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姉弟

 一方のカインは、グレイシィと共に街中を逃げ回り、ようやく人気の無い路地に入って物陰に隠れた。

 辺りからは、二人を捜索する衛兵達の怒声と足音が聞こえる。二人はいつ見つかるとも知れない不安に身を竦ませながら、ひとまず限界まで乱れた呼吸を整える。


「くそ……これじゃ逃げ場が無いな」

「うん……だけどまさか、お父さんがあんなことするなんて……信じられない……」

「まったくだ。これで頼りにしてた宛が外れた。これから一体どうすりゃいいんだ……」


 未だ荒い息をつきながら、カインは狭い路地の上に覗く青空を仰いだ。あちこちを駆け回ったせいで体が熱く、額からは汗が滴ってくる。


 が、ときにカインは、隣にいるグレイシィが泣きそうな顔で俯いていることに気が付いた。

 信じていた父親に裏切られた。その思いが強いのか、体を小さくして座り込んだグレイシィは、微かに肩を震わせている。


「――ごめんな」

「え……?」

「さっき、あんたを殺すって言ったの。あれ、嘘だから。あのときは逃げるために、とっさにああするしかないと思って……だけど、いくら切羽詰まってたからって、いきなり剣を向けたりして悪かった」

「あ……な、何だ、そんなこと、初めから気にしてないよ。あたしの方こそごめん。お父さんならきっと助けてくれるなんて大口叩いて、結局またカインを悪者にしちゃった……」

「いや。さっきのは、俺が自分でやったことだ。あんたが兵士に押さえ付けられたのを見たとき、何でか頭がカッとなっちまって……気付いたら連中を殴り倒してた」

「カイン……」


 頭を掻きながらカインが言うと、グレイシィはふと前を向いて視線を落とした。

 余計に気を悪くさせたかと思ったが、そうではないようだ。よく見れば、俯いたグレイシィの横顔がほのかに赤い。


「……ありがと。あたしのために怒ってくれて」

「あんただって、さっきは俺のために怒ってくれたろ?」

「うん」

「それに、村では俺を守ってくれた。なら、今度は俺があんたを守る番だ。男がただ守られてるだけってのも、格好がつかないからな」


 今はただ、落ち込んでいるグレイシィの気を紛らわすことができればそれでいい。その思いだけで、カインは気丈に笑いかけた。

 それを見たグレイシィもまた、嬉しそうな笑みを返してくる。――瞬間、カインの意識がぐらりと揺れる。


 何だ、これは。異変を感じ、とっさに自分の額を押さえた。

 頭の中でざらざらと音がする。頭の裏側が熱いような、何かが詰まっているような、何とも言えない感覚がカインの思考を支配する。


「カイン?」


 グレイシィもまたそんなカインの様子に気が付いたらしく、隣から顔を覗き込んできた。その口が〝大丈夫?〟と尋ねてきたのは分かったが、頭の中の音がうるさすぎて、声が、音が聞こえない。


「――あ、いたいた。やっと見つけたよ」


 刹那、物陰に座り込んだ二人の頭上から声が聞こえた。それははっきりとカインの耳にも届き、頭の中の雑音を遠ざける。


 はっとして、立ち上がった。剣の使い方もろくに知らないくせにとっさにその柄を握り、グレイシィを庇うようにして身構えた。

 そうして即座に戦闘態勢を取られた声の主は、ちょっと驚いたようだ。目を丸くして二人を見ると、〝自分は無害だ〟とでも言うように両手を上げ、口辺に苦笑を滲ませる。


「おいおい、そう怖い顔をしないでくれ。私は味方だ、敵じゃあない」

「……あんたは?」


 いつもより数段低い声で、注意深くカインは尋ねた。そんなカインの警戒を見て取ったのか、相手も両手を上げたままの姿勢を維持している。


 突如二人の前に現れたのは、まだ若い一人の女だった。逆光で顔はよく見えないが、声の感じからして年齢は二十代半ばほどではないかと思われる。

 女にしては驚くほど背が高く、身長はカインを超えていた。非常に短く切られた髪は淡い金色で、うなじから先だけが長く、尻尾のように一つに結われている。

 更に袖の無い白のチュニックから覗いた両腕は逞しく、右の長身と髪型も相俟って、シルエットだけならば男と見間違えてしまいそうな風貌をしていた。

 が、その豊満な胸だけが、唯一彼女が紛れもない女であることを主張している。いくつものボタンで前が留められたチュニックも胸の部分だけが異様に張り、今にもはち切れてしまいそうだ。


「私はライラルティア。ライラルティア・コリ・カベレセドだ。名前が長いから、〝ライ〟と呼んでくれて構わない。西のアンモス汗国から流れてきた傭兵でね」

「アンモス汗国?」

「知ってる。トイコス山脈の向こうにあるっていう砂漠の国よ。帝国とはあんまり国交が無いんだけど、〝大王ハーン〟って呼ばれる王様が、色んな部族を束ねてる国だって聞いたことがある」

「つまり外国人ってわけか。そんな奴が俺達に何の用だ?」

「詳しいことは後で話すよ。今は追っ手を撒くことが先決だろう。ほら、これを被りな」


 言って、ライと名乗った女は、二つの布の塊を無造作に投げ渡してきた。カインが慌ててそれを受け止め、開いてみれば、どうやらそれは二人分のマントのようだ。


「これは……あたし達を助けてくれるってこと? どうして?」

「詳しい話は後だと言ったろ。いつまでもここにいたら、見つかるのは時間の問題だ。ついてきな。私が泊まってる宿まで案内するよ」


 状況がまったく呑み込めず困惑する二人を差し置いて、身を翻したライはさっさと歩き始めてしまった。それを見たカインとグレイシィは一瞬顔を見合わせた後、慌ててマントを頭から被り、ひとまずライを追いかける。

 突然現れた謎の女を信用するわけではないが、今は他に頼れるものなど何も無かった。先を行くライは二人がついてきたのを後目に確認すると、自身もまた砂色のフードを頭に被る。


 薄暗い路地から太陽の下に出ると、ライの肌が帝国人のそれより浅黒いことにカインは気付いた。更に背中には、グレイシィの背丈ほどはありそうな戦斧を斜めに背負っている。恐らく彼女がマントではなくフードを被ったのは、その斧が邪魔だったからだろう。

 ライがそうして顔を隠したお陰で、後ろに続く二人の姿だけが浮くということは無くなった。三人はさも余所から来た旅の仲間だという体で、騒然とする街の中を歩いていく。

 途中で衛兵と擦れ違ったときはさすがにひやりとしたが、向こうがカインやグレイシィの存在に気付くことは無かった。先頭を行くライが堂々と胸を張って歩いているので、一見しただけで他国から来た傭兵一行と判断されたようだ。


 やがてライが二人を案内したのは、街の南西部にある小さな宿だった。

 どうやらこの辺りはレオフォロスの中でも一部の貧しい層が集まる区画のようで、華やかな街の中心部からは想像もつかないほど景色は寂れ、閑散としている。


「女将さん、これ、心付け。もしこの宿に衛兵が来たら、何を訊かれても知らないと言ってもらえるかな」

「おやおや、ありがとうねぇ。そんなことなら御安いご用だよ」


 宿に入るなり、ライがそう言って数枚の銅貨を差し出したのは、カウンターにいる小柄な老婆だった。

 それを受け取った老婆の腕は干からびたように細く、衣服も宿の経営者のものとは思えないほど粗末で薄汚れている。


「こっちだ」


 そんな老婆への根回しを済ませ、ライは二人を宿の二階へと案内した。

 一階をよく見ていないので分からないが、どうやら客室は四つしかないようだ。ライは通路の左右に二つずつ並んだそれらのうち、左手奥にあるドアをノックし、中へと入る。


「――ライ姉、おかえり! ……って、その人たち、誰?」


 と、途端に部屋の中から聞こえた幼い声に、カインとグレイシィは思わず目を丸くした。

 ライが部屋に入るや否や声を弾ませて飛びついてきたのは、十歳になるかならないかといった外見の黒髪の少年だ。


「ただいま、アベル。この二人は、街で知り合った私の友人だ。えーっと、名前は……」

「カインだ。こっちは連れのグレイシィ」

「カインにグレイシィか。こいつは私の弟でアベルという。他に身寄りも無く、アンモスから二人で旅してきたんだ。やんちゃな奴だが、よろしく頼むよ」


 アベルと呼んだ少年の背中に手をやりながら、フードの下でライは笑ったようだった。アベルはそんなライの後ろに隠れながらも、子供特有の大きな目で興味津々にカインらを見つめている。


「随分歳の離れた姉弟なんだね」

「ああ、まあ、そうだな。よく言われるよ」

「そんな小さな子を連れてトイコス山脈を越えてきたの? あそこは熟練の冒険者でも命を落とすほど危ない場所だって聞いたけど」

「だが他にオロス帝国へ入る方法が無かったからな。ゴルゴナ海峡を渡ってシートス王国に入ろうかとも思ったんだが、港はすべて軍に抑えられていて……」

「ねえ、ライ姉。どうしてフードなんか被ってるの? 出かけるときは何にも被ってなかったのに」

「ん、ああ、そう言えばそうだな。ここまで来ればもう大丈夫か」


 アベルに指摘されてようやく気が付いたらしく、ライは笑ってフードを毟り取った。

 そうして露わとなったライの顔を見た途端、カインは思わず絶句する。隣で目を見張って立ち尽くしたグレイシィも、それは同じだったようだ。


「ん? どうした、君達もマントを脱いだらどうだ?」


 そんな二人の様子に気付いたライが促してきたが、カインはしばし茫然として、それに答えることさえできなかった。


 先程は路地の暗がりで見えなかった、ライの顔。

 それは言葉を失うほど〝あの絵〟の女にそっくりだった。


 カインがグレイシィに発見された当初、唯一身に付けていたという荷袋に入っていたあの絵の女だ。額と頭皮の境目で短く切られた前髪や、若葉色の塗料で額に描かれたダイヤ型の模様、瞳、肌の色などは違うが、それ以外は生き写しだと言っていい。

 顔の輪郭も、形のいい唇も、整った目鼻立ちもすべて同じだった。こんな偶然があるのかと、カインは何度も目を疑ってしまう。


「か、カイン、これって……」

「あ、ああ……他人の空似、ってレベルじゃないよな……」


 言いながら、カインはとっさに腰の後ろにある荷袋を開けて手を突っ込んだ。荷袋は帯が切れてしまったため、留め具で繋ぐのではなく、今は二本の帯を縛って無理矢理腰に巻いている。


「なあ、あんた、ライって言ったか。俺達、前にどこかで会ったことないか?」


 尋ねると同時にカインはマントのフードを外し、自らもライの前に素顔を晒した。そうして例の絵を差し出し、そこに描かれた女をライに示す。

 自分に瓜二つの女の姿に、ライもまた瞠目して驚いていた。彼女はカインからその絵を拝借すると、信じられないとでも言いたげにまじまじとそれを眺めている。


「驚いたな。オロス帝国には、ここまで精巧な絵を描く画家がいるのか……」

「いや、問題はそこじゃなくて」

「ああ、これは失敬。だが、これほどまでの技巧で描かれた絵画は見たことが無くてね。おまけに描かれている女性は私にそっくりだ」

「その絵に何か心当たりは? そこに描かれてるのはあんたじゃないのか?」

「いや、残念ながら私ではないと思うよ。このような肖像画を誰かに描かせた記憶は無いし、髪の色や肌の色、それに着ている衣服もまるで違う」

「なら、その絵の裏に書かれてる文字は? あんたの国の文字じゃないのか?」

「これかい? ……いや、アンモスの部族達のものではないよ。こんな文字は、私も見たことがない」

「そんな……」


 と、落胆した声を上げたのは、カインではなくグレイシィの方だった。マントを脱いだその横顔には、せっかく手がかりを見つけたと思ったのに、という失望が浮かんでいる。


「力になれなくてすまないな。君達は、この絵に描かれた女性を探しているのかい?」

「まあ、そんなところだ。ところであんた、さっき自分は傭兵だって言ってたな。どうして俺達を助けてくれたんだ?」

「ああ、そうか。その話をまだしていなかったな。ひとまずその辺りにでも掛けてくれ。アベル、宿の女将さんに言って、水をもらってきてくれないか?」

「うん。分かったよ、ライ姉」


 はきはきと聞き分け良く答え、アベルは部屋を飛び出していった。よく見るとライの真似をしているのか、襟足の髪をやや伸ばし、それを一つにまとめている。

 ライがアベルと二人で泊まっているという部屋は、小さな寝台が二つと古ぼけたクローゼットが一つあるだけの粗末なものだった。部屋の隅に置かれたクローゼットの横には小窓があるが、そこに嵌め込まれたガラスも右下が欠けてしまっている。


「で、早速本題に入るとだな。さっきの騒ぎの一部始終を見せてもらった。君達が役所を飛び出していったとき、私もあの場にいたんだよ。ちょうど役所で傭兵を募集しているという話を聞いてね」

「じゃあ、あそこからあたし達を追いかけてきたの?」

「まあ、そういうことになるな。あのとき正門を塞いでいた衛兵達を見事に出し抜いた、そこの彼の機転に感心してね。君達がただの罪人とその人質じゃないことは、騒ぎが起こる前から知っていた。相談所で順番を待たずに、二人仲良く役所の中へ入っていくのを見ていたからね」


 話しながら、ライは背負っていた戦斧を外し、それを寝台の傍の壁へと立てかけた。

 カインとグレイシィは、入り口に近い方の寝台を椅子代わりに、肩を並べて座っている。既に剣はグレイシィに返したが、いざとなればすぐにもここを脱出できる構えをカインはひそかに作っていた。


「それで君達なら、私がこれから向かう仕事の心強い助っ人になってくれるんじゃないかと思ったんだ。今回の仕事は、私一人でこなすのはさすがに難しいかもしれないと思ってね」

「その仕事って、一体どんな内容なんだ?」

「一言で言うなら――悪魔退治。さっき役所で請け負ってきたばかりの仕事だ。既に八人の勇士が挑み、失敗していると聞いた。私も受けるかどうか悩んだが、背に腹は変えられない」

「……! 〝悪魔〟って……」


 ライの口から出た予想外の言葉に、二人はまたしても顔を見合わせた。

 そのときカインの脳裏を過ぎったのは、二日前の晩、ヘウリスコ村を襲ったあの禍々しい悪魔の姿だ。人間の少女に似た外貌をしながら愛らしさなど欠片も無く、まるで狂気と闇の塊のように夜の世界に君臨していた。


「その悪魔って、もしかしてこの街の南にある村を襲った奴か?」

「え? いや、それは初耳だが……私が役所で聞いた話では、ここから北西に行った所に、古い涸れ谷があるという。悪魔は数年前からそこに棲み着いていて、国はもう何十年もその悪魔を追っていると言っていた」

「だけど悪魔退治は、本来なら軍の仕事でしょ? それを傭兵に依頼するなんて……」

「うむ……どうやらその悪魔は、かなり高度な魔術を使うらしくてな。武装した軍隊が接近するとすぐに危険を察知して、魔術で姿を消してしまうらしいんだ。この数十年の間に国も繰り返し軍隊を送り続けたが、結局上手くいかなかったという。それで、少人数で目立たずに接近し討伐するという方法が、最も効果的だということになったらしい」

「なあ……前から気になってたんだけどさ。悪魔退治って、普通なら聖職者みたいな、何か特殊な力を持った人間がやるもんじゃないのか? 軍隊や傭兵が出ていって悪魔を退治するなんて、何となく想像と違うって言うか……」

「まあ、数百年前まではそうだったようだがな。今では悪魔の研究も進み、奴らが純銀製の武器に弱いということが判明している。その武器も、今回の仕事では国が用意してくれているようだ。明日の朝一番に、役所で指定された武器屋へ取りに行くことになっている」


 ライがそう話したところで、部屋の外からアベルが戻ってきた。どうやら四人分の飲み水をもらってきたらしく、四つのカップが乗った盆を持ち、零さないようそろそろと部屋へ入ってくる。


「で、どうだ? 君達さえ良ければ、この仕事、手伝ってもらえないかな。もちろんタダでとは言わない。成功すれば報酬の半分を君達に譲るよ」

「その前に、何で俺達なんだ? さっき街を見て回った限りじゃ、俺達なんかより強そうな奴らがごろごろいたぞ?」

「それはさっき言っただろう。私も武芸には自信があるが、とっさの機転となるとそうもいかない。その点、先程の君の機転には至極感服させられた。だから私の至らぬところを、君達に補って欲しいと考えたんだ」

「なるほどね。どうする、カイン?」


 アベルが届けてくれた水入りのカップを受け取りながら、グレイシィがそう尋ねてきた。


 悪魔退治など、できることなら御免被りたいところだ。二日前に遭遇した悪魔の記憶を思い起こすだけで、カインの全身には粟が立つ。

 しかしこれは同時に好機でもあった。もしもライが討伐を請け負った悪魔というのがあの悪魔なら、カインは期せずして追っ手を撃退するチャンスを得たということだ。

 ここでライに協力し、あの悪魔を確実に滅することができれば、今後の旅の安全は約束されるはずだった。そうなればカインも落ち着いて自分の記憶の手がかりを探すことができるだろう。


「分かった。そういうことなら、あんたに協力してもいい。だがその前に、もう一つだけ訊いてもいいか?」

「何だ?」

「言うまでもなく知ってると思うが、俺達は罪人だ。なのにそれを匿うような真似をするのは、何か裏があってのことじゃないよな?」

「えっ。ライ姉、この人たち、悪い人なの?」


 ときにカインの言葉を聞いたアベルが、怯えた様子でライに尋ねた。

 が、ライはそれを聞いて微笑むと、隣に座ったアベルの髪をくしゃりと優しく撫でてやる。


「違うよ、アベル。この人達は衛兵に追われてはいるが、悪い人ではない」

「本当? どうして分かるの?」

「本当に悪い人間なら、いちいち〝匿ってもらっていいのか?〟なんてことは訊かない。自分は罪人だ、なんて言い方をすれば、せっかくの協力者がそっぽを向いてしまうかもしれないからな」

「そんな理由で俺達を信じるのか?」

「訳ありなのはお互い様だ。この際、余計な詮索はしないでおこうじゃないか。一つだけ言えるとすれば、私には君達を騙す気も、騙す理由も無いということだけだよ。私はただこの国で、アベルと共に生きていく術を模索している。それだけだ」


 そう言ってなおもライが頭を撫でてやれば、アベルは嬉しそうに笑った。その様子を見ただけで、この二人がいかに仲睦まじい姉弟なのかということがひしひしと伝わってくる。


 しかしそのとき、カインの胸には一抹の奇妙な感情が生まれていた。


 胸中を覆う、このもやもやとした思いは何なのだろうか。


 それはライの隣で笑うアベルを見る度、確実に成長していく。

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