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第89話 ソラ争奪模擬戦

 ――《クレア学院》地下には大きな空洞がある。


 お互いノンダメージで決闘ができる場所だ。

 初代学院長が自らの魔力で創造した空間とされている。

 以前、召喚神ロギルスとソラが激戦を繰り広げた場所だ。


 観戦席には戦闘が気になって来た野次馬の女生徒達が潔く座っていた。

 その数も高等部三年の半数――約500人以上にも上る。

 こんなにも多くの生徒が観戦しに来たのも理由があった。


「言っておくけどこれはアンタがしかけた戦闘でもあるからね……?」

「別にいいけど? ミリィ強いから! イリスっちになんか負けないもん!」


 そう、薄桜色の髪を持つイリスとライトブルーな髪を持つ小柄な体躯のミリィが火花を散らしていた。

 学年のトップと学年五位の実力を持つ二人の衝突はかなり貴重な戦闘なのだろう。

 ソラは強制的な連行によって観戦席の女生徒の中に一人紛れ込んでいた。

 ソラの周りには何故か女生徒が集まり、なかなか二人の監視に集中できない状況である。


「ではルールを説明します」


 と、今回の模擬戦で審判役を務める学院長アイリスが指揮を執った。


「今回の模擬戦はストック制とします。それぞれ所持するストックは3……」

「つまり、3本勝負ってことね――」

「それって、3回攻撃を当てれば勝ちってことだよね?」

「そうです。今、イリスとミリィの背後にホログラムとして表示されている3つのメーターがストックとします」


 と、イリスとミリィの背後に表示されたのは小型且つ円型のホログラムで一本取られれば、無職のメーターが赤に染まるシステムだ。

 このシステムは時間制の模擬戦しかなかったため、学院長アイリスが自ら導入したシステムらしい。


「それでは、今回勝利した側には神薙ソラを一日自由にできる権利を与えます」

「これって私にメリットあるのかな……」

「ほらイリスっち! 自分が勝つことばかり考えて! ミリィの方が勝つんだからね!」

「はいはい、では始めましょ」


 イリスは半分乗る気ではなさそうだったが、乗らないわけにはいかなかった。

 むしろ、模擬戦だろうと自分の戦闘技術の向上になるかもしれないと、戦闘には真面目に取り組むタイプだった。

 それに今回はミリィとの戦闘だということで、気は抜けまい。

 裏腹にミリィも実はイリスの強さを知っているため、多少の不安はある。


「両者、準備はいいですか?」

「ええ……」

「いつでも来てよ!」

「では、戦闘開始!」


 と、アイリスが声を上げると、戦闘開始のシステムブザー音が鳴り響く。

 《クレア学院》では頻繁に模擬戦は行われているが今回の勝負はかなりの熱狂具合だった。

 ミリィは背中から天使のような翼を生やし、空中に舞った。


「イリスっち! ミリィはサキュバスたちとの戦いで全然役に立たなかったよ。でも――この3か月間、何もしなかったわけじゃないから!」

「へぇ。じゃあ、少しは期待できそうね!」


 人間界でのサキュバスとの戦闘から3か月。

 サキュバス戦に参加した魔導師は自らの無力さを痛感し、今まで以上に修行を積んできた。

 曖昧な自由が自分たちを置いていこうとそれぞれが必死だったのである。


「まずは撃ち落としてあげるわ! ――紅焔繚銃火エターナル・ガンファイア!」


 イリスの周囲に現れた数十の魔法陣から炎の塊を高速で放つ。

 その時、ミリィは目を瞑りながら両腕を胸の前で交差させていた。


(自ら視界を塞いで、何をするつもりなの……)


神渡(かみわた)し……!」


 突如、ミリィの前の空間が渦を巻くように(ゆが)み、イリスの放った紅焔繚銃火エターナル・ガンファイアが歪みの中に消えていく。


(嘘……何が起こって……)


「――ッ!?」


 刹那、イリスの眼前の歪んだ空間からミリィが姿を現した。


「はぁっ!」


 ミリィは右手に風魔法を纏い、風の斬撃により、イリスの腕を斬り裂いた。

 

「うあっ――!」


 模擬戦の観客席は予想外な展開とミリィの絶技に歓声が沸き起こる。

 初見の技を見せられたソラは目を丸くした。


 イリスが反射的に腕を抑えてしまうが、この模擬戦会場ではダメージは受けないシステムだ。

 いつの間にかミリィは定位置に戻り、イリスを観察していた。

 と、イリスの背後のメーターが一つ赤く染まった。

 これで、イリスの残りのストックは2となる。

 一方でミリィのストックはまだ3だ。

 先ほどのイリスの攻撃は当たらなかったといえる。


「まずは不意打ち成功――って感じかな?」

「まさかミリィに一本目を取られるとは思わなかったわ。見たことない技ね……」

神渡(かみわた)し。気圧と風の操作である一定の魔力を加えることで空間を歪ませる技だよ! イリスっちの魔法は空間の歪みで魔力粒子の流れが崩壊して消滅したの!」

「敵である私にわざわざ解説を入れてくるなんて余裕ね!」

「いや、そうでもない……けど……?」


 刹那、ミリィが突然目を丸くした。

 眼前に浮遊する微細な魔力を感じ取る。


「気づくのが遅いわ! ――断罪の爆砕(ギルティ・ノヴァ)!」

「――ッ!?」


 イリスが指を鳴らした瞬間、ミリィの周囲を取り巻く魔力が一気に炎を上げ、大爆発を起こした。

 光を伴い、爆炎による煙が立つと、煙の中からミリィの小柄な体が投げ出される。

 ミリィが空中で体制を立て直し、再度空中で翼を羽ばたかせる。


「あっちゃー。ちょっと油断しちゃったかな……」


 ミリィの背後にあるメーター1つが赤に変わり、残りのストックは2となった。

 これで、イリスとミリィの残りストックは同じになり、同点に追い込んでいた。


 観戦席に座っている女生徒は、イリスの聡明な判断に絶句していた。


「ミリィが空間を清浄した後、目視できなくなるまで限界に凝縮した魔力を浮遊させておいたのよ……」

「もう! 爆発なんでズルいよ! せっかく一歩リードしたと思ってたのに、さ!」

「私が考案した魔術にまんまと引っかかる人が悪いのよ!」


 嘲笑気味にイリスはミリィを見上げながら言葉を発している。

 ソラは二人の口喧嘩には至らないような傷の舐め合いを見ているが、実際この二人が仲がいいのか悪いのかよくわからずにいた。


(それにしてもイリスとミリィちゃん――新しい発展技を作る天才だな。俺もこうしちゃいられない気がしてきた……)


 ソラはイリスとミリィの成長ぶりに感心する裏腹で、多少の焦燥を感じていた。

 ソラはほとんど剣術と実力に頼った戦い方だが、イリスとミリィは頭脳を主に使った戦い方だ。


(やっぱり、こういうところでは頭の天才が表に出てるよな……)


 イリスとミリィの模擬戦はほとんど騙し合いに近い勝負だった。

今日の投稿夜遅くになって申し訳ございませんでした。

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