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第85話 超越の死闘

 ――人間界・イタリア陣。

 

 洞窟の天井部は巨大な穴が開き、遥か地上の上から日輪の光が差し込んでくる。

 そのハイライトの上で漆黒の体を持つ強靭な悪魔と二人の魔導師は死闘を繰り返していた。

 だが、その中でも劣勢を強いられていたのはセレスティナとゼクス側――故に魔導師陣だった。

 突如、変貌した人間の魔導師がその優勢に立っている。


 一分。

 ゼクスがセレスティナに言い渡した時間稼ぎのための時間。

 空虚な洞窟の空間の中で一つの悪魔が唸りを上げ、眼前のセレスティナを見据えていた。

 黒蝮雷蓮(くろまむしらいれん)がサキュバスを自ら取り込み、魔人化した獣の姿。

 漆黒の肌を持つ悪魔は己の尋常ではない怪力で足場の岩石を持ち上げていた。


「ぐふっ……!」


 一方でゼクスは、自らの双剣を自らの心臓に刺したまま動かない。

 心臓部からは当然の如く大量の血が流れ出ている。


「おい、ゼクス! 貴様、自殺を図ろうとしているならやめておくのじゃ。一体何をしておる……!」

「…………」


 ゼクスは自分の足元をただ見下ろし、何も答えない。


「わらわはもう知らないぞ……!? なら貴様の言う通り――!?」


「GUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」


 悪魔が突然方向を上げる。

 鼓膜を破ってくるような膨大な悪魔の声が洞窟内に響いた。

 瞬間、悪魔は持ち上げていた巨大な岩石をセレスティナ目がけて放つ。

 

「――砂錠(さじょう)!」


 岩石がセレスティナに直撃する直前に、セレスティナは砂の盾を作り、眼前で破壊した。

 作用・反作用による衝突による破壊だ。

 その刹那、岩石の破片から突如除かれる悪魔の顔が見られた。


(いつからそこに――!?)

 

 一瞬でセレスティナの眼前に迫っていた悪魔は残った左拳で振りかぶる。

 

「かかったのう――()……!」


 セレスティナが声を上げると、空間中に浮遊した微細な砂が強靭な(やいば)となり、悪魔の左腕にめり込み、切り刻んだ。


「GUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」


 悪魔が咆哮を上げると、腕に侵入した砂が徐々に体内に浸食作用を施す。

 

「腕に入った砂は毒と同じじゃ。わらわが砂に仕込んだ魔力の毒が時期に体中を回るじゃろう……」


 悪魔の動きが若干鈍り、動きを止めた。

 ――が、動きを止めたのは砂による毒作用ではないことを思い知ることになる。


「――ッ!?」


 突如、悪魔の左拳が再び凄まじい速度で飛んでくる。

 油断したせいか、セレスティナは直撃を受け、弾き飛ばされた。

 セレスティナは洞窟の壁面に直撃し、衝撃と共に強大なダメージを受けた。


(しまっ――今の衝撃で骨が……!)


 悪魔の強靭なる破壊力。

 セレスティナが今までに喰らったことがない程の衝撃が迸る。

 やはりパワーとスピードを究極的に極めた超越体には勝てないとでもいうのか。



「ふん、貴様は救いようのねぇただの痴女だな……」



 その時、心臓部に双剣を突き刺していたゼクスが双剣を両手に持ち立ち上がっている姿があった。


「……死んだのではなかったようじゃのう、ゼクス」

「あ? 死んだんだよ。地獄から這い戻って来ただけだ」

「そうか――。わらわはこの通り戦えぬ。あとは貴様がやるのじゃ」


 セレスティナは洞窟の壁面にそのまま座ったまま寄り掛かっている。

 

(と、言えど奴は何をしたというのじゃ……。別段、雰囲気は何も変わっておらぬぞ……)


「俺はもう――〝無敵″超越した……」

「――ッ!?」


 ゼクスから放たれた言葉。

 セレスティナは何故かそれが真実のように聞こえた。

 歪みの一切ない前向きな闘志から伝わる根本の深い自信あり気な口調だった。


「おい、かかって来いよ――悪魔。俺にはもう時間がない」


(あ奴、今なんて――)


「GUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」


 瞬間、セレスティナの思考を遮るように今までの比にならないほどの悪魔の咆哮が響く。

 悪魔は時空間移動と並ぶほどの速さでゼクスに右足の一蹴を入れた。

 ――ドン!


 悪魔の右足がゼクスの腹部に衝突した刹那、凄まじい衝撃風が吹き込む。

 セレスティナの橙の髪がなびくほど――いや、岩石が四方八方に弾け飛ぶほどの風だ。


 ――が、ゼクスは悪魔の一蹴を直に受けていた。


「何をしておるゼクス! 死にたいのか!」


 セレスティナがゼクスの身を案じる以前の問題だ。

 飛び交う悪魔の強靭なパワーの一撃を受けたのにもかかわらず、ゼクスの身体(からだ)は一ミリも動く気配はない。


(何が……起きておるのじゃ……)


 ゼクスは口元に三日月形を歪ませた。


「俺の体は既に支配されている。神の力ではい――俺自身の力で体を強制的かつ曖昧な自由へと()とす禁断の自由……」

「まさか――貴様が自分の心臓に双剣を突き刺せていたのは……!」

「そうだ、俺の体の空間上の座標の位置、質量、精神のその万物(すべて)を支配した。おい悪魔、貴様の力は所詮その程度か……」


「GUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」


 悪魔は眼前の事実に困惑し、何度も何度も左拳、右足、左足、頭部までも使ってゼクスに攻撃をした。

 ――が、ゼクスの体は動かない。


「効かねぇなおい!」


 ゼクスは双剣で同時に悪魔の胸元を斬りつけた。

 今まで、表面上の掠り傷だったものが、さらに深く、悪魔の神経部まで双剣がめり込んだ。


「GUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」


 そう、正確には斬り飛ばしていた。

 斬られただけの悪魔の体は双剣によって弾き飛ばされている。


「だから言ってんだろ……。俺の体は万物に通用する。空間上にある俺の体の座標を強制的に操作する。俺がそこまで動かしたいと思ったら、どんな障害物であれ必ずその場所に移動する――故に、不可能は存在しない」


(何なのじゃこの男――。世界の物事の原理を壊している……これは一体……)


 悪魔は飛ばされるも、途中で体の軸を傾け、自らの力で地に足を着いた。

 《六魔サーヴァント・セイス》を取り込んだ体の強度は強く、限りなく超越に近い力を持っている。

 故に、超越と超越の死闘だった。


 ――怪力と速度を超越した最強体の悪魔。

 ――万物の原理を超越した最強の魔導師。


 二つの超越がぶつかり合い、世界が狂いよそうな予感をセレスティナの脳内を刺激していた。

 良からぬことが起ころうとセレスティナは焦燥する。

 しかし、セレスティナの体は動かない。

 体の隅々の骨が粉々に粉砕され、動こうにも動けない。

 精神操作で砂を召喚し、操ることができようとこの超越のぶつかり合いに手出しできそうにもなかった。

 返ってゼクスの足手纏いにもなりそうな上、自分自身の体も保証できない状況に置かれていた。

 セレスティナはただその超越のぶつかり合いをただ見守ることしかできない。


「GUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」


 悪魔の方向が再び洞窟内に響いた。

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