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キラースペルゲーム  作者: 天草一樹
正義躍動する三日目
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正義の使者による裁き2

「嘘をつけないのなら黙秘するだけの話ね。暴力の禁止されたこのゲームでは、黙秘した相手の口を割らせる方法なんてまず取れないでしょうから」


 この状況をいち早く理解し、真っ先に口を開いたのは架城だった。

 皮肉な笑みを浮かべ、宮城の作戦がいかに愚かだったのかを態度で示してくる。

 だが、宮城に動じた様子は一切ない。正義煌めくどこまでもまっすぐな瞳で、真っ向から架城に反論した。


「もしこの場で黙秘を続け、己が罪を償おうとしない不届き者がいたならば。俺はそいつらに捨て身の攻撃を行う。ルール違反を犯し処罰されるとしても、そこには数秒のタイムラグがあるはず。その間に貴様ら貧弱な犯罪者を殴り殺すことなど、俺にとっては造作もない話だ。ゆえに、もし俺の一撃を受けてでも死なない自信があるのなら、黙秘をしてみればいい」


 清々しいまでの脅迫。しかしこの場においては確実に効果が望める一言である。

 血命館に集められたプレイヤーの中にはあまり逞しい体つきの者はいない。基本的に肉弾戦が行われることを想定していないためか、宮城と一井を除けばほとんどが華奢な体つきの者ばかりである。

 とはいえ、いくら何でも一発殴られただけで死ぬことなどあり得ないと思われる――が、宮城の全力をまともに食らってしまえば、その後のゲームで不利になる怪我を負うことは十二分に考えられる話だった。

 架城としてはその挑発を笑って受け流したかったようだが、宮城の目を見て彼が本気で実行するつもりだということを悟ったようだ。俯いて宮城から視線を外すと、悔しそうに爪を噛み始めた。

 地味な恰好もそうだが、どうにも架城には品性が足りていないな、などと明は品定めをする。

 宮城に論破されたのがそんなに悔しかったのだろうか。まあプライドはかなり高そうではあるが。

 そんな風に架城を観察していると、明としては少し意外なことに鬼道院が口を開いた。


「宮城さん。罪を償えと言いますが、罪とは何を指し示すのでしょうか? 法律を犯す行為のことでしょうか? それとも人として倫理的に外れた行為でしょうか? 人間だれしも、生きていれば何かしらの罪を背負うことになると思います。一体宮城さんは、何を罪として認識し、私たちに罰を下すのでしょうか? 少なくとも正義の使者であるあなたは、人を――悪人を殺そうとしています。とすれば、理由さえあれば、人を殺すこと自体は罪ではないと考えているのですよね。公平な裁きを行うのであれば、まずはそこのところを明確にしてもらえないでしょうか」


 さすがは教祖といったところかと明は感心する。

 罪を裁く・許すという違いこそあるものの、罪の在り方については普段から意識し問い続けているのだろう。まして教祖という立場からしてみれば、正義の使者を自称している宮城だって教え導く対象となるはず。

 あわよくばここで宮城を改宗させ、自分の手駒として使えるよう篭絡しようとしているのかもしれない。

 だが、鬼道院のその目論見に反するが如く、宮城は険しい視線を教祖に投げかけた。


「悪いが、貴様の言葉はもう俺の心に響かない。昨日あれだけの大言を吐いておきながら、むざむざと藤城を死に追いやった。もとより、貴様にとって自分以外の命になど興味はないのだろう。

 それから何を罪とするかは、貴様に言われずとも俺の中に明確な線引きがなされている。もしその判断に反論したいというなら、それは好きにしてくれて構わない。だが、いまだかつて俺の下した結論を覆すような正論を述べたものは、誰一人としていなかったことは言っておく」

「それは結局、お前の独断と偏見で決まるってことだな」


 ぼそりと明はそう呟き、小さくため息を漏らした。

 これ以上何か聞いたところで、宮城が考えを改めるようなことはなさそうである。

 誰もが半ば諦めの気持ちで、この先の展開を享受するしかないかと肩を落としていく。

 質問はもう出なさそうだとみて取ったのか、宮城が改めて口を開いた――その直後。明の後ろで沈黙を貫いていた神楽耶が唐突に質問を発した。


「これから先は宮城さんが私たちに質問する時間が続くのですよね。でもそれって、当たり前のことですけど一人ずつ聞いていくことになりますよね? そこで聞きたい、というよりお願いしたいことが一つ。質問されていない間は多少リラックスして、周りの人とお話ししてもいいでしょうか? 私にはあなたに裁かれるような罪はないのですぐ終わると思いますけど、それでもここにいる全員の告白を聞いていたらかなり時間がかかりますよね。その間の暇つぶしとして会話ぐらいは許してもらえないでしょうか」


 思いがけない神楽耶の提案。そこに秘められた彼女の意図に気づき、明はいくらかの驚きと共に彼女を振り返った。

 今、この場においては、宮城を除く全員が嘘をつくことはできない。それはつまり、宮城の質問に対してだけでなく、それが誰の質問であっても相手は正直に話すか黙秘するかしかできないということ。

 明は今更ながら、この瞬間以上に相手から情報を得られるチャンスはないということに気が付いた。

 そのことを察したのは明だけでなかったらしく、数人が驚いた表情で神楽耶へと視線を送っている。

 神楽耶が提案するものが何を意味するのか知ってか知らずか、宮城は真顔のまま「小声で会話するぐらいなら構わない」とあっさり許可を出した。

 神楽耶は笑顔で礼を言うと、「そうだ、もう一つお願いしたいことがあるんです」とさらに言葉を続けた。


「先程の宮城さんと鬼道院さんの会話からだと少しあやふやなまま過ぎてしまいましたが、私としてはどんな理由があろうと殺人は悪であり、許すべきでない行為だと思っています。ですからまず、誰が藤城さんを殺したのかを聞いてみてくれませんか? つい数時間前に人を殺しておきながら、飄々とこの中に交じっている人がいると思うと吐き気がしてきますから。是非真っ先に裁いていただけると嬉しいです」


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