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第87話 終焉はいつも始まりへ

「今――何て……言いましたか……?」


 ソラはセレスティナの衝撃的な告げを受け、事実を真実だと認識できなかった。

 いや、信じたくなかった。


「だから……死んだのじゃ……。禁術を使って魔力を尽かしたのじゃ……」

「嘘……でしょ……」

「馬鹿なことを言うなよセレスティナ。ゼクスがこんな人間の魔導師に手こずったというのかよ!」


 イリスの言葉の後に続き、ルークが叫ぶ。

 ミリィは眼前の悲惨な血と肉片に気分でも悪くしたのか、頭を抱えてしゃがんだ。


「ミリィちゃん!? 大丈夫か……?」

「う、うん――大丈……夫……だから……」


 ミリィを案じてソラが近寄る。

 瞳を動かすことなくソラに恐怖心を無理矢理抑え込みながら答える。

 ――大丈夫なわけがなかった。

 ただエステルだけがその場で何も言わず顔を俯かせていた。

 無理もない。

 ゼクス率いるレクセア王国は軍事戦争により、エステルのリリパトレア王国を植民地支配していたのだ。

 悲観するべきなのか――或いは歓喜するべきなのか、二つの感情が交錯している。


「セレスティナさん。教えてください。ここで何があったのか……」


 少し落ち着いたのか、セレスティナは体を洞窟の壁面に体を密着させたまま告げる。


「突然じゃった……黒蝮雷蓮(くろまむしらいれん)をゼクスが仕留めたのじゃが、突然奴の体が急変し、悪魔になった――」

「悪魔に!? 何故そんなことが……」

「自らサキュバスを体内に取り込んだのか……」


 その時、ルークが的を当てるような言葉を言い放つ。

 

「そうじゃ。悪魔を自らの体に取り込めば自分も悪魔になる。あやつらは《六魔サーヴァント・セイス》。ただの悪魔じゃなかろう……」

「なるほど――それで狂暴化した黒蝮雷蓮(くろまむしらいれん)がゼクスを……」

「ゼクスだけじゃない。わらわもこの通りじゃ。奴は強かったのう……」


 悪魔の攻撃のおかげでセレスティナの体の骨は砕かれた。

 それも粉砕骨折だ。

 

「ここにずっといるとまずいんじゃない……?」


 イリスがそう言った直後、ソラたちは頭上からイタリア国の人々の声が聞こえてくることに気づいた。


「これは大変だ。人間界の者がこの現場を見れば混乱するだろう――即急に対処を……」

「その心配はありませんルークさん。結界を張りましたから……」

「何だよエステル。仕事が早いじゃないか――」

「まっ、まあ……当然のこと……ですから……」


 さすがは『神聖魔導団(アルテンリッター)』の一員というべきか、現状の把握が早い。

 気配の察知に鋭いエステルは、人間のある一点に対する視覚を遮断する魔力結界を張っていた。


「俺たちもここに長居はできないな――。魔界へ戻ろう――あれ、転移結晶をどこかに落としてきてしまったか……?」


 ここで、ルークは懐に転移結晶が一つないことに気づく。


「な、何故魔力空間に閉まっておかなかったのですか……?」

「少し手間がかかるからな……」


 エステルが呆気に取られていると、ルークは魔力空間から補充用の転移結晶を取り出した。


「皆、準備はいいかな……?」

「ソラ――いいの……?」


 と、イリスが転移の前にソラに何か問いかけた。


「別に……いいけど……? ああ――」


 ソラはイリスの言い分に気づいた。

 わざと言葉を伏せたのもそのせいだ。

 おそらく、ソラの人間界の姉妹であり家族――神薙風香(かんなぎふうか)神薙紗雪(かんなぎさゆき)のことだろう。

 魔界に旅立つ前に顔を出さなくてもいいのかと言いたかったはずだ。


「いいんだ――。また、あいつらには心配をかけてしまうけど、な」

「うん。ならよかった……」


「何のことですか?」

「ああ、いや。こっちの話だ」


 気がかりになったエステルが問いかけるとソラは誤魔化すように話を逸らす。

 数秒の沈黙の後、ルークが全員に視線を送ると一斉に頷いた。


「示せ、喧噪たる地の神よ。我を(いざな)い、未知なる精を転送す!」





   *





 サキュバス戦での一件から一週間が経った。

 黒蝮雷蓮(くろまむしらいれん)の遺体は魔界で処理された。

 魔界のレクセア王国の王城では軍の兵士が整列をしている。

 列の先頭部には一つの(ひつぎ)が置かれ、極寒の地に何本かの蝋燭(ろうそく)が悉く並べられている。


「これより、戦死された本国『神聖魔導団(アルテンリッター)』にしてレクセア軍統率者を務められたレクセア・アーデルニア様の葬儀を執り行う」


 いつものような緊迫した空気はその場所から失せていた。

 一部の兵士は右手にハンカチを持ち、瞼に当てている。


「一同、敬礼――!」





   *





 ――王都イーディスエリーではまた賑やかな日常が戻っていた。

 

 ルークとセレスティナ、エステルはそれぞれの持つ国へと戻り、ソラとイリス、ミリィは《クレア学院》での生活に専念していた。

 ソラたちはある教室で講義を受け終わったところだ。

 講義終わりのチャイムが鳴ると、ボードの前に立っていた女教師が声を上げる。


「では、魔導基礎の授業はこれにて終了する。各自授業で出された課題に取り組むように」


 そう言い残して女教師が教室から出ていくと、淀んだ気分で席に座っていたミリィは一気に気持ちを開放した。


「いやぁー、ミリィはもう疲れたよー。あの先生の授業緊張するんだよなあー」

「ミリィちゃん。課題はちゃんとやるんだぞ? と言うのはいいけど、俺も欠課分のペナルティがいろいろあるんだよなぁ……」


 ソラは突然の人間界への転移も含めて授業の欠席が長く続いてしまった。

 欠課あれば結果もついてくる――故にその分のペナルティ課題は出されて当然の状況に置かれていた。

 ミリィとソラは二人揃って項垂れている。


「ねえソラ――今夜、課題……付き合っても……いいわよ……?」


 と、頬を赤らめながらイリスが話しかけてくる。


「マジで!? イリスはほんっとうに頭がいいから毎回助けてもらってばかりだぞ……?」

「じゃあ、ミリィもついでに……」

「アンタは駄目よ……」


 ミリィの救助要請に即答だったのは、同じ寮の一室でソラと二人きりになりたいという単純な想いからだろう。

 ミリィが「えー」と文句を言ってくるが、ソラは愛想笑いをしている。


 


 ――始まりがあればいつか終わり、終わりがあればいつか始まる。



 

 そんな日常の連鎖が今日もソラ達を取り巻いていた。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

今回の話をもって第四章『サキュバス襲来』篇は完結とさせていただきます。


かなり、長い章になってしまいました(笑)

次章はもっと長くなるかもしれません。


と、ここで重大発表とさせていただきます。


《次章のお知らせ》


【最終章】『冥府の魔刻』篇(仮)


       3/13~始動――。


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