第168話 順調な開店初日を迎えて……
「では二店とも売り上げは予想以上に順調……というわけなのですね、二人とも」
「うん! 薬草の在庫も驚くくらいにハケちゃったから、明日の朝も摘みに行かないと間に合わないくらいだよ♪」
「あたいのところも、高いのはそんなんでもなかったけれど、ロングソードとかの中古品がわりと売れたね。ま、客寄せに……と市価よりも大分値を下げて売ったからね。これくらい売れるのは当然のことさね!」
俺達は食事をしながら、今日一日新しく開店してジャスミンの道具屋、そしてアリッサ武具屋の商品の売れ行き具合について詳細をツマミに話を聞いていた。
どうやらどちらの店も予想よりも大成功のようで、そう語る二人の顔からは自然と笑みが零れ溢れていた。
「……で、シズネさん。宿屋の方はどうなんだ?」
俺はこれまで一切話に触れられなかった宿屋についてを、シズネさんに聞いてみることにした。
「さすがに宿屋の方は初日ですからね。こちらは満室とまではいきませんが、部屋自体は今のところ半分以上、客で埋まっております。ま、素泊まりですのでそちらからの売り上げはあまり望めませんけどね」
「そっか。でも例え宿屋単体では収益にならなくても、レストランとかを多く利用してもらえれば、どうにかやっていけそうだよね」
そうウチの宿屋は素泊まりが基本なのである。街中ではちゃんと食事付きの宿屋もあるのだが、当然の如くその分料金が加算されるわけだ。
ウチの宿屋は今日が開店初日、食事込みとはいえ他の宿屋と同料金では一切客引きにならない……。その判断から宿屋では当面の間『素泊まりのみ』の客を受け入れ、まずはこの場所に「安い宿屋がある!」と思ってもらうことが大事なのだという。
泊り客は一見の冒険者達なのだが、冒険者といえども人間なのである。眠くもなれば、当然のように腹も空くわけだ。そこで一階部分にレストランがある場合、宿を利用する客達は必然的にレストランも一緒に利用するだろうと目論んでの『素泊まりのみ』の作戦だった。
その分、表面上の料金が『素泊まり 2シルバー』との値段からそれなりに泊り客が来てくれたとのこと。
また素泊まりのみなので従業員としては終始泊り客に手をかけることもなく、仕事があるとすれば受け付けと代金の支払う際、そして掃除やベットメイキングくらいなもので他の仕事に影響が少なくて楽なのだ。
ここでも玄関ホールに詰められたジズさんが大いに役立ち、受け付け接客から代金の受領、そして温泉場やレストランなどの店へと案内誘導などを担当してくれたのだ。
もし懸念があるとするならば、それは泊り客達の反応だったのだが、それも幸いというか、泊り客のそのほとんどが冒険者だったので「うわっ!? 何でこんなところにドラゴンがいるのだ!? えっ? この宿の従業員? そうなのか……頑張れよ♪」と冒険者ならではの度量の広さと鈍感さが生かされ、街中どころか建物内にドラゴンがいる絵図らでさえも容易に受け入れられたのだった。
そしてウチの宿のウリである、広い露天風呂も好評だった。通常ならば宿屋で風呂に入れることは滅多に無く、精々湯を沸かしてもらい体を拭くくらいしかできない。
だがウチの宿屋では素泊まり客は無料で利用することができ、また泊らない街の住人達は入湯料金として1シルバーを支払い利用することができる。
ここが他の宿屋と差別化されるポイントでもあった。
温泉は大した手間もかからず、勝手に湯が出てくる(実はギルド直営の宿屋からパイプラインを引っ張りこんでいるとの話)ので、手間は掃除くらいなものである。
そのわりに需要は高く、特に女の子は毎日でも入りたがる生き物なのだ。
そうそうこれは言い忘れていたが、以前風呂場が一つしかなく混浴温泉だと言っていたのだが、今はお客も利用するのでそれは解消されてしまった。
さすがに短期間で男女の仕切り等々を作ることもできないので、時間帯をズラすことで男女の入湯を区別することになった。もちろん従業員は終わってから使うので、その限りではない。
「ま、今のところこのように問題という問題も起きてはいませんね。手間といえば、風呂場の掃除と入湯時間を区切ること……それくらいですかね?」
宿屋についてはこれといった問題もなく、そのようにシズネさんから説明され終わったのだった……。
第169話へつづく




