第134話 疲れを最大限癒すには気持ちいいことに限るin混浴
「ととーっ!? ぜいぜい……こ、ここか。噂の女の子と合法的に混浴できる風呂場は!」
俺は同じ建物の中という短い距離だというのに息も絶え絶えになりながら、その風呂場へと辿り着く。確かにジズさんの言うとおり入り口はここの一箇所しかなく、中で二つに分かれるほど広くはないはずなのだ。これはもう……それしかない。
「ごくりっ」
俺は渇き痛いほどカラカラになった喉を生唾を飲むことで、どうにか気持ちを落ち着けようと努力する。だがそれでも混浴という二文字の前では屈してしまう……それが漢ならばぁぁっ!!
「うっし!」
ビシビシ。両手で自らの頬を叩いて気合を入れ直し、中へと入って行った。
「うん? ここにはちゃんとカゴまであるのか……」
見ればそこにはちゃんとした脱衣所が備えられ、脱いだ服を入れておく木で作られたカゴがいくつか置かれていたのだ。「シズネさんが用意したのかな?」と一瞬思ってしまったが、以前ここが宿屋だったことを思い出した。きっとその名残りというか、備品なのだろう。
「……ふふっ」
俺もとりあえず中へと入るため、服を脱ぎ始めることに。だがさすがに男の脱衣なんて興味をそそられないと思うので、このあたりの文字描写は意味深な笑いだけで割愛させてもらうとしよう。
「……んっ? この鎧は……もしかしてアマネさんの!?」
そこでいくつかあるカゴの中に入っているアマネの鎧を見つけてしまったのだ。少し興奮気味になり手をわなわなと震わせながら、それに触れてみることにした。
「うわぁ……」
触れてみるとまだ脱いだばかりなのか、少しだけ温かいような感じがした。そして思わず何ともいえない感想が口に出てしまう。
「さ、さすがにこれ以上はマズイよな……」
普通の主人公ならば脱衣カゴにヒロインが着ている衣類があれば、くんかくんかとしたり、頭に被ってみたり、自らの体でそれを装備して文字通り一体感を得るものなのだろうが、生憎と俺には読者に読まれているという謎の心理が働いてしまい渋々ながらに諦めることにした。
「(衣類も好きだけど、俺としては中身の方が良いしな……)」
俺は極度の衣類フェチではないため、その中身を求める旅路へと向かおうと扉に手をかけようとしたまさにそのとき。
「う~ん♪ やはり仕事の疲れは……」
「っ!?」
(聞こえた! 今、確かに聞こえたぞ!! いる……確かにこの中身に人がいる。それも女の子が……)
ジズさんに騙されたとか幻聴の類ではなく、確かに女の子の声が中から聞こえてきたのだ。これはもう間違いようがない。俺は意を決して勢いよく扉を開いた。
ダンッ!! ここは混浴なのだ。オドオドしていたは余計変に見える。ならば……っと、若さという特権を生かして突き進む。
「へい、へい、へい、へい、へいおまちっ!!」
だがさすがに恥ずかしいので、ちょい少年野球の如く掛け声とともに俺は自らが風呂場へと入ってきたことを猛烈にアピールする。そして更に畳み掛けるため、続けざまにわざとらしい言い訳を口にするのだった。
「いやぁ~、まさかここが混浴だったなんて知らなかったなぁ~。今も誰か入っているみたいだけど、ジズさんが無理矢理入れって命令するから俺も仕方ないしにきたけど~。これは……こ、れ、は?」
俺はその光景を見て固まってしまった。いや、別に下の子がとかそんな意味合いではなく、あまりにも予想外な光景だったた文字通り動けずに固まってしまっていたのだ。
「(どうせ裸じゃなくて水着着てたとか、実は別人だったとかそんなオチだろうと予想していたことだろうが、しかし現実は……)」
「ぷかぷか♪ ぷかぷか♪ 極楽なのじゃ~……うん? なんじゃ、今声がしたような……って小僧!? お主、いつからそこにおったのじゃ!」
「もきゅもきゅ♪」
そうそこに居たのは確かにもきゅ子とサタナキアさんだった。だがしかし、てっきり俺は元の姿のサタナキアさんが入浴しているとばかり欲情していたのだったが、なんとサタナキアさんは元の姿……それも剣へと戻っていたのだった。
混浴入浴という期待をさせてからのこのオチ……さすが一筋縄ではいかない。
「(毎度毎度思うけどさ、このシュールな挿絵考えてるヤツただの馬鹿だろ? 何でサタナキアさん、美女から元に戻っていやがるんだよ……いや、マジでな)」
俺は壮大なオチに駆られ、サタナキアさんへと声をかけることにした。
「さ、サタナキアさんちょっと聞きたいんだけど……何で元の姿戻っちゃってるの? あの美女バージョンは幻か何かだったの?」
「おろ? ああ、この姿のことかえ? 実はのぉ~、一応妾も元の姿は取り戻したのじゃがの、まだ完全体ではないゆえあの姿を維持し続けることが困難なのじゃよ。だから基本的にはこのビジュアルで今後の話も通していく予定じゃと言っておったぞ」
「……(ぼそりっ)誰がだよ」
ダーク堕ちしてしまっている俺は明け透けもなく、そんな暴言を吐き捨てる。
それもそのはず、美女ときゃっきゃっうふふの混浴タイムだってのに居たのは、シュールにも湯に浮いている剣と可愛らしいドラゴンのみなのだ。確かに性別的には二人(?)とも女なのだろうが、異性特有のアイディンティティとも言うべき特徴が皆無なのだ。
そろそろ物語の本質を理解しようとした矢先のオチ……これからも続けさせていただきます。などと一切の反省の色を見せずに、お話は第135話へつづく




