第106話 料理の価値感と、料理の前で人は皆平等となり得る
「う、嘘だよなジャスミン。そんな64シルバーもするだなんてさ」
「にゃはははっ。嘘だと言いたいんだけどさ、本当なんだよね~」
俺は確認する意味でも再度聞いてみると、やはりジャスミンは申し訳なさそうに「ごめんね~。でも事実なんだよ」っと謝ってきた。どうやら本当にこの焼き菓子『アップルパイ』なるものは、超が付くほどの高級品のようだ。
「も、もしかしてこのカフェラテも……」
俺は恐る恐ると言った感じで目の前にある半分ほど残されたカップに手を当てながら、そんなことを聞いてしまう。
「う、うん……。あっ、でもでもアップルパイほど高くはないんだよ! もしお店で出すなら……ほんの15シルバーになるかなぁ~」
「あっはははははっ。この飲み物が15シルバーだってっ!! ほんと笑っちゃうよ、ジャスミン! ……ち、ちなみにそれって全員分で、って意味だよな?」
俺は笑い狂うことでその荒唐無稽な値段についてを現実ではないのだと錯覚し、思い込もうとしていた。だがしかし、次のジャスミンの言葉でその乾いた笑いすらも凍り付いてしまう。
「う、うーん。い、一杯分でかなぁ~。にゃはははははっ」
「あっはは…………マジで?」
「コクコク」
どうやらカフェラテなる飲み物はここにいる6人全員分ではなく、一杯分の価格あたりで15シルバーになるそうな。それが6杯分テーブルに上がっているということは……っ!?
「きゅ、90シルバーもすんのかよっ!? いやいやいやいや、ジャスミンそんなものを俺達に食べたり飲ませてくれたりしたのかよ!?」
「う、うん。ダメ……だったかな?」
俺はそこでようやく思考と現実との差が埋まり始め、怒涛の勢いでジャスミンへと詰め寄ると面食らった反応を見せている。でもさすがにこれは新メニューとして加える云々の話どころか、ティータイムのちょっとお菓子と飲み物の域を遥かに超えている。こんなもの貴族や王族だって滅多に味わえる代物ではないだろう。
「もぐもぐ……あっコラ、サタナキアッ! 今一切れ多く食べただろう! それは私が食べようと思っていたのだぞ!!」
「ふっふ~ん♪ こういうものは一人一切れ食べたら、後は早い者勝ちなのじゃよぉ~♪ ハグハグハグ」
「あ~~~~っ!!」
「ゴクゴクゴク……もきゅもきゅ♪」
近場で今の話を聞いていたはずのアマネやサタナキアさんもきゅ子の面々は我関せずの精神論なのか、そのまま食べ飲み続けていたのだ。もしかすると食べるのに夢中になってて、今の話が聞こえなかったのだろうか? 俺は言い聞かせるように叫んだ。
「いやいやいや、オマエら今の話聞いてたのかよ!? それ、一切れ8シルバーもすんだぞ、8シルバーもっ!! ウチの商品だと四品分だぞ! それを……」
そして未だに争い安物菓子のように乱雑に食べているアマネ達へと、その価値を教えてやる。
「うん? そうだな。それがどうしたと言うのだ?」
「へっ? いや、どうしたってオマエ……」
アップルパイの価値を聞いても尚、アマネは何食わぬ顔で「だからどうした?」っと言った感じに俺へと逆に質問で返してくる。金銭感覚が皆無なのか、それとも勇者なので器が余程の大物なのかもしれない。
「小僧よ、このアップルパイなるものの一切れが8シルバーであろうに? だがな、それは人が作り出した価値観の範疇なのじゃぞ。人は誰しも、料理の前では平等となるのじゃ。そこに貴族や王族、庶民などの垣根は無い。だからいくら高級品の焼き菓子であろうとも、人が食べてこそ作られた本望と言うものじゃないのかえ? のぉもきゅ子?」
「もきゅもきゅ♪」
「うっ。た、確かにサタナキアさんの言うとおり、食べ物は食べてこその価値だけど……。いや、だからな。サタナキアさんももきゅ子も、人じゃねぇんだってばよっ! 何回同じツッコミさせる気なんだよ。何しれっと魔神と魔王様が人間サイドのように立ち振る舞いしてんだよ。あれか? 飼い犬がいつの間にか、自分を人間と錯覚するっていうアレなのかよ!?」
訳の分からない理屈を並べられ「そうだなよなぁ~」などと一瞬だけ思ってしまったが、そもそも人ならざるモノが『それ』を語っていると思うと嫌でも気付かされてしまい、いつもの如く安定のノリツッコミをしてしまう。
「なるほどぉ~……。こりゃ~サタナキアさんに一本取られちゃったなぁ~。確かに値段なんてものはそもそも人が決めた価値観だし、料理そのもの味には何ら関係ないもんね。人がその値段をありがたがるだけで……ボクも一つ勉強になったよ♪」
「ほぉほぉほぉ。小僧よりもジャスミンの方が大人じゃわい。年上だと主張するのも、納得じゃわい」
「ぐっ」
ジャスミンは話を聞き頷くと、「そんな考えもできるよね♪」などと新たな価値観を知りえたように喜んでいる。そしてサタナキアさんは俺の方をチラリと見ながら……まぁ剣身なのでちょっと横を向いただけなのだが、わざとらしく俺とジャスミンとの対応の違いを指摘した。
「値段が高いからと言って必ずしも、すべてが美味しいわけではありませんしね。創造主なるモノから見れば、そんなような物事に優劣はないでしょうし、人のくだらない見栄と言うものなのかもしれません。だから旦那様、ただ食べ、ただ飲み、美味しいということを感じるだけで良いですよ。ま、残念ながら値段の観点で言えば、ウチの店では出せませんけどね。ただそれだけです」
「そうだよね、ただ美味しいってだけでもいいんだよね。ありがとう……シズネさん」
シズネさんは「値段や価値なんてそんなくだらねぇこと考えてねぇで、ただ美味い。それだけ感じれば良いんだよ」などと俺にあまり考えするぎなと言ってくれていた。確かに俺も最初はただ美味しいという感想だけで、その値段を聞いてからはそれにだけ捉われてしまっていたのだ。物事本来の価値を見ずして、本質は捉えられない。俺はあまりにも『外側だけ』に捉われすぎてしまっていた己を恥じてしまうのだった……。
料理一つ取っても、物事の本質を導くことへの指針となり得る……などと、適当に話を締めくくりつつ、お話は第107話へつづく




