第118話 人類みな、知り合い風味
「えっ? うっそっ! あ、貴女もしかして……ジャスミンなの!? ジャスミン・ライラックっ!?」
「わーいわーい♪ アリアだ♪ ほんとのほんとにアリアなんだぁ~♪」
肉の壁からジャスミンが顔を覗かせたかと思うと、そのお姉さんに抱きつき手と手を握り合いながら踊るようにピョンコピョンコっと飛び跳ね喜んでいた。そしてアリアとお姉もジャスミンに負けまいと同じく飛び跳ね、後ろ足で自らのお尻へとぶつけまくっていた。
「「い、いたたた~っ」」
どうやら再会の勢い余って調子に乗っていたせいなのか、二人ともお尻を擦り痛みの緩和に努めていた。傍にいた海賊チックのビッチお姉さんは「何やってんだい、アンタら……」っと呆れ顔で頭を抱えている。
「あの~、ジャスミン。そのお姉さん達とは知り合いなのかよ?」
おずおずとやや魔法使いチックにオレはジャスミンへと声をかける。でなければ俺の存在をスルーされたまま、物語が進行してしまうのを恐れたからである。
「あっ、うん。そうなんだ! ……っと、言ってもアリアは知っているけれども、そっちのお姉さんは……」
「……うん? おや、それってあたいのことかい?」
これまたジャスミンもやや遠慮しながら、オレの隣にいるお姉さんのことは「知らないお姉さんだね……」っと口にする。
「あ~っ。この子は私の知り合いで……」
「あたいの名前はアリッサ。『アリッサ・アフェランドラ』って言うんだ」
「へぇ~。お姉さん、アリッサって言うのかぁ~。あっボクの名前は『ジャスミン・ライラック』アリアの友達なら、同じくジャスミンって呼び捨てでいいよ」
アリアと呼ばれるお姉さんが名前を告げようとすると、先に本人から名乗られてしまう。そしてジャスミンはいつもの調子名を名乗り、アリッサと呼ばれるお姉さんに右手を差し出し握手を求めていた。
「そうかいそうかい。アンタがいつもアリアが言っていたジャスミンなのかい! ほんとアリアからいつも話は聞いてたよ。なら、アンタもあたいのことをアリッサって呼び捨てで構わないよ」
「ありがとう♪ アリッサ」
ガシッ。そうして二人は出会って間もないというのに数年来の友達と再会したかのように意気投合して握手を交わしていた。
「それでジャスミン。こっちの良い男とはどういった知り合いなの~? あ~もしかして……」
「ち、違うよ! お兄さんはボクがいっぱい世話になってる人なだけだよ! だから勘違いしないでよ」
アリアと呼ばれるお姉さんは俺とジャスミンとを交互に見比べ、俺とジャスミンとの関係性についてニヤニヤと何か楽しそうに聞いてきた。だがジャスミンは慌てるよう両手を左右に激しく振りながら、「お兄さんは良い人なだけだよ~。ただそれだけ~」っとフォローだか俺を貶めているのか、分からないことを口走っていた。
「あの、俺は……」
「あ~っ。そっかそっか。自己紹介がまだだったわねぇ~。私の名前はアリスティア、『アリスティア・フォーレスト』以後、よろしくよろしく~♪」
そうアリスティアと名乗ったお姉さんは軽い調子で右手をひらひら~っと、俺に向けて「まま、気楽にしなさいな。私、堅苦しいの苦手なのよね~♪」っとジャスミンと同じよう接するように言ってくれた。
「アリスティア……。ジャスミンが言ってたアリアってのは一体……」
そこで名前が違うことを尋ねようとするのだったが、すぐに……
「ああっ! 親しい人には短く『アリア』って呼んでもらってるのよぉ~。アリスティアって、ちょっと長ったらしい名前でしょ? フォーレストって呼ばれるのもなんだか男みたいで嫌だしさ。だから短くして『アリア』。ジャスミンの知り合いなら、お兄さんもアリアって気軽に呼んでくれてもいいわよ♪」
アリアはまるで俺を誘惑するようにウインクしながら、右手で投げキッスをしてきた。
「あっ……はい。アリアさん……ですね」
「んも~う! そんな『さん』付けなんていらないってばっ! アリアって呼び捨てで! サン・ニイ・イチ、はい!」
「あ、アリア……」
「ん~っ♪ よくできました~♪」
「……ぅぅぅっ(照)」
どうやらさん付けなどの敬称が嫌いなのか、俺にまで呼び捨てにするようにと言ってくる。俺もその勢いに飲まれ、なし崩し的に呼び捨てで呼ぶことになった。促され呼び捨てで呼ぶと、アリアはまるで子供を褒めるように俺の頭を撫でてくる。
このような往来で人に、それもお姉さんに頭を撫でられてしまい俺は顔を赤くしてなすがままにされてしまっていた。
「……あの、お久しぶりですね、アリア」
「えっ? あ、ああ……そう……よね? 久しぶり……」
そんな声が横からして振り向けば、いつの間にか俺の隣にシズネさんが立っていたのだ。そしてアリアに向い、再会の言葉を口にしていた。アリアは戸惑いながらも、一応差し出された右手を受け取り握手をする。もしかしてジャスミンだけではなく、シズネさんもアリアと昔からの知り合いなのかもしれない。
「あれ、シズネさんもアリアのこと知ってたの? 昔からの知り合いとか……」
「いいえ。全然まったく、知らない人ですね」
俺がシズネさんにそう訊ねると、シズネさんはいつものように何食わぬ表情のまま首を左右に振って即否定した。
「…………へっ? じゃ、じゃあ何で『久しぶり』とかってのは一体……」
「……ああ! とりあえずワタシの出番作るために昔からの知り合い風を装ってみようかと思い、言っただけですが……」
「いやいやいやいや、それじゃあ真っ赤の他人じゃねぇかよ!? 何しれっと知り合い風を装って、出番増やそうとしていやがるんだよ!」
「HAHAHAHAHAHA。旦那様もなかなかやりますね!」
どうやらシズネさんは自分の出番が欲しいあまり、昔からの知り合い風を装い声かけをしたみたいだ。しかも外国人ばりに笑い、俺を褒める(?)ことでこの場を誤魔化そうとしていたのだった……。
例え知らない人だろうとも誤魔化しスキルと知り合い風味を活用して、強引に出番を増やしつつも、お話は第119話へつづく




