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元冒険者と元魔王様が営む三ツ星☆☆☆(トリプルスター)SSSランクのお店『悪魔deレストラン』~レストラン経営で世界を統治せよ!~  作者: 雪乃兎姫
第6章 ~経営指南編~

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第101話 カフェラテ味と一時の芸術の価値とは……

「は~い♪ コーヒーの完成だよ♪ みんなは苦いそのままがいいかな? それともふわふわ甘甘(あまあま)味の方がいいのかな?」

「んっ? コーヒーって苦いのかよ? なら、普通で……」


 ようやくコーヒーが抽出され、ジャスミンは手頃なカップへと注ぎ入ると他に何か加えるのかと聞いてきた。初めて飲む飲み物だからよく分からないので、無難に「普通で……」と言う魔法の言葉を口にしてしまう。


「旦那様……」

「えっ? 何だよ、シズネさん?」


 何故かジャスミンではなくシズネさんから名前を呼ばれ、俺は不思議に思ってしまう。


「にゃははっ。お兄さん、レストランに勤めているんだよね? なら、お客様が言う「普通」ってのが一番難しいのは知ってるよね?」

「あ、ああ……それもそうだよな。わ、わりぃなジャスミン。俺、そのコーヒーとやらを飲むの初めてだからさ。つい……」

「ははっ。いいよいいよ。なら、みんなもボクにお任せでいいかな?」

「ええ、そうですね。ジャスミンの出任せ(・・・)でいいですよ♪」

「オッケ~♪ それではジャスミンの貴女にお任せ、ついでに出任せも一丁入りま~す♪」


 そう飲食店全般で一番頭を悩ませる問いがお客から言われる「普通で……」というものだった。そもそも普通とは標準的な味を指す言葉なのだが、以前も述べたようにお客とはワガママなものである。味付けにおいて『甘い』『辛い』『しょっぱい』『薄味』など舌の好みは十人十色、お客の数だけ違うと言っても間違いないのだ。


 俺は知らず知らずの内にジャスミンに難題を与えてしまっていた事に気付くと、すぐさま言い訳交じりに謝罪する。ジャスミンは特に気にする風でもなく、「絶対美味しい! って言わせてみせるからね♪」っとむしろ自分自身でハードルを上げまくっていた。またシズネさんも……ってなんだよ、アレは? 出任せって……シズネさんなりのボケのつもりなんだろうか? にしてはちょっと外してるのが痛々しい。そしてジャスミンまでそれに被せている。


「まずはささっと……。で、この次は……」


 見ればジャスミンは何やらサラサラとした白い粒状なモノと、白い液体のようなモノを注ぎ始めていた。


「(あれは『砂糖』と『牛乳』か? そのまんま入れるのか? って、しかもあんなにドバドバたくさん入れるのか!? ちと贅沢すぎやしないか?)」


 砂糖と牛乳は共に、貴族や王族などしか口にする事ができない程の貴重品である。ジャスミンはそれを目の前で惜しげもなく、そしてまた何の躊躇(ためら)いもなく入れている。


 もしかするとジャスミンが居たという西方地方は機械技術や工芸品の類の発展だけでなく、食文化自体も違うのかもしれない。尤もそれも当然と言えば当然である。土地が違えば風土も違う、ましてやここから歩いて数週間以上も離れている西方ならば違うのも仕方ない。だがしかし、コーヒーと呼ばれる物や砂糖・牛乳なども向こうなどでは、よく親しまれるほどのモノなのかもしれない。


「よっと♪ 完成したよ~♪ はい! ジャスミン特製『カフェラ~テ』だよ♪ 召し上がれ~♪」


 目の前に差し出されたソーサーカップの中には、茶色くてふわふわした飲み物がタプタプに注がれており、表面には何やら模様のようなものが見受けられる。

挿絵(By みてみん)


 それはよく見ると花の絵柄だった。まるで一枚の絵のように綺麗に描かれており、とてもただの飲み物だとは思えないほどである。


「すっげぇ~、これがコーヒー? いや、『カフェラ~テ』ってヤツなのかよ、ジャスミンっ!」

「ふむ。花の絵が描かれており、なんとも綺麗な飲み物なのですね」


 俺とシズネさんは初めて目にするその飲み物に釘付けとなり、感嘆の声を上げてしまう。


「ふふっ。ま、この絵はボクのオマケというか、遊び心(・・・)なんだ。ちなみにこんな風にカフェラテに描く絵のことを『ラテアート』って言って、『一時(ひととき)芸術(アート)』とも呼ばれてるんだ」

「一時の芸術(アート)……か。ほんとそう言い得て妙な名前なんだな」

「ほら、飲んじゃうとこの絵も消えちゃうでしょ? だからそんな名前を付けてみたんだ。ま、ボクが勝手に名前を付けただけなんだけどさ。にゃはははっ」


 確かにそれはたった数分間しか存在し得ない、芸術的作品そのものだった。こうして話している間にもその絵の形はドンドンと崩れていき、既にもう『花』とは呼べなくなっていたのだ。まさに『一時の芸術』とは上手い名前を付けたものだ。


「ささっ。冷めない内にどうぞどうぞ♪」

「あ、ああ、そうだよな。じゃあ遠慮なく……ズズッ……ん~っ♪ あま~い♪ こりゃ美味しい飲み物だな、ジャスミン!」

「ありがと♪」


 俺は一口だけその飲み物を含んでみた。すると最初に感じたのは甘さだった。きっと砂糖をふんだんに使い、また牛乳も相乗効果で甘さをより際立たせているのかもしれない。そして暫らくすると今度は、甘いとも苦いとも言えぬ摩訶不思議な味が口の中を駆け巡り、そして香ばしくともほろ苦い匂いが鼻に一杯に広がってゆく。 


「それに甘いだけではなく、牛乳がこのコーヒーなる飲み物の苦味を緩和し、より飲みやすくとも複雑な味わいにしていますね」

「お~っ♪ シズネさん、そこまで解ってくれたの! 砂糖も牛乳(ミルク)もこれ以上入れすぎるとコーヒーの香りと苦味を消し飛ばしちゃうんだ。でも逆に少なすぎると苦くて飲めないし、初めて飲む人には不向きなんだよ。(つう)の人は苦味を嗜むため少なくしたり、コーヒーのそのままの『ブラック』で飲む人もいるかなぁ~。ま、砂糖も牛乳(ミルク)も値が張るからねぇ~」


 シズネさんは俺よりも詳しく説明し、まるで(つう)のようだった。またジャスミンは、その事に気付いていてくれたと大喜びしている。その喜びから察するに、よほど精通していないとその価値が理解できないのかもしれない。



 この物語もラテアート的存在になりつつも、第102話へつづく

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