「押してダメなら引こう」作戦
「…で、なんでそんな事言うんだよ!」
気づくと、俺は大声で怒鳴っていた。
俺は不良だったので、仲間と喧嘩を毎日のようにしていたが、別に大声で怒鳴ったりすることはなかった。
だからなのか、彩花を含めた周りの人々は俺の行動にぎょっとしている。
俺は自分のエゴで、彩花を傷つけていたのだろうか。
いちばん大切に思っていたはずなのに…
彩花は、幼い頃からヴァイオリンを習っている。
少し前に国内コンクールで優勝したことで、世界大会への切符を手にした。
世界大会で優勝するために学校以外の時間はほとんど練習に費やしていた。
あまり会えないのは寂しかったが、目標のためにひたむきに頑張る彩花を俺は応援していた。
「彩花、俺は婚約破棄は認めない。それに、お前が俺から離れていくなんて認めないから。」
「で、でも…」
「なんで?!私のが賢介に相応しいのに!」
まさに般若のような顔をした萌奈が叫んだ。
「なんでそう思う?」
俺は不思議そうに首を長傾げた。
この女は俺によくまとわりついてきたが、副会長たちの方が親しい気がする。
「だって、私は賢介のことちゃんと見てるし、知ってるもん。この女みたいに、賢介のこと放ったらかしになんてしないもん!」
トマトみたいに真っ赤な顔をした萌奈が彩花を指差し、キーキーと叫ぶ。
はっきりいって見苦しい。
そして、俺の彩花を指さすな!
苛立ちが収まらないが深呼吸をし、冷静声色で問いかける。
「例えば何を知ってるんだ?」
「…甘いものが好きとか、喧嘩が強いとか…色々知ってる。」
萌奈が彩花の顔をみ勝ち誇った顔をする。
俺が口を開こうとした時、彩花が喋り出した。
「賢介は、実はそんなに甘いものは好きじゃない。」
「嘘よ。だっていつもお菓子持ってるわ。」
勿論、彩花が廊下ですれ違った時などに、手作りのお菓子をくれるからだ。
そもそもお菓子といっても、彩花は俺の好みをちゃんと把握している。
幼い頃に友人たちに手作りのお菓子をプレゼントしているのを羨ましそうに見ていた俺のために彩花は甘くないお菓子を作ってくれるようになった。
結論を言うと、彩花以外からのものなんて要らないのだ。
彩花がくれるから価値がある。
目の前にいる騒がしいだけの女はそのことに微塵も気づかずに騒ぎ続ける。
「それは彩花がくれるからだよ。」
「好きじゃないって分かってるのに渡すなんて、おかしいわ。」
「おまえには分からないよ。まあ、分かってなんか欲しくないけどな。」
何を言っても否定してくる相手に疲れたので、癒しを求めて彩花に手を伸ばす。
次の瞬間には俺の腕の中に彩花がいた。
「け、賢介から離れてよ!」
グルグルと唸りながら、萌奈が叫ぶ。
いや、俺が抱きしめてるからむりでしょ。
そもそも、引き寄せたの俺だし。
本当にこの茶番には飽き飽きしてきた。
「だってよ、賢介。」
彩花もうんざりしているらしく、声には呆れがまじっている。
「そんなのどうでもいいだろ?ねぇ彩花、オレのこと好き?」
「…」
「じゃあ嫌い?彩花は、俺に婚約破棄して萌奈と仲良くしてる方がいい?」
「…」
俺はため息をつくと、萌菜の方に歩き出した。
押してダメなら引く、だ。
「…わ、私のが賢介のこと知ってるから。貴方みたいに周りに男を侍らせてるような人に賢介は渡さない。」
俺が2、3歩踏み出した時、彩花がもえなに向かって叫んだ。
「えー?でも、本人の意思次第じゃないの?」
くすくすと意地悪く萌奈が笑う。
嗚呼、まだ自分に傾くと思っているのか。
愚かすぎて、笑える。
「それに、私は相応しくないとか言ってたじゃん?」
その言葉に彩花の顔色は青を通り越して、白になった。