第129話 過ちも時には役立つ時がある
「ふふっ。それではとりあえずの文字数稼ぎの為にも改めて自己紹介いたしますね。ワタシはこの店のオーナー兼レストランでは料理も担当している『シズネ』です。以後よろしくお願いしますね、二人とも」
「貴女がここのボスってわけね。こりゃ~下手に逆らえないわね」
「ま、よろしくしてやってもいいよ」
シズネさんは簡単に自分のことを告げると、一応信頼の証なのか二人へと右手を差し出した。アリアはこれまでの話からシズネさんがここを仕切っていると気づき、「ちゃんと従うわよ……一応、ね」と付け加え握手を。
アリッサも同様にちょっとだけ不機嫌そうな顔をしながらも、シズネさんと握手をする。
「で、こちらにいるのがワタシの旦那様です♪」
「おう。え~っと、そのぉ~……俺はシズネさんの旦那で、名前は『タチバナ・ユウキ』ってんだ。ふ、二人ともよろしく」
シズネさんに無理やり引っ張られたうえ、強引に腕を組まれ夫婦宣言されてしまい、俺は戸惑い顔を顰めながらも自分の名前を告げる。
何故俺が顔を顰めたのか? それは勢い余ったのか知らないけれどもシズネさんが俺の左足を軽く踏んでいるからだ。きっと「話を合わせろ」と暗に示したのかもしれない。俺の左足を犠牲にしながら……。
「あらあら~、二人とも夫婦だったのね~。へぇ~っ」
「ふん!」
アリアは俺達のなかむつまじい様を見て取ると、まるで値踏みするように俺の爪先から足首あたりまでを見ていた。……いや、それだと完全『靴』しか見てねぇじゃねぇかよ、おい! 描写、ここだけ描写おかしいよ!!
対してアリッサは一応俺の顔を見ると、すぐさま顔を横に背けてしまう。別に何をしたわけでもないのに、どうやら何かしら俺のことが気に入らないのかもしれない。それを見て取ったシズネさんは「ふふっ。どうやらアリッサに嫌われちゃいましたね、旦那様」と小声で囁いていた。
そして今度はサタナキアさんともきゅ子が二人に挨拶をする番になる。
「ふむ。どれ妾達も名乗るとするかのぉ~。妾の名は『魔神サタナキア』なるぞ。見知りおけ」
「もきゅもきゅ♪」
「おっと。コヤツは『もきゅ子』なのじゃ。可愛かろうに?」
サタナキアさんともきゅ子はいつの間にか仲良しになったのか、意思の疎通ができていた。きっと人外なので自然とそうなったのかもしれない。
「あっ、ええ……よ、よろしくね」
「へぇ~。アンタ、可愛いねぇ~♪」
アリアは浮遊し、話しかけてくる摩訶不思議な剣に驚き、アリッサはもきゅ子の可愛さに魅了されていた。
「あれ? そういえばさっき呪いがどうたら~って、話になったけれども……」
そこでアリアが思い出したかのように自然と呪いの話を持ち出してきた。まぁ確かに剣が浮遊して喋りだしている時点で呪いちゃ~呪いの部類なのかもしれない。
「あっ、じゃあ解除してみますか♪」
「へっ!? こ、この流れでそれをすんのっ!?」
シズネさんはちょっくらコンビニ行ってきますわ的ノリで、テーブルの上に置いてあった宝石を手に持ちサタナキアさんへと近づいていた。
「うん? 何なのじゃその赤いのは? 誰専用なのじゃ?」
「これは呪いを解くアイテムらしいですよ。ですが変ですね~、サナにはコレをハメる凹凸すらありませんねぇ~」
どうやらその宝石は対象物に当てはめることにより、呪いを解くようだ。むしろそれって逆に「本来の力を取り戻す目的ではなかろうか?」じゃないと完全、話の辻褄がおかしくなるし……。
「サナ、穴が見当たらないので、どこでもいいのでちょっくら空けてくれませんかね?」
「ほぇっ!? な、なんなのじゃその理屈は! そのような無茶振り、妾でさえ初めて聞いたぞえっ!?」
どうやら本体であるサタナキアさんでもそのような話はというか、シズネさんの無茶振りは突飛すぎるのか、普段俺と同じようにツッコミポジションになりながら戸惑っている。
「まま、このままこの宝石がハマるような穴を今から拵えますので、ちょっくら我慢してくださいよ」
「どういうことなのじゃ!? 妾の体に穴を開けるとな? ゆるしてたもう、ゆるしてたもうに」
シズネさんは逃がさんとばかりにグワシっと聖剣フラガラッハの柄の部分を掴み取り、恐れ戦き逃げ惑うサタナキアさんをグルングルンっと激しく表に裏にと詳しく調べ始めていた。
「うっぷ……きもちわるいのじゃよ~」
「…………」
(何かサタナキアさん、いつもこんな役割じゃねぇか? もう見ていて気の毒になるくらいだよ……)
本来聖剣が倒すべく魔王であるシズネさんのやりたいがままに、サタナキアさんはいいように玩具とされていた。
そして時間にして1分程が経つ頃、シズネさんがこう口を開いた。
「うーん。どこにも穴が見当たりませんねぇ~……どうしましょ? 先程は穴っぽこを開けると言いましたが、それも面倒ですしね」
「きゅ~」
「(酷っ!? 散々弄んだ挙句に、その結末なのかよ……)」
結局剣にはそんな都合の良い穴などは開いておらず、また穴を開ける労力を惜しんだシズネさんは「別にこのままでいいんじゃねぇか……」と放棄しようとしていた。気分が悪いのか、サタナキアさんからはグロッキー状態を表す情けない音が出ていた。
「あ~、なんならさ……ボクが見ようか?」
「おや、ジャスミン。貴女は詳しいのですか? それでは……」
サタナキアさんが不憫に思ったのか、ジャスミンは「ちょっと貸してみて」とシズネさんの代わりに聖剣フラガラッハを調べたいと言った。そしてシズネさんは「どうぞ」と言うように、チョイっとまるでゴミクズを扱うよう下手でジャスミンへと放り投げた。
「おわっとと。まったくもう~、危ないよ~」
「ふふっ。すみませんすみません……つい」
ジャスミンはいきなり放り投げられた剣をどうにか受け取ると、シズネさんに対して苦言を漏らした。だがシズネさんは「でもちゃんと取れたじゃないですか」とまったく悪びれる素振りすらなかった。
「どうジャスミン……分かる?」
「分かるのか、それとも分からないのかい? どっちかはっきりおしよ!」
焦れたのか、アリアとアリッサは食い入るようジャスミンへと詰め寄った。
「う~ん……シズネさんが言ったとおり、穴の類は見たあらないなぁ~」
「「はぁ~っ」」
コトリッ。ジャスミンが諦めるように剣をテーブルへと置いた。期待していたアリア達も揃って諦めたような溜め息をついてしまっていた。
「やっぱり呪いを解くのなんて無理な話ぃ~……って、おっとと……あっ!?」
タン、タン……ガキンッ! 俺がお手玉の要領でその宝石付きのペンダントを右手だけで投げ遊んでいると、まるで狙い済ましたかのように外してしまい、誤ってそのまま落としてしまった。そしてタイミングよくもその真下には聖剣が置かれており、ちょうど柄の部分に当たるようぶつかってしまった。
「わ、わりぃアリア、アリッサ!! 俺、俺っ……」
それが相当値の張るものだと知っていたにも関わらず、とんでもない過ちをしてしまったとアリア達に謝罪した。
「「…………」」
だが二人は無言のまま、俺ではなく落下したペンダントの方を見ているだけで無言だった。俺も釣られてそちらへと目を落としてみた。すると、
「って、なんだよこの光はっ!? 剣が光ってる……だと?」
見れば落とした赤色の宝石が聖剣フラガラッハの剣身の上で、眩いほどの光を放ち始めていたのだった。
「おろ? おろろろろろろろ?」
そこにきてようやく気絶していたサタナキアさんも目が覚めたのか、自分に異変が起こっていると自覚するよう何やら珍妙な声を出している。それはまるで気分が悪くなって吐いているかのような音源だった。
「ま、まさか本当に呪いが解ける……のかよ!? うわっ、眩しいっ!!」
「きゃっ」
「っ」
「わわっ、眩しいっ」
「なんだい、なんなんだいこりゃ!?」
「もきゅ~」
俺がそう口にしたその瞬間、宝石と聖剣フラガラッハが先程よりも強い光を放つと俺達は目を開けていられなくなってしまう。
そして暫く経つとまるで何事も無かったかのように光が収まっていた。
「一体何がどうなって……っ!?」
「ふふん。なんじゃ、小僧。妾をそのように見おってからに」
「…………アンタ、誰?」
そこにはなんと見たこともない美人のお姉さんが立っていたのだった……。
こ、この女性は一体!? などと理解しているにも関わらず、動揺しながら前振りしつつ、お話は第130話へつづく




