不安を吹き飛ばすよう共に笑い合うのだった……。



 第190話へつづく

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