第122話 嘘もそれらしく振舞えば、また事実となる
「アリア……アンタさ、そこのジャスミンとか言う娘に担がれていたのさ」
「えっ? アリッサそれはどういう…………ジャスミン!!」
「にゃはははは~っ」
そこでアリッサからアリアへと助け船が出された。そしてようやくその意味に気づいたのか、アリアはジャスミンへと向きなおすとジャスミンはいつもの調子で笑い、後ろ手で頭を掻きながら明後日の方を向いてしまうのだった。
「もうっ、もうっ! ジャスミンったら酷いヒドイひどいぃぃぃ~~っ!!」
「ごめんってばアリアぁ~。お詫びとしてアリアにだけワンホールそのまま焼いてあげるからさぁ~。もう許してよぉ~。ね? ね?」
からかわれているだけだと理解するとアリアはその容姿とは裏腹に、まるで子供のように駄々をコネてジャスミンに不満をぶつけていた。さすがにこれはやりすぎだと思ったのか、ジャスミンは「明日焼いてあげるから許してよ~」っと宥めると「ほんとにほんと? また冗談者とかじゃないわよね?」と納得してその場は納まった。
そして話題は先程ジャスミンが意味深に俺を立てていた事へつ移ることに。
「へぇ~っ。じゃあジャスミンは今、このお店で料理を作ってるんだぁ~。ま、ジャスミンはコーヒーが入れるの上手いだけじゃなく、料理の腕もピカイチだもんねぇ~♪」
「うん! それでめ、今あっちで工事しているどちらかの建物で商売を始める予定なんだ♪ あっもちろん、ランチタイムとかの忙しい時間帯にはこっちのお店を手伝うけどね~」
アリアはジャスミンの料理の腕を既に知っているのか、料理人だと聞いても驚いた様子もなく、むしろ「当然よね~♪」と言った感じに受け取っていた。そして今現在、店を改築していることを告げ今後そこで何かしらの商売を始められることを説明していた。
「ふ~ん……そいつは結構なことだね。ちなみに両隣の建物とか言ってたけど、そんな選べるものなのかい? もしかしてアンタ、そんな金持ちなのかい? とてもそういう風には見えないけどね……」
「ああ、いや別に俺……っつうか、俺とシズネさんが金持ちってわけじゃなく、たまたま両隣の建物が空いてるって聞いてそれで持ち主の方に確認したら……ね?」
「ええ。それで快く貸してくれることになったのですよ」
アリッサは興味があるのか、「アンタら、そんな金持ちなのかい!?」と少し驚いた様子をしながらも、ちょっとだけ疑いの目で俺達を見ていた。それもそのはずである。普通、店を一軒借りるだけでも相当な開業資金がかかるというのに、それを両隣の建物まで商売を広げようと言っているのだ。例えアリッサでなくても疑うべき話なのだ。
俺とシズネさんはマリー……『ギルド』から建物を借り受けたとは言わずに『持ち主』と敢えて表現を濁しながら伝える。何故なら前にも述べたとおり、ギルドを快く思っていない人も多く存在し、そこから建物を二棟も借り受けたとなれば疑いの眼差しを向けられても不思議ではないからだ。ま、互いの話し合いにより強引に借り受けたのだが、それでも納得できない人は納得しないとの懸念もある。
「そうなのかい? ふ~ん」
「へぇ~! お兄さんもそっちのお姉さんもコネがあるのね!! ふっつう、お店なんて借りられないものなのよ。それもこんな大通りに面した一等地だもの。家賃だって相当なものなんでしょ?」
アリッサはどうにか納得をしてくれたのだが、今度はアリアが話しに食いついてくる。さすがは旅をして世間に揉まれているだけはある。すぐに疑問点を口にして俺達に問い掛けてきた。
「ああ、そ、そうなんだよ……ね、シズネさん?」
(マジでアリアって鋭すぎっ。俺達が何か不正とかしたって疑われちまってるんじゃねぇか? 俺だってこんな話耳にしたら半信半疑になっちまうもん。それにマリーから借り受けるのは確かだけど、家賃とかなんて決めてなかったんじゃねぇか?)
俺はその問いかけに答えうるだけの知識に乏しいため、シズネさんに話を振ることで誤魔化してもらうことにした。なんせマリーを脅して……いや、交渉したのはシズネさんなのだから。
「そうですね……実はその方、ウチの店の常連さんなんですよ。それで毎日のように来店されては、ウチの名物であるナポリタンを『これでもか! これでもまだ足りないのかぁぁっ!』と腹が引き千切れ食べた物がポロリしても食べてくれるウチの店の大ファンの方なんです。そうして日頃から懇意にしてもらい、『いつかお店増やしたいなぁ~……』などとワタシが告げると『あっ、じゃあここの隣の建物ちょうど両方空いてるから貸してもいい。いつもこの店にゃ~世話になっているからな! 家賃なんて無償でもいい』と言われ、『さすがに無償は気が引けますから……』っと売り上げの一部を納めるだけで良いという好条件借りることができたのです」
「…………」
シズネさんがもっともらしい嘘をそのように説明する。一体いつマリーがそのようなことを……いや、シズネさんの中ではそのように解釈しているのかもしれない。俺はそれについて口を挟むことを拒否して、無言のまま二人の反応を窺うことにした。
「へぇ~っ。そんな常連さんいるって凄いことよねぇ~。それだけここの名物のナポリタンが美味しいってことなんでしょ!? しかもしかもこ~んな大きな建物を二棟も無償で貸してくれるなんて普通なら言わないわよ~。ね、アリッサ?」
「ああ、そうさね。まともに借りれば家賃だけでも相当に儲けられるにそれを捨てるなんてのは、その客よほどの金持ちなんだろうね! 今度あたいにも紹介してくれよ!」
アリアはウチのナポリタンに興味を示し、アリッサはその金持ちだという常連客に興味を示したようだった。これはもしかしてなのだが、アリッサが興味津々なのはその客を脅して金をせしめる腹積もりではないだろうか? 俺が出来る事といえば「まぁ……そのうちな」と答えるくらいしかできなかった。
「あ、ああ! そういえばジャスミンはどんな店にするつもりなんだよ? 明日あたりには工事も(チラリッ)……終わるだろうし、商品の仕入れとかもしないといけないんだろ?」
「うにゃ? あ~……そういやそうだったね。まさか簡単な改築工事とはいえ、一日で終わっちゃうなんて想定外だったからなぁ~。あっ、でも一応何の店をやるのかは既に決めてるんだ♪」
俺が強引に話題を変えるため、ジャスミンのやりたい店についての話を振ってみた。するとそのあまりにも早い工事予定を口にして少し困った表情をしてから、その店についてを語りだした……。
ジャスミンが一体どんなお店を開くのか? それを今から次話執筆までに考えつつ、お話は第123話へつづく
※せしめる=奪う。強奪する。締め上げる




