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第88話 恋人奪還作戦

 ――魔界、アインベルク王国・王都イーディスエリー。


 《六魔サーヴァント・セイス》夢魔サキュバス戦から3ヶ月。

 本日も《クレア学院》は通常通り平常日課で動いている。

 寒さの時候を越し、日輪も王都を照らし続けていた。

 

 《クレア学院》の中庭はいつも以上の生徒で賑っている。

 勿論、イリスとソラもその場に居合わせていた。


 眼前に掲示された紙が一面に貼り出されていた。

 紙には1から1382の数字の横に生徒の名前が書かれている。


「ソラの名前はどこにあるのかな……?」


 嘲笑が入り混じった奇妙な笑みをソラに向けるイリスは余裕の表情だ。


 掲示された紙はある順位だった。

 ソラたちは《クレア学院》高等部3年で、3か月後卒業予定だ。

 魔界の年明け初日に行われた学力筆記試験の学年別総合順位と取得得点がそこに貼り出されている。


「さすがイリスちゃんやっぱり学年トップ!」

「しかも2位の子との得点差が50点以上!?」


 イリスの名はいつも噂され、耳に入ってくる。 


「おいおい、お前そんなに頭良かったのか?」


 ソラはイリスの順位を耳に挟み、項垂れる。

 故にイリスは学年でもトップで優等生だった。

 実は《クレア学院》入学前、イリスが特待生だったのは学院長アイリスから聞いているが、実際の事実を聞くと自分との力量の差を思い知らされる。


「まあね、――あったわよ、ソラの名前」

「え!? どこだ!?」


 イリスの指さす方角を見るとソラの名はイリスの名とかなり遠い場所に書かれていた。


「1382位……だと……最下位じゃないか!」

「もう、しっかりしてよね――」

「しっ、仕方ないだろ……魔界の字もまだ半分しか理解できてないっていうのによ……」


 ソラは元々人間界に暮らす人間であり、魔界の言語の解読はほとんどできない。

 しかし、イリスの毎晩の教えにより、1年以内で半分の言語を理解できているのはかなり聡明の域といえるだろう。


「はぁ、私と一緒に卒業できなければ意味無いんだからね?」

「今……何て?」

「ソラ――知らないの?」

「何……をだ?」

「卒業試験で学年順位が1000位以下だと卒業できないのよ?」


「はあああああああああァァァァァァァァァァァァァァァァッ!?」


 刹那、ソラの叫び声が中庭中に響く。

 女生徒が物珍しげな顔でソラに注目する。


「ちょっ、ソラ! 声がでかいわよ!」

「なあイリス――耳を貸せ……」


 イリスはソラに促されるまま、ソラに近寄った。


「もしもの時は『神聖魔導団(アルテンリッター)』の特権を使うから安心してくれ……」

「――無理ね」

「えー、なんでぇ!?」

「ソラ、アイリスが何者か知らないでしょ……」

「学院長……だろ……?」

「アインベルク特殊情報機密機関、アインスト国王陛下公認の正式な機関長を務めている人よ――そんな人が情報の改ざんを許してくれると思う?」

「俺聞いてないんだけど!? ――まあ、ならんな……って、アインベルク特殊情報機密機関とかイマイチわからないんだけど……」

「アインベルク特殊情報機密機関はアインベルク王国が保有している国民には一切知らせることができない情報を保管している機関よ。妹の私でさえもその情報は知らないわ……」


 アインベルク特殊情報機密機関――。

 アインベルク王国が国王のみだけが知ることを許されるはずの情報を厳選された5人の魔導師に譲渡される情報を保管する機関だ。

 10年前に国王が急死し、情報が消滅したときのために備えて設置された。

 そして、その情報は紙などの媒体に記録することも許されておらず、機関に務めている魔導師の記憶上に封印するというのが原則で、かなり情報には厳しい。


「アイリスさんとんでもないな……」

「ええ、あんなの私の姉なんかじゃないわ……」

「おいおい」


 とその時、背後から天真爛漫な少女の声が届く。


「ソラっち! イリスっち! ミリィ3位だったよ!」


 ライトブルーで小柄で豊満な胸を持つミリィは、自慢を入り混じらせた挨拶を交わす。


「ミリィちゃんってそんなに頭よかったの!?」

「あれれー? 心外だねソラっちー。ミリィは実はできる子だからね!」

「あんなに授業を嫌々受けてる人がよくそんなにいい成績取れるわね――」


 ソラはそんなミリィを称賛する裏腹で、イリスは呆気に取られていた。

 ミリィが本気を出せばいつかは追い越されるかもしない。

 そういう思いがイリスの中でもないわけではなかった。


「二人は勉強できていいよな。俺に勉強教えてくれたな嬉しいな……とか考えちゃうかもな……」


 いやらしい口調でソラは訴えかける。

 先に乗ったのはやはりミリィだった。


「いいよ!? ソラっちだったらいろいろ教えちゃうから! いろいろ……ね?」


 その時、ミリィがソラの腕に密着すると小柄な体躯のくせして豊満な胸が密着する。

 ソラは頬が紅潮してしまった。


「ちょっ、ミリィちゃん!? ここじゃまずいんじゃないかな……これ……は……」


 ソラは《クレア学院》でも唯一の男子だった。

 故に、女生徒たちが男子であるソラをこっそり注目していたことはソラに分かっていた。


「きゃー!」

「ミリィずるいわよ!」

「神薙君ちょっと顔赤くないっ!?」


(まずい――何なんだよこの羞恥プレイは!?)


 どうするべきか分からなくなったソラを助けたのはイリスだった。

 ――いや、助けたというのは少し違うが。


「ねえソラ……? あとで話があるからとりあえずミリィはそこをどいてくれるかな?」


 ソラとミリィに笑みを向けるイリスだったが、その笑みの下には何が隠れているのか。

 想像しただけで寒気を感じてしまった。

 イリスの恐ろしさを知っていた周りにいた女生徒も無意識に後退していた。


「いっ、いいじゃん! ソラっちは男の子なんだしミリィも興味があるんだよ!」

「ミリィちゃん!? その辺にしておいた方が……」

「ソラっちは黙ってて!」

「えぇぇぇぇぇっ!?」


 ミリィがここまでイリスに歯向かったのは見たことがないソラは驚愕していた。


「あら、ミリィにも反抗期が来たのかしら?」

「ふんだ! イリスっちばかりソラっち独占してずるいんだから昼間くらいいいでしょ!?」

「へぇ…………」

 

 その時、ミリィの右手から深紅の炎が溢れ出す。


「待ってくれ! イリス、ここで炎なんて使ったら中庭の芝生が全部燃えるぞ!」

「イリスっち!? ごめんって!」


 ソラがイリスの魔法の使用を止めようとした刹那だった。


「はいはい、そこまでです二人共」


 気づいた時にはミリィとイリスの間に白髪の女性は姿を現していた。


(いつからそこに……!?)


 アイリス・エーヴェルクレア。

 当学院の学院長を務めるかなりの美貌を持つイリスの実姉だ。


「ミリィ? そんなにソラが欲しいのなら奪っちゃいませんか?」

「ちょっ、アイリスさん!? 何を言ってるの!?」

「アイリス!? なんでいるのよ……」


 と、アイリスはパンッと両手を合わせた。

 

「では二人には模擬戦をしてもらいます。勝者にはソラを好きにできる権利を与えましょう……!」


(この人――楽しんでやがる……)


 イリスはアイリスの強引な告げを前にして凍らされたように硬直した。

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