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元冒険者と元魔王様が営む三ツ星☆☆☆(トリプルスター)SSSランクのお店『悪魔deレストラン』~レストラン経営で世界を統治せよ!~  作者: 雪乃兎姫
第6章 ~経営指南編~

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第166話 市場原理による神の見えざる手と権利の二元原理主義

「そういえばアヤメさん。ずっと聞きそびれていたんですが……今日って、マリーと一緒じゃなかったんですね。珍しいですよね、二人が別々に行動しているのって」


 俺はその存在をすっかり忘れていた一人について、彼女の従者であるアヤメさんへと話を振ることにした。もしこのまま何も触れなかったら、後でマジで怒られてしまうだろうと勘繰っての本能による行動だったのかもしれない。


「ああ、お嬢様ですか? お嬢様はこちらのお店の新規開店する店の手続きをするため、『ヨーゼファ家』と『エルドナルド城』へ行きましたよ。いくら認可を下すのがギルド主体とはいえ、一応報告義務はありますからね」

「そうなんですか?」

「ええ、通常ならば開店後に報告しても平気なんですけどね、でも出来ることなら開店前に、その二ヶ所へは必ず報告をしておいた方がいいですからね。本来ならそのような雑務など私がすべきなのですが、今日はこちらへの荷物運びとお手伝いもありますからね、代わりにお嬢様が報告をされに行かれたのです」


 俺は新規に店を出店することについての概要をまったく知らなかったのだが、アヤメさんの説明によればギルドが許可を発行し、それをギルドの大本である『ヨーゼファ家』と国(政府)である『エルドナルド城』へと報告しなければならないらしい。

 てっきりギルドの中だけで完結するとばかり思っていたのだが、一応国自体も機能はしているのかもしれない。


「その許可、っていうんですか? それって絶対にしないとダメなんですよね?」

「もちろんですよ! 無認可営業……いわゆる『モグリ』と呼ばれるお店や無申告での新規開店または改築や売買などをすると『報告義務』と『納税義務』を故意に怠ったとして、後から多大な税金を罰金として支払わなければならなくなるんです! もちろんお店は『お取り潰し』になりますし、品物や備品なんかも当然のように没収となります。また許可の方も二度と取れなくなってしまうんですよ!」


 軽い気持ちでそう質問しただけだったが、アヤメさんはかなり真剣な面持ちで俺へと詰め寄ると声を荒げて「メリットがまったく無い上に、リスクがあまりにも大きすぎます!」と力説してくれた。

 普段冷静沈着な彼女がここまでになるのだから、もしもその禁忌を犯すとなればそれ相当の報いを受けることになるのだろう。 


「それはやはり納税や周辺地域にある既存のお店を守るため、なのですかね?」

「シズネさん」


 そんなアヤメさんの説明を聞いていたのか、シズネさんは経営や許可に纏わる話に興味を示したかのように話に混ざってきた。


「ええ、一般的にはそう(・・)考えてくだされば良いかと。我々ギルドとして無許可で営業されては本来得られるべき納税が減りますし、その周辺地域にあるお店にも悪影響を及ぼすと思われます。またそれと同時に、過度な同業種への新規出店を抑制するためでもありますね」

「モグリの店だと納税なんかしないから国やギルドへの税金減るのはなんとなく理解できるんですけど、その周辺のお店に影響あるっていうのは一体どういうことなんです、アヤメさん?」


 一応紛いなりにもこの店の主の片割れ、後々行うであろう納税への知識は俺でさえも少なからず持ち合わせていた。「だが同業種が勝手に増えると何故ダメなのか?」そこはあまり理解できず、質問するという形で彼女に聞いてみることにした。


「旦那様、こう考えてみてはいかがでしょうか? ジャスミンの店は『道具屋』を、アリッサの店は『武具屋』となりますので、当然二つの店は異業種となりますよね? これが例えば一階と二階どちらも道具屋だった場合、もしくは武具屋だった場合にはどうなるとお思いですか? 一応の条件として商品の値段も質、種類などもすべて同じ場合とお考えください」

「同じ店が一つの建物に二軒入ってるのか? それに値段とか品揃えが同じだったとすると、どちらか片方にしか客は来ないかもだな。たぶん……一階にある店の方が有利になるよな? 何せ二階にある店に行くには毎回毎回、一階の店を通るわけだし」


 シズネさんから例え話という形でそう説明された俺は、そこでようやく納得することができた。人間、解り易い例え話を交えて説明されれば、容易に納得できるものである。


「ええ、そうですね。その場合の対策として一番効果的なのは、二階にある店舗は同じ品物を一階の店舗よりも価格を引き下げ集客を狙うはずです」

「確かにそうするとバランスが……いや、でもそれだとその後、一階の店舗まで価格を引き下げたらどうなるんだ? そしたら同じく二階には客が来なくなるよね? それだとまた二階も下げ、今度は一階も下げて……延々その繰り返しになっちまうよな!」


 それは恐ろしい負の連鎖だった。客が入らないからと商品の値段を下げれば、もう一方の店も合わせて下げる。延々その繰り返しに陥り、最終的にはどちらの店舗も経営が立ち行かなくなり、やがては両方潰れてしまうのだ。


「はい。だから許可する側、この場合は『商業ギルド』になるわけですが、ある程度新規出店への抑制を促すわけです。これならば近くに同業種が増えず、それと同時に商品価格の下落を抑えられます。もちろん商品価格の下落について買う側にとってはとても都合が良いでしょうが、利益が残らなければ当然お店はやっていけません。それに人を雇うことも納税もできないから最悪の事態に陥ってしまうのです。店舗への許可とは競争率の抑制と商品価格の適正化を促す『ストッパー』のような役割を果たしているんです。これはいわゆる『神の見えざる手』と呼ばれる市場原理なんです」


 そこまでの説明を受けて、ようやく俺はすべてを理解するのだった。だがそれと同時に疑問を持ったのも確かである。つまりそれだけの決定権があるギルドには相応の権力()があるということになる。自分の組織への利益・不利益によって許可の出す出さないをしてしまえるわけだ。


「……とは言っても、ギルドのその許可が『適正』か『否』か、についてを更に判断を下すのは上にある組織……つまり政府()なんですけどね。どちらか一方に権力を集中させないための抑制で、これを『二元原理主義』と呼ばれる仕組みなんです」

「なるほど。ギルドや政府でも二重に判断するから、どちらか一方へと権力が偏らないような仕組みになってるんですね!」


 国は国で一応それらしい仕組みを施行してはいるようだ。だから今、この街にある店の経営は安定しているのかもしれない。



 第167話へつづく

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