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キラースペルゲーム  作者: 天草一樹
終わりと始まり

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95/96

復活の……

 周囲を木々で覆われた山の中。

 舗装された道を、一台の大型トラックが進んでいく。

 道路の幅とトラックの幅はほぼ同じため、反対から車が来たら避けることはまずできない。しかし、トラックの向かう先を考えれば、その心配をする必要はない。

 道の先にあるのは焼却炉。それもキラースペルゲームやその他実験で生じた死体の隠滅を行うためだけに使用されるもの。対向車など来るはずがなかった。

 この五日間で生産された十の死体を運ぶ運転手は、助手席でぼんやりと外を眺めている同僚に言った。


「なんかよう。さっきの喜多嶋様、何か変じゃなかったか? 行きにはつけてたメイク落としてたし、館の中の清掃も終わってないのに突然全員に帰還命令出してよ」


 同僚は特に思考した様子もなく、適当に言葉を返す。


「さあな。実際に死体を見て気分でも悪くなったんじゃないか」

「いやいや、死体ぐらい十分見慣れてるだろ。そんなことで気分悪くなるような繊細な人じゃねえってあの人は」

「なら自分の将来でも見据えて絶望してたとか。噂によれば今回のゲーム、御方々にあまり満足してもらえなかったそうじゃないか」

「まあ明らかに前任の六道様に比べりゃスペック落ちるからなあ。ゲームのクオリティが下がんのも当然は当然だろ」

「次回はまた別の奴が司会になるかもな」

「つっても喜多嶋様以外にそんなことができそうな奴は今いねえよなあ」

「おや、そうなのですか? 四大財閥が運営しているようですし、優秀な方はたくさんいるのかと思っておりましたが」

「そりゃ優秀な奴はいるだろうけどよ。あんな人が死ぬのを面白おかしく実況するクソな仕事をやりたいなんて奴、普通いないだろ」

「では、立候補すれば案外すんなりとやらせてもらえるでしょうか? 死体を見ることに抵抗はありませんし、実況というのも是非一度やってみたいと思っていたのです」

「いや、お前なんかがそんなことさせてもらえるわけはない……って、誰――」


 気づけば会話に全く知らない声が混ざっている。

 慌ててブレーキを踏み、運転手は背後を振り返ろうとする。だが、振り返る前に首を握られ、動かすどころか声すら出せなくなってしまった。

 横目には、同じく首を握られ、目を見開く同僚の姿が。

 必死に手をはがそうともがくが、首にかかる力が想像以上に強く、苦しさから手に力が入らない。

 数秒とせず意識が遠のいてきた運転手の目は、シャットアウトする直前。ルームミラーに映る一人の男の薄笑いを捉えていた。




「いやー、久方ぶりのお外ですね架城さん! 決してあの館の中の居心地が悪いわけではありませんでしたが、やはり外はいいものです! 心と体が開放的な気分になってきますとも!」

「まあそうね。それより佐久間。あなた私の前では嘘とか冗談は止めた方がいいわよ。『虚言既死』唱えてあるから、ころりと死ぬわよ」


 最低でも五日ぶりの大地に足をつけ、佐久間と架城は大きく伸びをした。

 彼らの後ろには、先ほどまで死体を運搬していたトラックが、道を少し外れた位置に停車している。

 中にいる者は今度こそすべて死者であり、そのトラック自体が少し大きな柩になったと言えた。

 佐久間は架城の言葉を聞くと、「そういうことでしたか!」と手の平をポンと叩いた。


「まさかまさか架城さんが私の策に乗ってくるとは思っていなかったので、死体を見た時は本当に驚きましたよ。ですが『虚言既死』を使って私の言葉に嘘がないことを確かめていたのでしたら納得です。死んでいる間に考えていた疑問が見事に氷解されました」


 四日目に佐久間が語った、『みんな笑顔で生きて帰ろう作戦!』。東郷が論破したことで、完全に戯言とされ皆の記憶から抹消された作戦だが、実のところこの計画は死んではいなかった。それどころか東郷が論破したことにより完成したと言っても過言ではなかった。

 毒を使い、一度死んだように見せかけ蘇る。東郷が問題点をいくつか指摘していたが、佐久間が厄介だと考えていた問題は一つ――主催者を騙せるかどうかという点だけだった。

 毒の効能については自分で作ったため、まず失敗はないと確信していた。またこの計画は本心である故、他のプレイヤーを殺す気なども当然なかった。逃げても意味がないというが、あの場から逃げることができなければ、あと五人は確実に死ぬことが決定してしまう。ならば取り敢えずゲームを終了させることが無意味なはずはないとも考えていた。

 ただ、主催者を騙す件に関しては東郷の語った通りで、毒で死ぬことへの必然性が必要とされた。少なくとも全員同時に死ぬと言った方法では、主催者を騙すことはできなかっただろう。

 佐久間とて、そんなことは重々承知していた。だからこそ、敢えてあんなふざけた提案を行ったのである。

 他プレイヤーにより、毒で死んだふりをすることの愚かさを、主催者側にも伝わるよう論破してもらう。それにより、今後毒による死亡者が出たとしても、まさか仮死状態になっているだけと疑わせないようにしたのだ。

 また、プレイヤーにそのことが伝わるよう、ちょっとした違和感――初日にあった絵画の位置を変更したり、元々その部屋になかったものを置いておいたり――の準備も怠らなかった。その後自ら罠に嵌ることで、それら違和感が何を示唆するのかを悟らせようと考えていた。

 だが、計画を実行に移す前に姫宮と秋華が殺されるというハプニングが発生。殺し合いがいまだ続いているという意識が復活してしまったため、泣く泣くそのアイディアを断念。

 もう仮死状態にする毒の存在など信じてもらえないだろうと考えつつも、東郷らの前で計画通り罠に自ら掛かり、ゲームをリタイアした。

 そんな誤算だらけの展開の中、唯一生じた嬉しい誤算が架城の存在。彼女はいつの間にやら策に気づいて、毒による仮死状態に陥っていった。

 慎重で部屋から出ることすらなかった彼女が、なぜ廊下で毒に触れ死んでいるのか。喜ぶ半面その理由が分かっていなかったのだが、『虚言既死』が絡んでいたのだとすれば、その答えは明白だった。


「あなたがあまりにうさん臭くてうざったいから、本音を言えば純粋に殺そうと思ってたのよね。それで『虚言既死』を唱えたのだけれど、まあ不思議なことにあなたは死ななかった。そこでようやく、戯言を言っているように見えて全部本気なんだって気づいたのよ。となれば私たちを仮死にするための毒がどこかに塗られているはず。そう考えた時、いつの間にか入れ替わっていた絵画の存在がすぐ頭に思い浮かんだわ」


 一切謙遜することなく誇らしげに、架城はどや顔を見せつける。

 常々人を小馬鹿にした態度をとってきていた彼女だが、こうして生き残った以上その自信は過信ではないことが証明されたと言えるだろう。

 佐久間は素直に賛美の言葉を投げかけた後、首を傾げて「しかし」と続けた。


「よく架城さんは私に『虚言既死』を唱えようと思いましたね。あの状況では私がカウンタースペルを所持している可能性も十分あったと思うのですが。宮城君の二の舞になる危険性は感じていなかったのでしょうか?」


 架城はますます自慢げな表情を浮かべ、盛大に鼻を鳴らした。


「スペルの力はイメージ次第で操れる。私は、嘘を吐いたものを仮死状態にするイメージを唱えてスペルを発動したのよ。だから仮に反射されても仮死状態になるだけ。どっちにしろこうして脱出した未来が訪れるようにしていたわけよ」

「ははあ、二重三重に考えられていて驚きです! それにつまり私が嘘をついていたとしても、あなたは私のことを殺さないようにしてくれていたということですね! 何とお優しい心の持ち主なのでしょうか! これこそが真のツンデレというものでしたか!」

「気持ちの悪いことを言わないでくれる。あなたの命なんてどうでもよかっただけの話よ」

「おやまたツンデレ発言が! 年甲斐もなく胸キュンしてしまいそうです!」

「それ以上うざいこと言うと、本音だとしても殺すわよ」


 絶対零度の視線を向けられ、佐久間は慌てて手で口に蓋をする。しかしその蓋は数秒と持たず破られ、「そういえば」と声が飛び出した。


「これも今更ですが、私の策に気づいていたために機嫌よく『血命館遊び倒しツアー』に参加していただけたのですね。正直架城さんは参加してくれないのではと考えていたため、あの時すんなりと賛同してくれた際は驚いてしまいました」

「あなたは喋ってないと死ぬの? まあそれに関しては事実だから別にいいけど。そうだ。疑問なら私からも一つあるのだけど、聞いてもいいかしら」

「勿論! なんなりとお聞きください!」


 佐久間のハイテンションに苛立った顔を見せながらも、架城は口を開く。


「私が毒で死ぬのはそこまで違和感のない話だと思うけれど、あなたはどうやって毒で死んだのかしら? いくら何でも自ら撒いた毒に引っかかれば、主催者側も怪しんだと思うのだけれど」

「おお、それは非常に素晴らしい質問です! 私自身そこは少し悩んだところなのですが、毒の散布自体は私と姫宮さんで協力して行ったのです。いざという時の武器兼脱出用アイテムとして館に設置しておこうと言ったら、喜んで手を貸してくださいました」

「成る程ね。それであなたは姫宮が毒を仕掛けたものに触れた。まさかそこに毒がついているとは思わなかったという態で」

「そういうことでございます」


 奇術に成功したマジシャンのように、佐久間は深々と一礼をする。

 架城はつまらなそうな視線をその後頭部に向け、小さく溜息をついた。

 その後も二人は館で起こった諸々の件に関して情報交換を行い、それぞれ抱いていた疑問を解消していった。

 話し合いがひと段落したところで架城は再度大きく伸びをし、佐久間に問いかけた。


「それで、あなたはこれからどうするつもりなのかしら? 多少の偽装工作で発見までの時間は伸ばせるでしょうけど、私たちが生きていることもいつかはばれるわ。何か次のプランはあるの?」


 暗くなってきた夜空をうっとりと見つめながら、佐久間は答え返す。


「プラン、と呼べるほどのものはありません。しかし、今回のゲームは私からすれば些か物足りないものがありました。やはりせっかくの殺し合いですから、もっと肉弾戦を増やし、さらに仲間を作ることへのメリットを増やすべきだと思うのです。その方がゲームとして盛り上がると思いますし、駆け引きの余地が生まれるはずですから。例えばそう、館ではなく孤島に集め、プレイヤー以外にも彼らを害す他の登場人物を入れるとか。それならば仲間を作るメリットも増えますし、暴力もありにすることができるはずです」


 逃げるためのプランではなくゲームの改善点を語る佐久間。架城は怪訝な視線を彼に送った。


「あなた、まさか喜多嶋の代わりに司会でもやるつもり? 絶対喋り過ぎてすぐクビになるわよ」

「いえいえ、私だって仕事中くらいは口を慎みますとも。どちらにしろ一度は彼らのもとに出向く必要はあると思うので、その時ついでに提案してみようかなと考えているだけの話です。そういう架城さんはどうするご予定なのですか?」

「私は海外に逃げる予定よ。運営のトップが四大財閥なら、国外での力は程ほどでしょうし」

「おや、それは私以上に困難な道となりそうですね。何か勝算はおありなのですか?」


 どことなく心配した様子の佐久間の声。

 架城はそれを聞き流し、ポケットから一枚の透明なフィルムのようなものを取り出した。

 不思議そうに佐久間がフィルムに視線を向けるなか、架城は耳にフィルムを当て、


「スペルの力を使えば何とかなるでしょう」


 と、嗜虐的な笑みを浮かべ呟いた。


これにて完結です!最後までお読みくださり本当に有難うございました!

今作品の趣旨は、「デスゲームものにありがちなバッドエンドを避け、いかにたくさん参加者を生き残らせるか」でした。その点では(ゾンビが混じってはいますが)半数以上生き残らせることができたので満足なような、やっぱり死に過ぎかなといった気分です。やはり全員生き残って、より完璧な反逆エンドを迎えられるようにしたいところですね。


それにしても、約二年と一か月という、かなり長期に及ぶ作品になってしまいました。途中何度か私自身がこの作品に飽きそうになってしまいましたが、応援してくださる読者がいたため最後まで書き上げることができました。やはり読んでくださる方がいるというのは本当に励みになります。改めて、読んでくださり有難うございました。


四大財閥や佐久間のせいで続編が書けそうなラストになってしまいましたが、まあおそらく続編はないでしょう。ちょっとしたおまけとして、次話に登場人物紹介の改定バージョンを載せておきました。まあ初っ端に書いてあるものに、それぞれの容姿とスペルと方針を書き足しただけなので、読まなくてもいい部分とはなりますが。

本作品が皆様にとって少しでも楽しい時間であったのなら幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 佐久間が生きてたー もう一話ってなにかと思えば、このような話だったとは! [気になる点] 確かに全員生きてたらもっと面白かったのかな [一言] お疲れ様でした。最後まで見ることができて、…
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