下される判決
また最近文章が下手になっている気が……。それとも展開の問題だろうか……。読者以前に私のモチベーションが保てるよう頑張ります。
「俺が重視するのは、貴様らが再び悪事を犯し、無辜の民を傷つける可能性がどれだけ高いかという点。つまり再犯の恐れがどの程度あるかを、判決を決定づける最大の要因としている。よって重要なのは、なぜ貴様らが悪事を行ったのかの動機。犯してしまった悪事に対する反省の度合い、の二点である」
目を開いた宮城は、開口一番にそう告げた。
動機が同情の余地のない、くだらない物であればあるほど再犯の可能性は高まるし、その行いを反省していなければ当然二度三度と繰り返す恐れがある。
正義執行の基準が罪状の重さでなく再犯率の高さというところは興味深い。まあ悪人を殺すことを厭わない正義の使者であれば、行為自体よりもその理由に重きを置くのは当たり前と言えるのかもしれないが。
急に重々しい雰囲気に包まれた大広間。誰もが固唾をのんで判決を見守る中、宮城は仰々しく罪人の名を呼び始めた。
「まず、神楽耶江美。無罪。理由は言うまでもないな。神楽耶嬢にはここに連れて来られるような悪事は一切なく、悪党どもの手違いでゲームに参加させられていると思われるからだ」
宮城の言葉に反論する者はいない。
いまだ疑わしいと思っている者もいるだろうが、神楽耶が『虚言既死』のスペルで死ななかったことは事実。異論を挟む余地はない。
続いて正義の使者が指名したのは、意外にも明だった。
「東郷明。貴様は決して善人ではない。その心は確かに悪人のそれであることに疑いはない。だが、貴様が持つ悪の心。それが狙い定める者は俺と同じく悪人である。一度悪だと認識した相手になら、それがどれだけ非道なことでも躊躇うことなく過剰な仕打ちを与える歪みこそあれ、無辜の民に害を為す類ではない。加えて貴様には、今の一般的な日本人が持つ強い無関心さが目立つ。言わば自分に降りかかる凶事以外には一切の関心がないという者だ。それゆえ今後貴様が無辜の民を害するような悪事を犯す可能性は低く、仮にその牙が再び煌めこうと害を受けるのは悪人のみと見做される。よって貴様も、この場においては無罪を言い渡す」
「……それはどうも」
隣にいる神楽耶がどこか嬉しそうな顔をしているが、明としては何の喜びもない。自身の犯した行為を他人がどう捉えるかなど全く関係のない話である。ただ、明とてそもそも人を傷つける行為が好きなわけではない。宮城が言う通り降りかかってくる火の粉やその発生源さえ潰せれば、他人に害を為すなどという面倒事は避けたいと思っている。
無罪の判決が二回連続で続き、どことなく緊張感が薄らぐ。
思った以上に宮城による裁判は甘いのではないか。そんな雰囲気が広間を漂い始めた。
宮城はそうした雰囲気を気にかけず、今度は二人の罪人を指名した。
「鬼道院充。秋華千尋。残念ながら、貴様ら二人は有罪だ。このゲーム終了後、リアルでの交流関係を全て断ち、外出することも禁止とする」
「おや、それは」
「かなり受け入れがたい判決です」
いきなり投げかけられた想像以上の判決に、鬼道院も秋華も驚いた声を上げる――二人とも表情に変化はないのだが。
殺す殺さないと言った血なまぐさい判決ではないものの、常識的に考えて許容できない厳しい判決。
わけを教えろと言った抗議の視線をしっかりと受け止め、宮城は重々しく判決理由を語りだした。
「貴様ら二人は、それこそ東郷という男に比べれば善人の部類に入るだろう。しかし逆に、貴様ら二人がいることによって周囲に与える害は東郷のそれよりも遥かに大きい」
「それは……その通りかもしれませんね。とはいえ、リアルでの交友関係を全て断て、外出するなとは行き過ぎた判決ではないでしょうか? まして正義の使者たる宮城さんの目からしても、私も秋華さんも悪人でなく善人と言えるのでしょう? もし私の教祖という肩書きに問題があるのであれば、せいぜい教団を解散させるぐらいで十分とは――」
「貴様ら二人は自覚なく他者に害を為す」
鬼道院の申し出を遮り、宮城は論を無理やりに進めていく。
「確かに貴様らは悪ではなく善だろう。しかし、各々が持っている定めがこの世界の理に相反している。鬼道院。貴様はその場に存在し、少しでも言葉を発するだけで周りに過剰なプレッシャーを与えてしまう。もしそれが意図的なものであり、その雰囲気を抑えることが可能であるのなら俺は判決を改めよう。しかし。それが叶わないというのなら、貴様は生きているだけで周囲に良くも悪くも影響を与え続ける存在ということになる。周囲への影響を自身でコントロールできないうちは、貴様が人と接する度に災いの種が生まれることだろう。ゆえに、この判決は妥当なものであると考える。
また、秋華嬢に関しても同様だ。やられたらやり返すという考えは決しておかしくも間違ってもいない。しかし、その限度が分からず、またやり過ぎることがどうして悪なのかも理解できない。いわゆる一般的な思考を得られないうちは、これからも幾度となくその過ちを繰り返すことになる。それは結果として秋華嬢自身を孤立させ、不幸にすることにも繋がる。ゆえに一般的な思考を得られるまではこの判決に従うことが妥当だと考える」
宮城の野太い声が広間を駆け巡る。
判決理由は理解できなくはないが、実際に刑の対象となる彼らが納得できるかどうかは微妙なもの。特に判決の理由となった点は自身では直し難い問題であり、それを罪とするのは些か酷であるようにも感じられた。
当然ここでも判決変更の声が上がると思われたが、意外にも真っ先に反論したのは当の鬼道院、秋華ではなく神楽耶だった。
「ちょっと待ってください。それは流石に重過ぎる判決じゃないでしょうか。二人に誰かを害する意思がないのなら、できるだけ周りに迷惑をかけないよう気を付けてさえもらえればいいのではないでしょうか?」
「なら聞くが、神楽耶嬢は生まれつき殺人衝動のある人間が世間を自由に闊歩することに危険性を感じないのか。たとえ本人が殺人は悪であり、決してしてはならないことだと頭で理解していたとしても。もしその人物が殺人衝動に見舞われる体質であれば、やはり世間から隔離されるべきだろう。そいつの本質が悪でなく善ならば、なおさら他者に害が及ぶ事を良しとはしないだろうからな」
「で、でも、全ての交流関係を断ったうえで外出も禁止なんて……生きていくことすら難しいじゃないですか。これじゃあ遠回しに死ねと言っているのと同じことじゃ……」
「幸い今の時代はネットなるものが発達している。これを使えば家から出ずして日々生活することも容易いこと。そこで必要な生活費やその他ネットを通して得られないものがあれば、それは責任をもって俺が用意する。家から出るなという厳しい判決を下す以上、その代わりとしてできる限りの望みを叶えさせてやるのは当然のことだからな。ある意味では働くことなく気ままな生活をできる、とも捉えられる。そもそもこの判決を下した原因を取り除くことができれば、その時点で刑は中止だ。これでもまだ問題があるなら、是非それが何か聞かせてもらいたい」
働かずに家で好きなことをし続けていい。人によっては罰どころか最高の褒美だとする感じそうなところだ。
ただ神楽耶はこれでもまだ何か言い足りない様子。どうしてもこの判決に納得がいかないらしい。
神楽耶が妙に反論するのを見て、逆に鬼道院と秋華はこの判決への興味を失い始めている。
これ以上の問答は時間の無駄と考え、明は神楽耶の肩を叩き「もう十分だろう」と留まるよう呼びかけた。
「正直宮城の言い分に理があると俺も思う。鬼道院も秋華も、普段生活する中で交流するにはどう考えても荷が重い。気の弱い奴なら最悪気が触れる恐れだってある。できることなら家に閉じこもって生活してくれる方が有難いと感じるな。
ただまあ、それ以前の問題として、この判決は当然宮城がゲームを勝ち残った場合にのみ有効になるものだ。だが、こうして受け入れがたい判決を平然と言い、他のプレイヤーを積極的に敵に回すような奴がゲームを勝ち残れるとは到底思えない。だから反論するだけ時間の無駄だ。ここはさっさと全員の判決を聞いて部屋に戻るのが得策だろ」
「それは、まあ……」
どう答えていいのか分からなくなったのか、神楽耶はもごもごと口を動かすだけで質問を止めた。
他の誰かを犠牲にしてもゲームから生き残る。そう宣言し実際そう願っている彼女からしてみれば、この場の半数以上に死んでもらうことは不可避である。が、いまだ積極的に彼らの死を願うのは無理なようだ。
実際その考えは、このゲームが終わった後、今まで通りの平凡な暮らしに戻る気でいるなら捨ててはいけないものだろう。逆にスペルの力とはいえ他プレイヤーを積極的に殺している者が、ゲーム後どうやって普段の日常に戻る気でいるかの方が疑問である――それこそ、明に言えた話ではないのだが。
明の言葉を聞いて架城などは「あら、まともなことを言える奴が私以外にもいたのね。それは重畳」と嬉しそうに笑っていたが、それ以外のプレイヤーは特に何のリアクションも起こさない。
ただ、鬼道院と秋華も明の言に共感したのか、罰の変更を求めるのは止めたようだった。
こうして半数の罪人の判決が定まり、残す罪人は四人に。
今のところ罪の軽い者から順に判決が下されている。そのことを考えると、残っている罪人に与えられる罰は最低でも一生涯の自宅謹慎。
どうせ判決に従う気がないとはいえ、ここまでつき合わされた以上その結論には多少なりとも興味がわいてくる。
緊張とも興奮とも違う不可思議な空気が漂う中。その中心にいる男は、残りの罪人を全て指さし、ただ一言。
「貴様らは、死刑だ」
と宣告した。




