第84話 双剣と双銃
「無事か、ソラ……」
絶望的な状況だったソラに黄金の光が舞い降りた。
サキュバスによる精力吸収魔法に襲われいた窮地にルークの一つの銃弾によりそれは解決された。
ソラはさすがに息を切らしている。
活力をかなり持っていかれ、疲労と嫌悪感に見舞われる。
「無事じゃ――ないですよ……」
「ははっ、そういうと思ったぜ。肩を見せてみろ」
ルークの言っている肩とは負傷した方の肩を言っているのか。
いずれにせよそう考える方が正解なのかもしれない。
ソラは黙って従い、肩をルークに向けた。
――ドン!
「痛ッ!? ちょっ、何するんですか!」
ルークはソラの方に銃弾を放った。
銃弾はソラの肩に直撃し、サキュバスの痛覚倍増魔法を上乗せするように痛みが迸った。
「お前も案外鈍いんだな――」
「ルークさん、裏切るんですか……?」
「ちょっ、ソラ。勘違いをするな! 肩を回してみろ」
ソラは言われるがまま銃弾に打たれた肩を動かしてみた。
「あれっ……痛くない」
「おいおい、勝手に俺を反逆者扱いするなよ――。まあ、無理もないけどな。痛かったのはすまない。俺が打ったのは活性弾だ。負傷した箇所を自動で修復してくれる万能弾」
「あ、ありがとう――ございます」
ソラは正直にルークに礼を述べる。
ルークの言葉通り、肩の腱が完全に修復し、動かすことができる。
痛みの微塵も感じない。
(これで、聖剣シリウスが持てるぞ……!)
ソラが安堵したとき、周囲を見渡すとイリスとミリィ、エステルが結界の外で見守ってくれているのが分かった。
ソラが足元に落ちていた聖剣シリウスを手に持つと、また何か痛みが走った。
「痛覚の修復もこれで完了だ……」
気づくと、ルークが痛覚を一に戻すための特殊な注射器をソラに打っていた。
「ありが……」
「あらあら、あなたたちはホモかしら……? どっちの男もいい魔力ね――」
と、今まで潔く黙っていた筈のサキュバスが口を開いた。
声を聞いた刹那、ソラとルークは厳重の警戒態勢を取る。
双剣と双銃――二人の二つの武器が揃った。
「そうか、ソラは双剣使いだったな。ゼクスと同じスタイルか?」
「いや、俺にはゼクスさんほどの剣の技術はないですよ」
「そうか? この《六魔》相手にここまで追いつめたソラが一番強いと思うがな――!」
「そりゃ、どうもっす!」
ソラが言い放った時、ソラはサキュバスに向かって走り出した。
ルークは右目を隠す長い黒髪を上げ、魔眼を開放した。
――魔眼。
常に五秒先を未来予知するルークの特殊能力に近いとされる、呪いの眼だ。
「接続……」
ルークが呟いた時、ソラの脳裏に別の映像が流れ始めた。
(なんだこれ……!)
「それは俺がソラに直接送っている五秒後の未来だ! 今は細かいことを気にするな! それを頼りにサキュバスを殺すぞ!」
「――よく分かんないですけど分かりました!」
ソラがサキュバスに聖剣シリウスを突き出したとき、サキュバスは鎌でそれを受け止める。
「何を企んでいるかは知らないけど――わたくしはそれを刈り取るだけでしてよ!」
サキュバスがソラの聖剣シリウスを弾き返すと、ソラが抵抗するようにサキュバスの間合いに入り込み、紅血の剣を薙いだ。
剣は見事にサキュバスに直撃したが、掠り傷で済まされたらしい。
(すごい……マジでサキュバスの行動が読める――! どうなってんだ!?)
一方でルークは何か集中していた。
目を閉じながら一本のライフルに何かを念じている。
(未来の共有と特殊銃弾の精製を同時にするのは限度があったか……! 集中が途切れたら終わりだ……!)
ソラはルークの行動に察したのか、後方からの支援を期待せずにせいせいと交戦できる態勢を取る。
「あら……? 後ろの男はサボっているの? 傲慢ねぇ……」
「ルークさんが戦闘を放棄するわけねえだろ馬鹿かてめえ!」
ソラが聖剣シリウスを盾に、サキュバスの鎌を受け止めた。
(失態だわ……! カウンターが来る!)
今のソラには五秒先の未来が見えている。
ソラはそれに従うだけだ。
「何ともカウンターがやりやい未来だ畜生!」
ソラは紅血の剣で渾身の一突きを決めた。
紅血の剣がサキュバスの腹に貫通したとき、サキュバスは剣を無理矢理抜くように後退した。
サキュバスが手を口に当て咳き込むと、手に血が付着していた。
(まずい……この子、急に強く……!)
「――ッ!?」
ソラがサキュバスに向かって紅血の剣を空中にいながら上段で叩き込もうとしたが、ソラの動きは急変した。
突然、体の軸を変え、左手の聖剣シリウスを振り上げた。
サキュバスの右腕は斬り落とされ、大量の血渋きが舞う。
「い、やあああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
サキュバスの悲鳴が結界中――いや、ビル全体に響き渡った。
サキュバスは左手で右腕の切断面を抑えながら喘いでいる。
「ちょっ、ちょっと待ってちょうだい……」
「待つわけねぇだろ! ――剣薙!」
ソラが紅血の剣に漆黒魔力を込め、弾くように薙ぐと、地面を抉るような破壊力とともにサキュバスは後方へ勢いよく吹っ飛ばされる。
飛ばされたサキュバスの体は自らの結界に凄まじい勢いで衝突した。
「――黄昏の歪曲!」
突如、ソラの後方からルークの叫び声が聞こえた。
ルークの一本のライフルから黄金に輝く金色の銃弾が放たれた。
銃弾は尋常ではないスピードでサキュバスを打ちぬく。
刹那、サキュバスの体内にめり込んだ銃弾が突然爆発し、炸裂した。
炸裂した銃弾は、サキュバスの骨や臓器を微塵に破壊し尽す。
一網打尽にされたサキュバスは息を絶やし、地に伏せた。
「やった……のか……?」
ソラが疑心暗鬼に呟いた時、サキュバスの体が大気中の魔力となり、浄化された。
サキュバスの消滅と共に、結界までもが解除される。
「ソラっち! やったよ……!」
「まさか、こうも容易く倒せるなんて……」
「またソラにいいところ持っていかれたわ……」
ミリィ、エステル、イリスの歓喜の声が届いた。
「いや、ルークさんのおかげだよ――。何か、急に頭の中に未来が流れ込んできて……」
「ははは、驚いたか? ソラ――。俺の魔眼の能力初めて見るよな……」
「はい、ルークさんのその力何ですか?」
「世の中には知らない方がいいこともあるんだぜ……」
ソラにかけられた未来予知の効果は既に切れていた。
サキュバスを倒すことができたのもルークの手助けがあったからこそだろう。
ルークが参戦してから、戦況の流れは一気に激変した。
ソラにルークの見る未来が共有されたことで、ソラも躊躇なく剣を振るうことができた。
これも『神聖魔導団』としての戦い方なのかもしれない。
「イタリアの方は大丈夫なのかな……?」
「気にするなソラ。あいつらなら早く敵を倒して暇しているところだろう」
人間界秋葉原陣の戦いは終焉を迎えた。