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キラースペルゲーム  作者: 天草一樹
正義躍動する三日目

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45/96

より強い信頼を

 予想を遥かに上回る、五時間に及ぶ大演説。

 あれだけ長いこと語り続けておきながら、結局一度も嘘を含まず語りつくした佐久間の手腕ならぬ舌腕。それにはただただ驚嘆するしかなく、さらに恐ろしいのは、しびれを切らした架城が止めなければまだまだ話は終わらなかったことだ。

 何はともあれ佐久間の裁判が終わった後、残りのプレイヤーも順次裁判が進められた。


 六道天馬――キラースペルゲームの司会を務め、数多くの人々の死を面白おかしく実況した。

 姫宮真貴――自身の魅力にものを言わせ、何人もの男どもを虜にし金を貢がせた。中には多額の借金を抱え、挙句には銀行強盗を行った者や、自殺してその保険金を献上しようとする者など、男たちの運命を狂わせ不幸に導いた。

 鬼道院充――心洗道という宗教団体を立ち上げた。自身は人を殺したつもりはなく、また人を不幸にした記憶もない。が、信者(患者)の心を虜にし過ぎたことで、結果としてその周囲の人間を不幸に至らしめていた可能性がある。

 秋華千尋――自身を裏切った友人に過剰なまでの罰を加えた。具体的には、必ず返すからと言われ五百円を貸したにも関わらずお金を返さなかった友人を、家から二度と出られないほど評判を貶めた。

 神楽耶江美――罪と言えるほどの罪はなし。何かの手違いでこのゲームに呼ばれたと思われる。


 全員の裁判が終わり、正義の使者は最終判決を下すため目を閉じ深い黙考に入った。

 その間罪人たちは自由時間となったわけだが、その多くが驚きと共に神楽耶を見つめていた。

 まあそれも当然の反応だろうと明は思う。

 自身に実際人を殺した――ここで行った罪の告白がゲームに呼ばれた原因であるなら、殺人と呼べないものもありそうだが――記憶がある者からすれば、運営が選んだ人材にミスが入っているなどとはまず考えないだろう。ましてこのゲームの運営は日本を牛耳る四大財閥であるのに加え、キラースペルという超常的な力まで持ち合わせている。そんな相手が選別ミスをするなど、そちらの方が疑わしい話である。

 しかし、現実問題として神楽耶は自身の罪を否定したうえで五体満足に生き残っている。『虚言既死』のキラースペルが発動している以上、彼女の言に嘘はないと認めざるを得ないのだ。

 神楽耶が無実だったことや、佐久間があれだけ話し続けても死ななかったことから、架城は再度スペルが唱えられたかどうか疑問に感じ始めたようだ。眉間に深くしわを寄せ、苛立たし気に周囲を見回している。

 架城以外はスペルの発動を信じているようで、純粋に神楽耶が無実だったことに驚いている様子だ。

 因みに明自身は秋華の罪状に驚いていた。具体的な方法はぼかされたが、たかが五百円借りパクされたことへの仕返しとして家から出られなくなるまで追い詰めるなぞ……普通に怖すぎる。

 後はおおよそ予想通りだったが、さて、宮城は誰にどんな罰を下すことにするのか。

 明が黙って宮城を眺めていると、再び背後から肩をつつかれた。


「あの、東郷さん。ここでするのは危険かもしれないですけど、この状態でいるのはもっと危険な気もするので、今尋ねさせてもらってもいいですか」

「何の話だ」


 後ろを振り返ると神妙な表情を浮かべた神楽耶の姿が。明は話の内容に心当たりがありつつも敢えて聞き返した。

 神楽耶は周りを警戒した様子で見まわしてから、明の耳に顔を近づけた。


「その、『虚言既死』のスペルを私も知ってしまった件についてです。このスペルは私がもともと持っていたスペルと違って、東郷さんに分かる形で無駄打ちをすることができません。でもこのスペルを持ったままじゃ、私と東郷さんの関係は成り立ちません。どうしたら――」

「じゃあチームを解散するか」

「え! いや、それは流石に……。もう東郷さんと私がチームを組んでいることは全プレイヤーが周知のことですから、今更他の方とチームを組むなんてできないでしょうし――」

「だがお前が運営のミスでここに連れてこられたことは証明されただろう。今ならチームを組んでもいいという奴もいるんじゃないか。例えば宮城とかな」

「宮城さんは……悪い人じゃないのかもしれませんがちょっと……。それにこのことを知ってから私とチームを組みたいっていう人は、私のことを都合よく利用する気満々の人たちってことになりませんか。正直そんな人たちが私のことを助けてくれるとは思えませんし、やっぱりチームを組むのは気が進みません」

「なら誰ともチームを組まずに部屋に籠ってやり過ごすか」

「……東郷さんは私と別れたいんですか?」

「まさか。お前とチームを解消することのメリットは何もない。別れるぐらいなら殺してしまうさ」

「だったらふざけてないでちゃんと答えてください。これは私たちの今後を左右する重要な問題なんですよ」


 怒った様子で眉を顰め、神楽耶が睨み付けてくる。

 少々おふざけが過ぎたかと反省しつつも、明は頭をかきながら一言、


「特に何かする必要はないだろ」


 と答え返した。

 予想外の返答だったのか、神楽耶は口を半開きにして固まってしまう。

 ちらりとそんな彼女の表情を眺めた後、明は視線を宮城に戻してから続けた。


「このスペルはそこまで危険なものじゃない。俺がお前に対して嘘をつかなければ、たとえスペルが発動していようとも害はないんだ。むしろ、より強い信頼関係を築くためにもそのスペルを唱えてもらった方が都合がいいともいえる」


 ようやく頭が正常に機能し始めたのか、神楽耶は慌てた様子で口を開く。


「そ、それで本当に大丈夫なんですか? 東郷さんが本心から気にしないというなら私に異論はありませんけど、もしそうじゃないなら……。常に疑われているかもしれないという気持ちでいるのも辛いですし、やっぱり危険だからと殺されることになりそうで怖いです。なんとかして無駄打ちを証明する方法を探した方が――」

「『俺はキラースペルゲームに現在参加している神楽耶江美に対し、今後一切嘘をつかないことを誓う』」


 明の宣言を聞き、神楽耶の目がはっと開く。

 十秒、二十秒と時間が経つも明の身には何も起こらない。

 例え今のが本心で、死ぬ恐れが低かったとしても。死ぬリスクを冒してまで嘘でないことを証明してみせる。明が自分に示してくれた覚悟の強さを悟り、神楽耶は真剣な面持ちで大きく頷いた。


「分かりました。なら私も、今まで通り東郷さんのサポートに徹したいと思います。絶対に、私のことを生き残らせてくださいね」

「ああ、勿論だ」


 明がそう答えると同時に、宮城がぱちりと目を開いた。


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