第176話 クランへの集客と手数料・報酬について
「ええ、何かしらのスタンプが欲しいわけですしね。なら、もきゅ子に協力して貰い、難易度によって手形を押して貰うのですよ! どうです? これならば判り易いですし、経費も節約できますよね? それにもきゅ子のお仕事が増えることになります。ね、もきゅ子。貴女もそう方が嬉しですよね?」
「もきゅもきゅ♪」
「まぁ……もきゅ子が良いってんなら、俺に異論ないけどな」
こうしてもきゅ子の手形の数によって、クエストの難易度設定が成される事になったのだった。基本的に冒険者ギルドと同じく、手形一つが簡単なクエストで、逆に五つが最高難易度となる。
これにより、誰の目に見えてもその依頼がどの程度なのかと一目で理解することができるようになるわけだ。
またもきゅ子も自分の仕事が増え、少しでもみんなの役に立てるのをとても喜んでいる様子である。
「それはそうとウチの手数料っつうか、それはどうするつもりなのシズネさん?」
肝心要、今後ウチの収入源と成りうる手数料を決めていないことに気づいた。
「あっ、そうでしたね。むしろそっちの方がメインですよね。旦那様、確か冒険者ギルドでは依頼人及び冒険者への報酬からそれぞれ三割というお話でしたよね?」
「ああ、依頼人は『依頼委託料』で、依頼を受ける冒険者からは『受注受諾料』って呼んでる手数料がそれぞれ発生するね。それとクエストの難易度が高くなると依頼する手数料が高くなって、逆に難易度が低いと冒険者への報酬が安くなるんだ。シズネさん、ウチでもそれを採用するつもりなのかよ?」
依頼人からの依頼手数料とそのクエスト完了に対する報酬を決めるのは難しいところだ。高すぎれば依頼は来ないだろうし、逆に報酬が低すぎれば受けてくれる冒険者がいなくなってしまうわけだ。
ここでも商品価格と同様、需要と供給のバランスを上手い具合に掏り合わせないとお客は呼べない。
特に新規で開くクランの場合には『依頼と冒険者が存在しない』『互いの信頼関係が無い』など、初めからマイナス要素しかないので何かしらの惹きが必要になるわけだ。
手っ取り早く集客するには、まず相互の手数料を低く抑え、逆に報酬は高くすることである。
これは冒険者ギルドよりも安い受注受諾料にすること、そして冒険者には報酬として受注受諾料を高くすることが挙げられる。
だがしかし、それだとウチへと入る収入が低くなり、それと同時に今後依頼人から事あるごとに依頼手数料を値切られしまう恐れと同時に、冒険者からは常に高い報酬を求められてしまうなど足元を見られることに注意しなければならない。
次に集客する手段としては、冒険者ギルドで受けて貰えない依頼をウチで敢えて受けることだ。
冒険者ギルドで依頼を拒否される場合には『依頼人と冒険者ギルド間での信頼関係が無い場合』か『依頼に対する報酬が見合っていない場合』などが挙げられる。
また受注する冒険者を集めるためには、冒険者ギルドで使われない冒険者を使うことだ。
これは依頼と同様に『冒険者と冒険者ギルド間での信頼関係が無い場合』や『以前、冒険者が依頼を受けたのにも関わらず、ちゃんと完了しなかった場合』などの理由が挙げられる。
一見すると依頼と冒険者の集客は簡単に思えるのだが、どちらもそれ相応のリスクが発生することになるわけだ。
既存の冒険者ギルドならば『過去の依頼内容』と『受注依頼の完了』という、二つ信頼度を調べれば容易に依頼人や冒険者の良し悪しを判断できるだろうが、新規のクランではそれができないことになる。
「ま、当面は今挙げたように手数料を安くする『お試しキャンペーン』にしようかと考えております。とりあえず依頼手数料は一割を見込んでいます。報酬はその都度決めるのが無難かもしれませんね」
「依頼だと一割か。確かに互いに信頼関係もまだ無いし、どんな人が来てくれるか分からないもんね。うん! 俺もそのお試しキャンペーンは良いアイディアだと思うよ! それに依頼人からは先に手数料を徴収できるけど、冒険者がちゃんと依頼を完了できるかは終わってみないと判断できないもんね。はぁ~、こりゃ考えていたよりも案外というか、全然難しいね」
そうこれまでは冒険者ギルドなど誰もができる安易で楽な仕事とばかり考えていた。だが、それも自分達が運営するようになって初めてその苦労を理解することが出来る。
特に信頼関係という金では買えないものは、築き上げるのに一苦労、壊すのには一瞬というあこぎなものである。
信頼を築き上げるにはちゃんと依頼を完了し、しっかりと報酬を払い、一つ一つ積み上げていくしか方法は無いわけだ。
「ま、クランについてのお話はこの辺りにしましょうかね。実際に依頼を受けてみないと分からない問題等も出てくるでしょうからね。……ですが、何も無い依頼掲示板というのも何だか味気ない気がしますので、クラン開設にあたる『依頼の募集』とそれを受注する『冒険者』を集めるため、要項を書いた紙でも貼っておきますかね」
シズネさんはそう言うと、白い紙に『ただいま依頼募集中! 他店で断られた困りごとでも請け負います! 【ただいま依頼お試しキャンペーン中】今ならなんと依頼手数料がすべて一割にて引き受けます! また同時に依頼を受ける冒険者も募集中! 報酬は応相談にて』と掲示板一面にデカデカと書かれて貼り付けた。
これならば食事をしに来た客達、そのすべての目にも留まるだろから集客にもなるだろう。
また依頼をしに来た依頼人やどんなクエストがあるのかと仕事内容を見に来た冒険者達も「ついでだから……」っと、レストランで食事をして行ってくれるかもしれない。
これはいわゆる相乗効果と呼ばれるものであり、人が集まるところに人が集まる群集心理でもあるわけだ。
お店にしろ、クランにしろ、人が集まらなければ経営は成り立たず、逆に人さえ集まれば繁盛する機会が増えるというものである。
いかに人を集め、また二度三度と何度も利用してもらえるのか……それが商売の要となる一番重要なことである。それにはまず、経営を維持できる程度の常連客を捕まえる事と、常に新しい顧客を取り入れる新規開拓が重要になってくるわけだ。
第177話へつづく




