第141話 可愛いヤツは何をするにも可愛い
「うわぁっ、あっちちーっ。ほふほふ……う~ん♪ 今日も美味いなぁ~♪ 毎日飯が食えるのはほんと良いよなぁ~……」
俺は口の中が火傷するほど熱い肉汁溢れるソーセージに齧り付きながら、そんな感想を漏らしてしまう。
何故ならこうして三食欠かすことなく、ちゃんとした物を食べれることはとても幸せなことなのである。
冒険者ではない庶民の中にはその日食べるものにも困り果て、一日一食なんてのも珍しくはなかった。特に農家は『金にならない不出来な作物』や『古い葉物野菜』、そして『イモ』や『豆』くらいしか口にできないのだ。
その原因として作物を作る農家には、ギルドへと収める税『作付け税』というものが課せられているからである。
「は~い、今日はなんとなんとスープまであるのですよ~。ま……と言ってもクズ野菜を煮込んで作った余り物なんですがね。くくくっ」
そう言いながらシズネさんはスープを俺達に持ってきてくれた。
「おっ! ほんとう? いい、いい。全然気にしないよ」
「おや、そうですか? それでは……はい、旦那様」
クズ野菜が使われているので、シズネさんも少し遠慮気味といった感じに俺の目の前へとスープを置いてくれた。また熱いスープを飲むのにスプーンまで付けてくれるありがたさ。
そのスープをよぉ~く見れば、色は無色透明で『じゃがいも』や『人参』の外皮、葉物野菜の切れ端などが入っているスープである。肉などは一欠けらも入っておらず、野菜だけで作った塩味のスープなのだろう。
俺はさっそくと言わんばかりにスプーンを手に取ると、奥から手前へとスープを掬い一口飲んでみることにした。
「どれどれ……んっ。少し薄味だけど、これはこれでイケるかもしれないね。普通に美味しいよ、シズネさん」
ズッ。吸う際に少しだけ啜り音が出てしまったが、ご愛嬌。俺にしてみればやや薄味だったが、不味くはなかった。
むしろほんのりとした塩味に野菜の甘味が付いている上手なことを言うなら、素材を生かしたちょっとした上品の味とも言えるかもしれない。
「それは良かったです。ジャスミンもそれを聞いたら喜びますよ」
どうやらこのスープはジャスミンが作ったものらしい。これまでスープの類は出てきたことがなかったので、納得である。
「んっ?」
そして二口目を口にしようとふと隣に目を差し向けてみれば、もきゅ子が何やらスープに悪戦苦闘している様子。
「もっ……きゅ! もっ……きゅぅっ!! も、もきゅぅ~~っ」
短い右手でスプーンを握り締めて必死にスープを飲もうとしているのだが、生憎とスプーンの窪みが上向きになっており、あれではいくら頑張ってもスープを掬えないだろう。もきゅもきゅ鳴きながら「何で? 何でスープが上手く掬えないの?」っと少し悲しげに鳴いている。
「(あ~~~っ、もうっ! ほんともきゅ子は可愛いなチクショーッ!! 何でこうお前はイチイチ行動が可愛いんだよ!!)」
俺はそんなもきゅ子の行動に愛らしさを感じてしまい、手伝ってやることにした。
「ほら、もきゅ子。貸してみ」
「もっ、もきゅ!? もきゅきゅっ! きゅっ! もきゅ……きゅ、もきゅ~っ!」
俺はもきゅ子が必死に飲もうとしているスープを持ち上げ、飲ませてやろうとする。
だがしかし、もきゅ子はそれを自分の分を取り上げられたと勘違いしたのか「えっ、何で取り上げちゃうの!? それ私の分なんだよ! 返してよ! ねぇ……それ、返してよ~っ!」と言いたげに椅子の上へと立ち上がり、必死に両手を伸ばしてスープを取り返そうとしている。
「ちげーって! もきゅ子、お前の分を取り上げようとしてるんじゃねぇよ。ほら、飲ませてやるからその持ってるスプーンも貸してみ」
「も……きゅ? きゅ!」
俺の言葉が通じているのか、ちゃんと言い聞かせると「そう……なの? はい!」首を少し傾けながらも右手に持っているスプーンを差し出してくれる。
「ふーふー。ほら、冷ましてやったから口を大きく開けてみな」
「きゅ? もーーーーきゅっ」
まだ熱いスープそのままでは、もきゅ子の口の中は火傷をしてしまうからもしれない。俺はスプーンで掬ったスープに息を吹きかけ、飲みやすいようにと冷ましてやった。
そして言われたとおりもきゅ子は両目を瞑ると大きく口を開いた。
「(何だかちょっと可愛いな……あっ、いけね、いけね)」
「きゅ~~~っ」
俺に言われるがまま目を瞑り大きく口を開けているもきゅ子が可愛く思えてしまい、そこで思考が停止してしまうが「まだ~~~っ」っと言いたそうに聞こえると、我に返って飲ませてやることにした。
「んっ……どうだ? 熱くないか?」
「ズッ……もきゅん♪ もきゅもきゅ♪」
スープを飲み込む際の音も、何とも可愛らしいもきゅ子。
「(もきゅん♪ だってよぉ~。どうするよ、おい?)」
ちょっと危ない感覚になりつつあるが、続けて飲ませてやる。
「ふふっ。じゃあもう一回な。ふーふーっ。ほら、口を開けて~」
「もきゅ♪ もーきゅー、もーきゅーっ。……もきゅん♪ もきゅもきゅ♪」
もう一度ふーふーして冷ましてやると、何故かもきゅ子までもそれを真似して一緒にスプーンに息を吹きかける。そして同じように飲み込むと、とても嬉しそうにしている。
何だかちょっとしたことなのだが、まるで自分の子供の世話をしているように俺までも嬉しくなってしまっていた。もしかすると子供を持つとはこのような気持ちなのかもしれない……。
スープをただ飲むだけ……そんなもきゅ子の可愛さに癒しを感じつつ、お話は第142話へつづく
※作付け税=悪レス独自の言葉。作付けする物・面積に対して発生する税。後々語る予定




