第142話 モンスターと言えど人間同様、生き物である。
「へぇ~っ。お兄さんってば、子供の扱い上手なんだねぇ~」
「えっ? あ、ああ……いやこれは、そのなんだ……(照)」
俺はすっかりもきゅ子の可愛さに見惚れてしまい、すっかりみんなが居る朝食の場だということを忘れてしまっていた。そしてアリアから声をかけられ、現実へと引き戻され俺は自分がしていた事や一連の流れを見られていた事が恥ずかしいやらで顔を下に向けて照れてしまう。
「あっはははっ。いいのいいの。別に恥じるようなことじゃないわよ~。むしろ子供好きなら、いつ子供が出来ても安心だしねぇ~って思っただけだから、気にしないでね~」
「こ、子供って……(照)」
「一体誰の子供だよ!」とアリアにツッコミたくとも、照れてしまい上手く言葉が口には出せなかった。たぶん言ったら言ったで、またからかわれてしまう。
「もきゅぅ~?」
「……ああ、いや何でもねぇよ。ほらもきゅ子、口開けて……」
「どうしたの?」と首を傾げ服をくいくいっと引っ張ってくるもきゅ子を尻目に、恥ずかしさを誤魔化すよう食べさせるのを続ける。
本来なら自分の分を食べることで照れるのを誤魔化すこともできるのだが、さすがにもきゅ子をこのままにしておくことはできなかった。
「ま、そこが旦那様の可愛いところなんですよ……」
聞こえない程度の声で、通りすがりのシズネさんが駄目押しの一言を呟いていた。アリアにも聞こえていたのか、「確かにねぇ~」と賛同するように笑っている。
「(もぐもぐ)そういやさ、アマネのヤツはどこ行ったんだよ? それにジャスミンの姿も見えないしさ。もしかして先に朝食を食べて、店の片付けでもしてるのか?」
もきゅ子に一通り食べさせると、俺は冷め切った朝食を食べながら姿を見せない二人について聞いてみることにした。
「お二人なら、朝早くに街外れまで出かけましたよ」
「街外れ? 朝早くに?」
「一体何の目的で?」俺はシズネさんの言葉を繰り返すことで、暗にそう示した。
「ほらジャスミンの店で扱う『薬草』を摂りに行くそうですよ」
「あ~っ。そういやそんなことも言ってたな」
少しマナーが悪いのだが俺は食べ進めながら話を聞き、昨日ジャスミンが言っていたことを思い出してしまう。
ジャスミンの店で扱う予定の薬草などは街外れに生えているそうだ。これならば仕入れ代金が無料になるので、利益を上げつつも値段を抑えられる。確かそんなことを言っていた気がする。
「じゃあアマネも一緒に薬草摘みに?」
「ええ、一応『街の外』ですしね。護衛がいれば安心だからと自ら買って出てくれたそうですよ」
どうやら姿を見せないもう一人のアマネもジャスミンの護衛として、『薬草摘み』へと出かけているらしい。
確かに街の外ではモンスターの危険もあるし、山賊などの心配もある。
それにいくらジャスミンが西から来た商人で旅に慣れているからと言ってもまだ住み慣れない土地であり、それと同時に女の子なのだ。一人で出歩くには少し無用心すぎることだろう。
だが勇者であるアマネが傍に付いて護衛をしてくれるならば、安心できると言うものである。
「じゃあ今日の昼の営業は二人抜きになるのかな?」
まだ仕事を始めてから半月にもなっていないが、アマネやジャスミンというベテラン勢二人が抜けてしまうのは痛い。新たにアリアやアリッサを戦力に加えようにも、まだ一度も働いたことがなく勝手が分からなければ効率は大幅におちてしまうことになる。そこが不安になりシズネさんに再度聞いてみることにしたわけなのだ。
「うん? ああ、いえいえ一応昼前には帰ってくると言ってましたよ。それに午後からはモンスター達も活動を始める時間帯になりますしね。だから早朝に出かけたわけですし……」
「そっか……昼前には帰って来るんだね。なら、ジャスミン達もそうだけど、俺達だって安心だね」
俺は昼の営業の心配も然ることながら、二人がいつ帰ってくるのかも心配していた。だがシズネさんの話では、二人は事前に昼前には帰ってくると言っていたようだ。
これならば夜になって遭難する心配もないし、モンスターや山賊の類の心配する必要性もないだろう。
そうモンスター……魔物と言えど『生き物』なのだ。だからお腹が空けば食事を摂るだろうし、疲れたら息も切れる。またダメージを受けたら血を流す。そして当然の如く『睡眠』だって必要になる。よって人間同様、必然的に活動しやすい時間帯なども生まれてくることになるわけだ。
一般的には「朝早くから活動する!」な~んて人間染みたこともなく、お昼過ぎの午後から活動を始めて夕方から夜にかけて活発になってくると言われているらしい。
ま、と言っても必ずその時間帯だけという事もなく、昼間だってモンスターに出遭うことはある。そして何よりこの街で誘致した光が届かないダンジョンにおいては、そもそも時間帯なんぞ関係なく活動をしているのだ。
それはたぶん人間と同じで、太陽の光の有り無しが関係しているのかもしれない。何故なら昨日の夜、ジズさんと別れる際にも顔を伏せ眠るようにしていたので、モンスターの最上位に位置し屈強と言われるドラゴンでさえも睡眠は取るものだと容易に推察できるからだ。
「じゃあ旦那様が朝食を食べ終わったら、みんなでレストランの開店の準備をしながら、今日は一日店の片付けや掃除を並行させて行動いたしましょうかね。あっ、当然ですがウチの店にお客様がご来店の際にはこちらを優先してくださいね!」
「は~い♪ ちゃ~んと、心得てま~す♪」
「……んっ」
「おう、なのじゃ!」
「もきゅもきゅ♪」
シズネさんはみんなに言い聞かせるようレストラン業務と並行させながら、掃除などをするように伝えた。特に意見もなく、みんな頷き返事をしている。
「それでよろしいですよね、旦那様?」
「うん。俺も早いとこ、食べちまうから……」
シズネさんは最後に念を押し確認するように俺にも聞いてくる。たぶん俺を旦那様……つまりこの店で『一番上の立場である』とみんなの前で立ててくれているのかもしれない。
俺は少し嬉しくなりながらも、早々と朝食を済ませるのだった……。
あれ? いつの間にかモブ男が上に立ってるんですけど……などと読者にバレぬよう、しれっと立ち位置を変えつつも、お話は第143話へつづく




