どうせ無駄
「…で、なんでそんな事言うんだよ!」
私は、彼の怒りの表情に驚いた。
周りの人達もぎょっとしている。
賢介はいわゆる不良だ。
金髪にたくさんのピアスや着崩した制服、そしてたくさんの傷。
私はいつも賢介の怪我を見つけると、怪我の手当をしながら、喧嘩を止めるように耳にたこができるほど言っていた。
それでも彼に喧嘩をやめる気は無いらしく、生傷が絶えなかった。
始めは賢介のところにちょくちょく行って、手当てをしていた。
ちょうどそのころ、私はヴァイオリンの国内コンクールで優勝したことで、世界大会への切符を手にした。
私は賢介も心配だったけれど、どうしても世界大会で優勝したかった。
結局、私は、心配、なんて言っても自分が一番可愛かった。
だから、ヴァイオリンに夢中で賢介を見れない私とは婚約を解消した方がきっとためになる。
そう思ったのに…
「彩花、俺は婚約破棄は認めない。それに、お前が俺から離れていくなんて認めないから。」
「で、でも…」
「なんで?!私のが賢介に相応しいのに!」
突然、般若のような顔をした萌奈が叫んだ。
「なんでそう思う?」
賢介は心底不思議そうに首を長傾げた。
「だって、私は賢介のことちゃんと見てるし、知ってるもん。この女みたいに、賢介のこと放ったらかしになんてしないもん!」
トマトみたいに真っ赤な顔をした萌奈が私を指差し、キーキーと叫ぶ。
「例えば何を知ってるんだ?」
「…甘いものが好きとか、喧嘩が強いとか、音楽が好きとか…色々知ってる。」
萌奈が私の顔をみてドヤ顔をしてくるので、私は怪訝に思い、口を開いた。
「賢介は、実はそんなに甘いものは好きじゃない。それに…」
「嘘よ。だっていつもお菓子持ってるわ。」
「それは彩花がくれるからだよ。」
嬉しそうな顔をした賢介が答える。
「好きじゃないって分かってるのに渡すなんて、おかしいわ。」
「おまえには分からないよ。まあ、分かってなんか欲しくないけどな。」
いつの間にか私は賢介の腕の中にいた。
「け、賢介から離れてよ!」
グルグルと唸りながら、萌奈が叫ぶ。
「だってよ、賢介。」
「そんなのどうでもいいだろ?ねぇ彩花、オレのこと好き?」
「…」
「じゃあ嫌い?彩花は、俺に婚約破棄して萌奈と仲良くしてる方がいい?」
「…」
賢介はため息をつくと、萌菜の方に歩き出した。
「…わ、私のが賢介のこと知ってるから。貴方みたいに周りに男を侍らせてるような人に賢介は渡さない。」
「えー?でも、本人の意思次第じゃないの?」
くすくすと意地悪く萌奈が笑う。
「それに、私は相応しくないとか言ってたじゃん?」
そうだ。
私は自分で相応しくないと言った。
こんな事言ってもどうせ無駄。