第137話 睡眠は種族間の壁など持ち合わせていないらしい……
「じゃあ兄さん、お休みなさいですー」
「うん。お休みジズさん」
俺達は互いに話を引っ張りすぎたと、ようやくお休みの挨拶をして体を休めることにした。
そして店に戻る途中、ふと後ろを振り返ってみるとジズさんはその場に頭を擡げさせ、顔を伏せるように眠りについているのが見えた。俺は安心して「ゆっくり休みなよ……」と心内で思いながら、自らも体を休めるため部屋へと戻って行った。
「ただいまっと……。二人とも、もう寝てるか」
「も~っ、きゅーっ。も~っ、きゅーっ」
「妾はいつか~、世界を~……す」
見れば今日も今日とて俺専用のはずのベットの上には、寝息と共にぽっこりお腹を膨らませ幸せそうに眠るもきゅ子と共に、その右脇には剣の姿のままのサタナキアさんが眠りについていたのだった。
何気に二人仲良く寝ている姿を毎日見ていると、俺としても謎の安心感を得るようになっていたのだ。
「(もきゅ子、相変わらず可愛い寝顔してんなぁ~。これじゃあ文句言いたくても言えやしねぇよ)」
さすがはジズさんが言うように『姫さん』なのか、ちゃんと仰向けになりながらも短い両手だけはぴょっこりと毛布から顔を覗かせている。大きなお目目はしっかりと瞑られており、口元はニョロ~ニョロ~っとどこか笑っているようにも見える。きっと暖かな毛布の中と柔らかいベットで安心して良い夢を見ていることだろう。
そして今度はその隣にいるサタナキアさんの方、つまり俺の手前側(扉から見ると入り口側)へと目を向けて見ることに。
「…………」
(今考えるとさ、これってば凄いことだよなぁ~。だってよ、魔王を倒せる唯一の剣が抜き身のまま、その倒すべき魔王様の隣で寝てるんだぜ。しかも傍目にゃ~ベットの上にただ剣が置かれてると思いきや、寝言立ててるんだもん。他の人が見たらさぞかし吃驚するだろうなぁ)
俺は今更ながらにそう思い考え、珍妙な光景だと改めて自覚した。
「ん~~~……んっ」
トン……パタン。サタナキアさんは寝相が悪いのか、どっちが表か裏だか判らないのに寝がいりを打つようにそのまま半回転したのだ。
「うわぁ~」
「剣身の姿なのに顔とか背中とかあんのかよ……」と思わず、言いそうに驚きの声が漏れ出てしまう。だが確かにサタナキアさんが移動する際、剣身の平らな部分どちらかでしか一方でしか前に移動していないと気づき、たぶん彼女なりに正面とか背中の定義があるのかもしれない。
「ん~~っ。今に見ておれよ~。妾はきっと~……」
「きゅっ!」
「…………おごっ!」
カン! サタナキアさんがまたしても寝言を呟きそうになるとそれが煩いと感じたのか、もきゅ子はまるでツッコミを入れるようにその短い右手の甲でサタナキアさんの平らな剣身部分を一度叩いた。
「おごごごごごごごっ……」
確かにそれでサタナキアさんの寝言というか寝台詞(?)を止めることができたのだったが、今度はダメージに対する痛みをおごおご唸っていた。
「も~~~っ……きゅ!」
先程よりも逆に煩くなり、今度は寝がいりを打つついでとばかりにもきゅ子は右へと傾き、勢いをつけたまま左フックのように、且つ的確と打撃を増してサタナキアさんの剣身平ら部分へと襲い掛かる。
ガンッ! 何やら少し重々しい音が部屋に響き渡る。たぶん先程からもきゅ子の鋭い爪が当り散らしているのかもしれない。
「……ごっ」
さすがに今度ばかりはダメージが大きかったのか、それとも鼾を掻き寝ている最中に外部から揺り動かされると鼾が止まる原理が働いたのかもしれない。
「ははっ」
(いや、ほんとサタナキアさんって、魔神らしいけれどもまるで人間みたいな反応するんだなぁ)
そのあまりにも人間らしいサタナキアさんに対し、俺は自然と笑みが漏れてしまった。確かに生き物である以上、眠りについている時が一番無防備なのかもしれない。どうやらこの物語は睡眠に関し、種族間の壁など持ち合わせていないようだ。まぁそもそもサタナキアさんが生き物の分類なのかは甚だ疑問なのだが。
「んっ……ふふ」
俺は今にもはみ出し、ベットから今にも落ちようとしているサタナキアさんを元に戻すと、もきゅ子共々毛布を掛け直してやる。
「もきゅ~ぅ?」
「大丈夫、大丈夫だから……。もきゅ子、そのまま安心して寝てていいからな」
「きゅ~っ? ……も~っ、きゅーっ。も~っ、きゅーっ」
途中もきゅ子が起こしてしまいそうになったが、安心させるよう軽くお腹をぽんぽんっと二回だけ叩き、再び眠りに付くよう声をかけてやる。すると何事も無かったように寝息が聞こえてきた。
「さて、俺も寝るか……」
そして今日もこの部屋の主だというのに俺はベットの隅っこで、まるでハムスターのように身を縮めその場に収まる。一人用のベットにもきゅ子とサタナキアさんがいるのでとても狭いわけなのだが、俺は隣にある温かさのおかげで安心して眠りに付くのだった……。
常に発想力の違いで他作品とは一線も二線も欠きまくる! いやいや、欠いちゃダメだろう……などと、話末で反義語調のノリツッコミをしながらも、お話は第138話へつづく




