第94話 二人の少女に挟まれて
――アインベルク王国、王都イーディスエリー北口。
アインベルク王国代表ソラ、護衛イリス。
ディオ王国のルーク、ユーズラル。
リリパトレア王国のエステル、リンフィア。
以上六人は各国『神聖魔導団』とその付き添い役を務める護衛である。
突如、渡されたレクセア王国からの招待状。
ゼクス・アーデルニアの死による『神聖魔導団』の空席を埋める新『神聖魔導団』ラティス・レシストの着任式ということで招待を受けていた。
各『神聖魔導団』一人につき付き添いは一人が原則ということで、今回ミリィは《クレア学院》で大人しく留守番を任されている。
「お待ちしておりました神薙ソラ様、ルーク・アルトノイト様、エステル・アトラーヌ様……。そして、イリス・エーヴェルクレア様お久しぶりです」
「あなたは……!」
六人の前に立っていた女性には見覚えがあった。
凛々しい敬語口調の振る舞い。
以前、ソラ達がセレスティナの交渉のためにベル王国に入国したときに出会ったベレニス・ラドルーフだ。
「ベレニスさん! お久しぶりです……」
ソラが握手を要求すると、ベレニスはその男らしい手を握り返した。
「覚えていただけて光栄です。先日のサキュバス戦、お見事でした」
「ありがとうございます。それで……ベレニスさんはセレスティナさんの護衛で……?」
「はい。大変恐縮ではございますが最善を尽くさせていただきます」
周りを見渡すと、一つの馬車があり、馬の隣には《クレア学院》に訪問してきたアインベルク騎士の姿が見えた。
しかし、見るところセレスティナの姿は見当たらない。
「セレスティナさんはまだ来てないんですか?」
「いえ、馬車の中に座られております」
「あ、あいつ――怒ってるな、多分」
ルークには直感で勘づいていた。
明確な証拠はないが、こういうときの原因はいつも自分たちが作っている。
図星だったのだろうか、ベレニスも愛想笑いだ。
「貴様ら何をしているのじゃ! 遅い!」
と、馬車から怒声が漏れてくる。
「何だよセレスティナ。お前も寂しいんじゃねえのか?」
「なっ! 貴様になど言われたくない!」
ルークの軽い挑発。
その挑発に本気で乗りやすいのがセレスティナの悪い癖だった。
ソラたちはこの後、言われるままに馬車に乗った。
馬車の座席は三列だった。
一列目にはソラを挟んでリンフィアとイリスが。
二列目にはエステル、ルーク、ユーズラルが。
三列目には残りのセレスティナとベレニスが座っていた。
セレスティナは一番後ろでできるだけ窮屈な席ではない方がいいという要望で自ら座っていた。
王の娘である権限を使い、誰も反論ができないという使用になっていることは伏せておこう。
――今馬車が通っている場所はヴァイドビム雪道。
レクセア王国に向かっている真っ最中だった。
「相変わらず極寒の地ね……」
イリスがさすがの寒さに呟くと、周りのソラたちも同感のようだ。
ヴァイドビム雪道以北のレクセア王国地域では常に極寒だ。
人間界上で例えるなら常に北極や南極――常時冬という単純な気候を極めている。
アインベルク王国馬車が豪華であった。
やはりさすがと言うべきか。
そんな豪華な馬車で保温機能付きの万能な馬車であってもやはり挫折という二文字は避けることができないでいる。
「でもでも! 寒いときには肌と肌を密着させるってお姉ちゃん言ってたよ?」
その時、ソラの隣に座っていた13歳のリンフィアがソラに抱きついた。
「ちょっ、リンフィアちゃん!? ソラは私の……!」
イリスもそれに対抗するようにソラに抱きついた。
「待って!? 何してるの二人共!?」
(おいおい、動けないんだけど……。別の意味で窒息するぞこれ……)
イリスの小さ目な胸でさえも、その感触が伝わってくる。
そして、幼女な13歳のスベスベ肌な肌がまとわりついて擦れる。
(え、エロい……)
ソラは耳が赤くなっていた。
体が密着すれば暖かくなる。
確かにそうはいうけれど、今は別の意味で暖かくなっている。
一番問題なのは後部座席からの視線だった。
直接後ろの光景を拝むことはできないがルークは確実に楽しんでいることは分かっていた。
ただ、エステルとセレスティナとベレニスの視線がかなり痛い。
魔力でも飛ばしてるんじゃないかっていうレベルなくらいに。
それとは裏腹に、仮面のユーズラルだけは完全に視線どころか気配がなかった。
大丈夫かこれ。
「ほらほら、ソラお兄ちゃん! あったかい、でしょ?」
「正直に言いなさいよ――」
「あ、暖かい、ぞ……?」
別の意味でね。
さすがに混乱してきたソラは理性を保てない。
後ろからの痛々しい視線と殺気――どんな羞恥プレイだよ。
「そろそろわらわの砂が暴れそうなんじゃがのう……」
「電撃浴びせていいですか?」
「お熱いな……お二人さん!」
セレスティナとエステルは限界が来ているらしい。
ルークはただ楽しんでいた。
「リンフィアちゃん、イリス。そろそろ……いいかな?」
「もう、仕方ないわね……」
「じゃあ、手繋ぐ――なら、いいよね?」
リンフィアが宝石のようなキラキラとした目でソラを見つめていた。
目が合うこと3秒。
ソラは即死した。
「まあ、それくらい――なら……」
リンフィアとソラの手と手が重なり合った刹那、次は可愛い小動物を見るような視線が向けられてきた。
(あ、これならいいのか)
と。
そこでソラはイリスがむずむずとしていることに気づく。
ソラは愛想笑いをしながら空いた片方の手をイリスの左手に重ねてやった。
「…………ソラ」
「…………イリス」
ソラとイリスはお互いに頬を紅潮させていた。
「リア充死んでください」
速攻で後部座席の方から二人を瞬殺する言葉が飛んできた。
(今、エステル――だよな?)
ソラは幻聴だと信じた。
まさか、エステルが、な、と。
そう信じたかった。
ソラが一呼吸して落ち着かせると目の前には初見の光景が広がっていた。
吹雪はなかった。
白い絶景の中心に聳え立つ純白の王城が――。




