第147話 必要悪と信頼関係との兼ね合いと、その先への導き手
「その解決策ってのは一体何なんだよ、シズネさん?」
俺は居た堪れなくなり……まぁぶっちゃけ仕事をサボっていたことから少しでも話題を逸らすため、話を聞いてそちら側へと寄せるようとしているだけなのだがな。
「ええ、話は簡単ですよ。ウチももう『レストラン』『宿屋』『道具屋』『武具屋』ときましたからね。そろそろ手札が揃い始めましたしね、最後に『クラン』を開こうかと思っています」
「クラン……を?」
今何故、クランの話になったのか皆目検討も付かないのだが、何かしらの関係性があるのかもしれない。
ちなみにその『クラン』とは『冒険者ギルド』のようなもので、名称が違うくらいしか明確な違いはない。きっとギルド側が冒険者ギルドを牛耳っているから、あくまで被らないようにクランと称してシズネさんは言ってるのだと思う。
冒険者ギルドとはその名のとおり、冒険者のための『ギルド』である。そしてギルドとは依頼、いわゆる『クエスト依頼』と呼ばれるものを依頼したり受注したりする場所の総称だ。
クエスト依頼の一例だと『旅商人の護衛』『探し物』『荷物運び』『道路整備』『悪さをするモンスターの討伐』などが挙げられる。依頼人は様々で商人はもちろんのこと、街に住む人達や貴族、時には国からもクエスト依頼があることがある。
また依頼というからには、当然の如く報奨金が発生することになる。報奨金も様々でいわゆる流通通貨である『シルバー』や野菜などの作物の『現物支給』、時には店先では見かけない『珍しい武具』や『レアアイテム』など、その依頼内容によって変わってくるわけだ。
それと同時にクエスト依頼には依頼内容に応じて『難易度』が設定されており、『探し物』などの比較的危険度が低いとされるものなどは星ランクが一つの☆。逆にドラゴン討伐など、一般の冒険者にはとてもクリアできない高難易度のものになると星ランクが5つの☆☆☆☆☆となり、その報酬も破格のものになる。
だがしかし、クエストを依頼するのにも、またそれと同時にクエストを受けるのにも、必ず『冒険者ギルド』を通さなければならない。
これは依頼人と受注主である冒険者との間に信頼関係が生じない場合はもちろんのこと、互いの個人情報を秘匿する狙いもある。よって互いに一応信頼できる『冒険者ギルド』を間に挟むことで『報酬』と『成果』を結びつけ、互いの信頼関係に干渉することなく、安定的にクエスト依頼をこなせることになる。
これはもちろんのことなのだが……間を挟むということは、当然冒険者ギルド側に手数料を支払わなければならないことになる。
依頼人は報酬の他に手数料を払い、そして依頼を受ける側の冒険者は事前に『登録手数料』と『これまでの依頼成果』を信頼・信用という形で冒険者ギルドに預けている形になる。また成功報酬の一部から強制的に『紹介手数料』として、容赦なく差し引かれるわけだ。
「なら、依頼人も冒険者も冒険者ギルドを通さないほうがお得なのではないか?」などと最初は誰しもが考えるのだが、先程述べたように「本当に依頼内容が成功したのか?」「成果を挙げたとしても、ちゃんと報酬は支払われるのか?」という心理が働き、上手くいかない。
結局は『冒険者ギルド』という間を挟まなければ、『クエスト依頼』は成り立たないということになるわけだ。
「……ま、これくらい元冒険者の旦那様ならご存知ですよね?」
「うん。まぁ『冒険者ギルド』があくどい事してるのはみんな知ってるけれども、結局あそこを通さないと立ち行かないのが現状なんだよね」
シズネさんのその説明を聞きながら、改めて冒険者ギルドがいかに『必要悪』なのかという事を相槌を打ちながら確認する。
「ええ、そこで私達が新たなに『クラン』を開き、ギルド直営の『冒険者ギルド』に取って代わろうというわけなのですよ。またそこで冒険者達と培われた信頼関係はそのままアリッサの店だけではなく、ウチの店全部と情報という形で共有するつもりなんです!」
「あっ……そっか。そういうことなのか……」
つまりシズネさんは『クラン』を開くことにより、クエスト依頼で手数料を稼ぎつつ、冒険者達への『信頼・信用』と情報を元に武具の貸し付けのレンタル、そして質屋の店などと結びつける狙いがあるらしい。
これならば互いにある程度の信頼関係が築けるので取りっぱぐれも少なくなり、また互いの利益となり得る。
俺達店側はこれまでのクエスト受注などから冒険者の性格や仕事成果を推し量り、それと同時に手数料と売買、利息などで確実な利益となる。
また冒険者側も仕事を得られると同時に、これまで値段が高く手が出なかった武具を『レンタル』という形で融通してもらい、更に強い敵と安全に戦うことができ、ウチの店限定になるがレストラン等でツケも出来るようにわるわけだ。
「ま、とは言ってもすぐにそのような形を取れるわけではありませんがね。追々……ということになるでしょう」
「それもそうだよね。でも手始めに……ってことでしょ?」
どうやらギルド側と本格的に対立するため、様々な異業種を展開したのだろう。またそれと同時にこれまで馴染みが無かった『レンタル制度』や『質』なども加われば、ギルドの牙城の一部を削り取れるかもしれない。
「もしかしてシズネさんは最初から……そうするつもりだったかよ?」
「うん? ふふふっ……さてさてどうでしょうねぇ~。いつものようにコレらも後付け設定かもしれませんよ♪」
シズネさんはいつものように軽い調子で答えていたが、俺は「もしも最初から組み込まれていたのなら……」とこれまで以上にシズネさんが恐ろしいと感じてしまうのだった……。
常に後付け設定を念頭に物語りを描きつつも、「あれ……もしかして全部が全部、伏線だったとか……?」っと、どちらとも取れるスタンスを示しながら、お話は第148話へつづく




