第187話 決断のそのときに……
「確かにシズネならば数日は持つだろう。けれども、その後また倒れでもしたら、より長く休まねばならなくなり余計お店に迷惑をかけるのではないのか?」
「もきゅもきゅ!」
アマネの言うことにも一理ある。またもきゅ子もアマネに賛同するように頷きながら、首を横に振っている。
数日だけなら無理もできるだろうが、お店の経営とは短期間で完了するものではないのだ。
それこそ人によっては人生が終わるその瞬間まで営業を続ける場合もあるわけで、短絡的観測は『悪』でしかない。
「それは……」
アマネのその言葉にシズネさん自身も納得したのか、何の反論もできずにいた。
「なら、定休日でも決めるのはどうさね?」
「定休日? 決まった日にお店を休むってことなのか?」
「そうさ。それなら客達も事前に休みがわかるから、諦めて帰るなんてことにはならないんじゃないのかい?」
アリッサが横から口を出すように『定休日』導入について、提言した。
彼女の言うように決まった日に休むのならば、客達もその日を避けてくれるため、不満を持つこともないだろう。
「……でも、それだとウチが休みの日にお客様達はどこで食事をなさるのですか?」
「そんなの決まっているさね! ウチが休みなら……あっ」
シズネさんのその問いかけに対して、アリッサは然も当然のように答えようとして何かに気づいた様子。
「ええ。他の飲食店ですよね? そうなると、お客も少しずつ減ることになります」
「そ、そんなのやってみなきゃ分からないじゃないのかい! その日が休みでも次の日には店を開けるんだよ、それなら……」
アリッサも必死に弁明しようとするのだが、さっきのシズネさんの説明、年中無休の店と休みがある店との客達の動向を思い出し、それ以上言葉を続けられなかった。
「うん。アリッサの考えも悪いわけじゃ~ないんだけどね。でもシズネさんが言ってたとおり、お店休んじゃうとお客さんから敬遠されちゃうだろうね~」
「ぅぅっ」
ジャスミンは何食わぬ顔をしながらも、アリッサに追い討ちをかけていた。
「なら、アンタは何か方法があるっていうのかい?」
「にゃはははっ。まぁボクだって大した考えなんて無いんだけどね……。まぁ無難に人を増やすことで、交代に休みを入れるのが得策だと思うけど……」
ジャスミンはそこまで言うと、その先は言い辛そうにしている。
人を増やす……それはつまり人件費がより多く必要になるということを指す。
どれくらいの運転資金があるのか分からないが、今の俺達にそんなに余裕がないことは確かだった。
臨時休業もダメ、定休日もダメ、人を増やすのだって問題がある。また現状のままでは、またシズネさんが倒れる可能性もあるわけで、他のみんなだっていつまでも休み無しで働けるわけがない。
「(ここが決断の時なのかもしれない……)」
俺はオーナー兼経営者の一人として、そしてシズネさんの旦那様として……強引にも決断することにした。
「みんな聞いてくれ……俺は……俺はこの店に人を増やそうと思う」
「旦那様、それは……っ」
横からシズネさんが口を挟もうとしたのだが、俺はそれを手で静止させてしまう。
ここで彼女が何かしら言ってしまえば、何も決めることが出来ないだろうし、結局彼女だけに決断を強いることになるだろう。だから俺は有無を言わさず、普段とは違い強い口調でこう語った。
「今のままじゃどっちみち、長くは続かない。店をやるって商売において、長期的観測は必要だと思うし、それがより店のためになると思う。だからみんな、何も言わず俺の意見に賛成してくれっ! 頼むっ!!」
上手く言葉で説明できないと踏んだ俺は、必死に言葉を紡ぐと最後に頼み込むように頭を下げた。
俺にはこれしかできない。せめてシズネさんの負担を減らすこと、そしてその責任をすべて自分が取ること……みんなのように能力が無い俺にはそうすることしかできないのだ。
「ふふっ。旦那様にそう言われてしまっては、妻であるワタシが従わないわけにはいきませんね」
「シズネさんっ!」
「皆さんはどうですか? 今の旦那様の決断に意見はございますでしょうか?」
シズネさんは俺の決断が断固足るものだと感じ取ったのか、諦めるように肩を竦め、人を雇い入れることに賛同してくれた。
そして再度みんなにも確認するように、そう投げかけた。
「もきゅきゅ~……もきゅもきゅ♪」
「どうやらもきゅ子は賛成のようですね」
「もきゅ子……」
いの一番、傍に居たもきゅ子が首を横に振り、そして嬉しそうに鳴いた。
「ズルイぞ、もきゅ子! それは私の役目ではないか!」
「ではアマネも賛成なのですね?」
「ああ、もちろんだ! それに私は勇者だからな! いつの日にか、ここを離れる時があるかもしれない。だから今のうちに人を増やすには大歓迎だ」
「アマネ……」
アマネは既に自分がこの店を去ることを視野に入れ、賛成してくれた。
そうアマネも役割は勇者なのだ。近い将来、この店を去らねばならないことになるだろう。
「アリッサ達はどうなのですか?」
「あたいかい? あたいは別に……」
「もうアリッサったら~。ほんとはシズネのことが心配で心配で、昨日の夜は眠れなかったんでしょ? そんな照れなくてもいいのに♪」
「だだだだだ、誰がシズネのことなんか心配だと言ったんだい! それに照れたって……いいだろ(照)」
アリッサは赤くなった顔を隠すように、帽子を下向きにする。だがそれもすべて隠れるわけではなく、見え隠れする頬が赤くなっていた。
「ふふっ。それではアリアもアリッサも賛成……ということですね?」
「はいは~い。もちのろんで~す♪」
「ああ……別に異論はないさね」
「アリア、アリッサ……」
いつもの軽い調子でアリアがウインクしながら右手を挙げながら、アリッサは恥ずかしいのか、そっぽを向きながら賛成してくれた。
「ボクもお兄さんの考えに賛成だよ。アリッサが言ってた定休日なんかは、後々お店がもっと流行りだしてから導入していけばいいんじゃないかなーとは思ってたけどね」
「そうですね。時期尚早でしょうね」
「ジャスミン……」
ジャスミンも何だかんだ言いながらも、賛成してくれたのだった。
だがそこで気づいたことがある。
「あれ、そういえばサナは居ないのですか?」
「あっ……そういえば」
そう浮遊系のサタナキアさんがこの場に居なかったのだ。一体どこで何をしているのだろうか?
第188話へつづく




