仄暗い欲望
萌菜のそばに居るのは、好きだからじゃない。
副会長達が萌菜に夢中だから、面白半分でくっついているだけだ。
それに、彩花が嫉妬してくれたら嬉しい、という仄暗い期待が心の片隅にある。
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萌菜に約持ちの生徒がかかりっきりで仕事が滞っている。
そのせいで、生徒会長である彩花に苦情が多数寄せられているらしい。
出来るなら、今すぐ彩花のところに行って仕事を助けたいが、ここは我慢だ。
俺は萌菜達に気づかれないように小さくため息をついた。
彩花が苦情を言いに来たのは、すぐだった。
「あまり睨まないでいただけますか?萌奈が貴方の般若のような顔に怯えています。嗚呼、なんと醜いのでしょう。」
そう言うと、副会長が萌奈を背中に隠した。
副会長の後ろで萌奈が、大丈夫だよ、と目にうっすら涙を浮かべて話していた。
俺は、萌菜が鳴き真似をするために大量の目薬を常備しているのを知っている。
だから、うっすらと涙を浮かべる萌菜を見ても、守りたいとは微塵も思わない。
「ねぇ、琴音。私の顔って般若に似てるのかしら?」
彩花は困ったような顔をして振り返った。
生徒会で会計をしていて彩花の親友の沢口琴音がまさか、と首を振る。
「彩花は般若より、天使にそっくりだよ?」
天使…
そうだ、よく言ったぞ沢口!
脳内で沢口の意見に賛同していると、横槍が入った。
「萌奈の方が、どう見ても天使だ!」
「はぁ?どう見ても彩花さんの方が美しいわ!」
彩花の近くにいた生徒が叫ぶとぎゃあぎゃあと言い争いが始まった。
彩花は、うんざりしているのか遠い目をしていた。
遠い目をしていた彩花は、パンパンと手を叩き言い争いをやめさせると、
「貴方達が誰に恋をするかは自由です。だけど、他人に迷惑はかけないで。とくに、生徒会役員の皆さん。お仕事をする気がないなら、役員を辞めてくださいね。あと婚約者のいる方々は、正式に家の了承の元婚約を破棄してからどうぞ?」
彩花が言ったように、婚約には双方にメリットがあるから結ばれている。
いくら親に可愛がられていても、家同士の取り決めを一方的に解消すれば、大問題だ。
最悪の場合、破門される。
彩花は暗に、その覚悟があるのかしら?、と問いかけている。
萌菜の取り巻き達は、言われていることが分かったのか、何人かは青ざめたり、下を向いている。
「彩花さん。自分の婚約者が私のところにいて悲しいからって、酷いこと言うのはやめてください。」
何を考えているのか、萌奈が涙を溜めて震えながら彩花に反撃した。
嗚呼、なんて愚かなのだろう。
萌菜…お前は彩花の足元にも及ばない。
美しさもだが、ここまで愚かとは…
彩花はため息をつくと、萌奈ではなく俺に話しかけた。
「賢介さん、私がヴァイオリンに夢中なばかりに、貴方に婚約者らしいことが何一つ出来ませんでした。ごめんなさい。私との婚約を放棄してください。」
彩花はそう言って、お手本のようなお辞儀をした。