第173話 クラン開業への懸念と不安
「元はギルドに居たけど役割というか、使命は『勇者』だもんな。うん、アマネのその気持ちはよく分かった」
「うむ!」
ギルドの世話になり、恩があるアマネでさえもこのように憤っているのだ。やはりクランを開く意味があるように思える。
次いでジャスミン達にも話を聞いてみることにした。
「ジャスミンはウチがクランを開くことについて、どう思ってるんだ?」
「うーん。正直言ってもいいなら……まだその時じゃないとボクは思うな。あっ、別に反対とかじゃないんだよ。将来的には開いても良いとは思うんだけど……」
「だけど?」
「う、ん。ボクとアリッサのお店や宿屋も開店したばかりでしょ? それにこっちのレストランだってまだ開店してから一、二ヶ月なんだよね? まずはそっちを安定させる方が先決だと思う。こっちが半端のままなのに、今クランを開いても大丈夫なのかな? って不安なんだよ」
どうやらジャスミンは「既存店経営を安定させることが優先ではないのか?」っと慎重に考えているらしい。確かにウチがクランを開くことになれば、それ即ち直接ギルドに喧嘩を売ることになるわけだ。
ウチの収入源である『飲食店』『道具屋』『武具屋』『宿屋』への嫌がらせをしてくるかもしれない。例えばギルド直営の同業種店を使った同一商品の価格引き下げなどの営業妨害や、商品を卸させないなど仕入先への邪魔をするなどの妨害工作が十分考えられるわけだ。それらも権力とそれに負けないほど資金が莫大な故にできることである。
「確かに嫌がらせとかは考えられるだろうなぁ」
「そうでしょ? 今はお客さん達が来てるから平然としていられるけど、これが半分に……いや、それ以下になったらお店なんてやっていけないよ。それに悪い噂を流されたりするもん」
「悪い噂?」
「うん。そっ、悪い噂を流すの。例えばあの店はボッタクリだから値段が高いですよーとか、品質が悪いですよーとかってね。あとあとお客さん達がウチの店を利用すればギルドから報復されるかも……って思うだけでも、十分悪評になって利用してくれなくなると思うんだ」
確かにそれらは十二分に考えられることだった。特に今まで冒険者ギルドを利用していた冒険者達ならば、不満を持っていようとも権力の恐ろしさからウチを敬遠してしまうかもしれない。それは何も新しく開こうとしているクランだけでなく、既存店の経営にも関わってくることだろう。
「あっ、でもね。今言ったことと矛盾しちゃんだけど、ボク達がクランを開いてもまったく勝算が無いわけじゃないんだよ」
「うん? そうなのか? てっきりマイナス要素しか無いように思えちまったけどな」
「にゃはははっ。まぁそうなんだけどね。でもでもボクが居たフレンツェ(西方地方)や他の地方でも冒険者ギルドへの悪い噂っていうか、評判はあまり良くなかったんだ。この間、アヤメさんが言ってたみたいに『手数料マージンが高い!』とか『仕事をしたのに報酬を払ってくれなかった!』とかって不満の声は少なくなかったんだ。だからもしウチでクランを開くとしたら、喜んでくれる人も一定数以上いると思うんだ。そこをいかに上手く掴むのか、そこに懸かっているかもね!」
確かにギルド本部があり、お膝元であるはずのこの街『ツヴェンクルク』と言えども、冒険者ギルドの評判はあまりよろしくない。だがジャスミンが言っていたように西方地方や他の地域でも評判は良くないとのこと。ということは、そこに活路を見出せばウチがクランを開いたとしても希望はあるのかもしれない。
みんな冒険者ギルドへは不平不満があるのだが、それに代わる組織が無く、また安定していないからと理由で不満があろうとも冒険者ギルドを利用していたのだ。その心理を上手く利用すれば活路となり得るだろう。
「そっか。ウチが冒険者ギルドに成り代わるクランを開けば、それだけであっちには脅威になりうることになるんだな」
「うん。だからこそ、邪魔をしてくる可能性が高いと思うよ」
邪魔をしてくるということは、逆に考えれば放っておけない存在であると言っているようなもの。ギルドが排除しようとする心理も納得できる。
「ちなみに今の話を聞いて、アリッサやアリアはどう思った? ウチがクランを開くのは反対か?」
とりあえず全員に話を聞こうと、ジャスミンの向かいに座っているアリッサ達に話を振ってみることにした。
「ああん? あたいは前から言ってるようにアンタらがクランを開くことにゃ~、賛成だよ。ってか、何度同じことを言わせるんだい! ったく」
「い、いや。意見というか、一応みんなの考えを聞きたいわけだからさ。そんなに怒るなって」
ダンッ! アリッサは怒りを表すようにフォークを握っていた右手でテーブルを叩いてみせた。
「意見? 考え? そんなもの聞いて何の足しになるって言うんだいアンタは? 他の連中を困らせているギルドを潰す……ただそれだけで十分な理由じゃないのかい! ええっ、違うって言うのかい!!」
「わ、分かったから……少し落ち着いてくれアリッサ」
未だ興奮冷めやらぬアリッサは今にもギルドへ乗り込まん勢いで席を立ち、身を乗り出そうとしていた。俺は席を立ち彼女に落ち着くようにと、彼女の両肩に手をかけ座らせてやる。でなければこのままギルドへと本気で殴り込みに……いや、斬り込みに行ってしまうかもしれない。
第174話へつづく




