第163話 実戦用と見世物用の甲冑の相違について
「……ほっ。どうやらどこも壊れたはいないようだね。でも気をつけておくれよ。これはパレードアーマーと違って本物なんだから、壊れたら商品価値が大幅に下がっちまうじゃないか」
「そ、それもそうだよな。壊れたら売れなくまっちまうもんなぁ。わりぃ……」
俺はアリッサへと頭を下げ謝ると、「次から気をつけてくれりゃいいさね。あたいもちと過敏に反応しちまったよ。すまなかったね……」と少し言い過ぎたと思ったのか、罰が悪そうに謝罪の言葉を口にしてくれた。
アリッサも言葉こそ粗暴であるが、根は良い人間なのだ。ただ性格のせいなのか、人との接し方、そして距離感が上手く掴めないのだと思う。彼女の人となりを知らないければ、言葉や態度から悪い人なのだと勘違いしてしまうかもしれない。
「確か、もう一方の箱にコレの下部分のパーツも入っていたはずだよ。早く取ってきておくれよ」
「うん? 今、それ持ってこないとダメなのか?」
俺は何故このタイミングで甲冑の下部分のパーツを取りに行って来いと言われたのか理解できず、思わず首を傾げ彼女の顔を見てしまう。
「(照)い、言わなくてもほんとは解かってるんだろ? ……ったく。よ、要するに今からコレを組み立てるから、アンタにも手伝って欲しいってことさね!」
「……あっ。わ、分かった。今持ってくるから」
アリッサは少し照れながら「俺にも組み立てるのを手伝って欲しい」と言ってくれた。たぶんこのままでは気まずいとの思いから、そう言ってくれたんだと思う。
俺は急ぎ一階へと降り荷馬車へと駆け込み、もう一つの箱を運ぶことにした。
「よいしょっと。こっちはさっきのよりも案外軽いんだな」
先程とは打って変わったようにもう一つの木箱はとても軽かった。たぶんコチラには脛当てや籠手など細々としたパーツしか入っていないのかもしれない。
「ほい。持って来たぞ」
「ああ、早かったね。たぶんそっちに甲冑を立てる心木が入っているはずだよ」
トン。アリッサの目の前に箱を置くと、さっそく中を開けてみることに。中には彼女の言ったとおり、細長い木々が何本か入っており、釘などが不要な組み込み式のような穴が所々開いていた。コレを合わせ込んで心木としての支えにするのだろう。
「本当なら、ちゃんとしたディスプレイ用のパレードアーマーでもありゃ良かったんだけどね。贅沢も言えないからねぇ~」
「それは追々、金に余裕ができてきてからでもいいんじゃねぇか?」
彼女は独り言とも思える、そんなことを呟いていた。
『パレードアーマー』とは文字通り、実戦用途に使われる『フルプレートアーマー』とは違い、主にパレード……つまり人に見せるためのアーマーの総称だ。
実戦用のフルプレートアーマーは防御を主体としており、カッコイイ見た目とは裏腹にとても動きづらいものである。これは敵の攻撃から体を守るために装甲が厚く、そしてとても重いわけだ。また体へのフィット感、つまり体と鎧部に隙間ができないようピッチリと作られているため、着用者の着心地の悪さを大幅に犠牲にしている。
だから歩く度に脛部分にプレートが当たることで擦り痛かったり、首周りがしっかりしているため左右に動かすのが困難になったり、また兜の重さで首を痛めたり、肘を曲げる際、腕の内側にプレートが食い込み痛かったりなど様々な不便さが生まれることになる。だが代わりと言っては何なのだが、攻撃から身を守ることにおいては『絶対的』と言えるだろう。
またかなりの重量があるため、少しくらい歩いても首部分や腕部分、それに膝部分などがまったく浮かび上がらないため、弓や剣が入る隙間がまったく生まれないことになる。いくら装甲が厚く絶対的な防御を誇るアーマーだったとしても、アーマーとアーマーの間……つまり繋ぎ目などは外から生身の部分が動く度に露出することになり、そこが唯一の弱点となってしまうわけだ。だからアーマーを着込んでいる相手に奇襲する際には、敵のアーマー部を少しズラしてやれば簡単に致命傷を負わせることができることになる。だがそれは逆もしかりということでもあるわけだ。
代わりにパレードアーマーは儀礼時などに見せることが主体となるため、見た目はまったく同じにも関わらず内部がスカスカでパレード等で街中を歩く際にも、とても動きやすいのだ。だが着心地の良さと見た目重視なため、装甲が紙のように薄くとても軽く、容易に剣刃や弓矢を貫通するので実戦用途にはまったく向かないことになる。
それと同時に軽さと動きやすさ重視なため体にはまったくフィットせず、歩く度に致命的な隙間が常に生まれてしまう。むしろこんなものを着て戦えば、一撃死も容易にあり得ることだろう。
「ちょいとアンタ、ここを押さえておいてくれるかい?」
「んっ、よしここだな?」
そうして壁際に設置した甲冑はいとも容易く飾り付けることができたのだった。これならばちょっとくらい客が手を触れようとも、容易に倒れたりはしないはずだ。同じ要領で甲冑をいくつか設置し終え、剣を刺し置く備品棚や会計用のテーブル棚などを並べ置き、ようやくアリッサの武具屋は完成するのだった……。
第164話へつづく




