第144話 商品代金の支払方法の何たるか
「うん? ああ、『仕入れ代金』のこと言ってんのかい? それなら大丈夫だから安心おしよ!」
「えっ? でもアリッサ達って確か……」
そうアリッサは文無しだと言うのに、何故だかとても自信満々に偉ぶっていたのだ。俺は「なんで?」と思い、首を捻ってしまう。
「あっ、もしかして卸問屋に買い掛けしてもらうつもりなのかよ?」
『買い掛け』とはいわゆる信用買いを指す言葉である。始めのうちは互いに信用も実績も無いので『現金取引』が主な支払い方法になる。
これは商品を買う側としては、不良品や品質が著しく劣る品物を納められてしまうのではないか? との不安から現金で……と望み、また商品を卸す側としては、商品を納めたのに代金を払わず持ち逃げされるのではないか? との不安から現金で……などという互いにそういった心理が働いているのだろう。
だがそれも取引を続けていくうち、次第に信用が付き毎回毎回取引の度に現金をやり取りすることが面倒になるのだ。
だからある程度取引実績が築かれていくと、その信用で商品を仕入れ、代金は月末払いで良いなどの『買い掛け』をすることができる。逆に売る側は相手の信用で商品を納め代金は月末集金となる、いわゆる『売り掛け』と呼ばれるものになる。
『買い掛け』『売り掛け』などと聞くと少し難しい仕組みに思えるだろうが、飲食店で例えるといわゆる『ツケ』が信用取引に値する言葉だろう。このツケとは『客が代金を支払わないので台帳に書き付けておく(または書き留めておく)』という言葉の略称なのだ。
だが飲食店の代金のような微々たるツケとはいえ、支払わず逃げてしまう客もいるので、こちらも店と客との信用があって始めて成り立つものである。
もちろん一番信用できるのは、取引毎に現金でやり取りするのが安全安心であるのは言うまでも無いことだろう。
かくゆう俺もウチが食材仕入れできない時、アヤメさん(ギルド)から融通された際に「代金は……」と尋ねると、「あっ、月末で大丈夫ですからね♪」と然も当然のように言われてしまい、そこで信用買いができるほど俺達は信用されているのだと改めて思い知らされたものだ。
またこの他にも、商品を卸す前に代金を支払う『先払い』方法や先に代金の一部を納める『内金』などの支払方法もある。だがそれらはすべて商品を売り側には有利になる支払い方法なのだ。
買う側に有利になる支払い方法としては『手形』くらいなものなのだが、この街でそれが通用するのは商取引をしている大手……つまり『ギルド』くらいしか使えない支払い方法である。
『手形』とは元々文字通り手の形を紙に判として押したものの総称である。今現在は手の形ではなく印などと一緒に金額を書き込み、偽造防止のため割り印や特殊な判子、紙自体にすかしなどを入れる場合もある。
一見するとそれはただの紙切れなのだが、そこに信用が付くと貨幣価値と同等の価値を生むことになるわけだ。
「いいや、違うさね。あたいにゃ~、まだこの街じゃ何の信用もヘッタクレも何もありゃしないからねぇ~。そもそも信用買いなんてものは、したくともできやしないんだよ。そんなことができるのは……それこそアンタんとこの嬢ちゃんか、顔が広いジャスミンの嬢ちゃんくらいなものだろ? 違うかい?」
「あっ。そう……だよな。わりぃ……アリッサ」
俺はその言葉を聞いて配慮のない事をアリッサに言ってしまったと、すぐさま頭を下げ謝った。アリッサは気にもしていないのか、「ふん。別にアンタが悪いわけじゃないんだから頭を上げなよ」と俺に謝られたこと自体が照れくさいかのように言ってくれる。
「じゃあ……アリッサは一体どうやって商品を仕入れるってんだよ」
「ふふん。あたいの店はね『棚貸し』……つまり『委託販売』をして儲けるつもりさね」
「棚貸しだってぇ~っ?」
俺はアリッサのその言葉を聞いて驚きを隠せなかった。
『棚貸し』とはいわゆる『商品を並べ売る棚を貸す』ということだ。商品を納める卸問屋側としては『商品貸し』とも言われる。つまりアリッサは卸問屋から商品を預かって、それを自分の店先で売る。そこで売り得た利益は互いに入ることになる。これならば仕入れ代金もほとんど必要にはならないことになる。
だが棚貸しは商品を仕入れて売るよりも、本来得られる利益が大幅に下がってしまうデメリットがあるのだ。しかし逆を言えば、例え商品が売れなくてもアリッサは商品が売れ残る心配が無いというメリットがあるわけだ。
また卸問屋としては、当然の如く普通の商売のように商品が売れ残るリスクを生じるわけなのだが、商品を並べて売ってもらう利益と同時に在庫を自分の所で保管しなくてもよいという在庫の置き場としても使えることになる。
商品を大量に抱えるということは、その保管する場所にも当然費用がかかり、またそれに伴う人件費もかかるということだ。だから卸問屋としても商品を在庫として、ただ寝かせてよりかは利益が少なくとも、『委託販売』という形で売ってもらう方がありがたいのだ。
そしてそれら互いの『メリット』『デメリット』が利益の配分率へと繋がることになるのである。
ふざけたこと内容しか書けないと読者から思われ続けるのもな~んか癪なので、商取引について真面目に語り、むしろこっちの方が得意なんですよ! と知らしめながらも、お話は第145話へつづく




