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第83話 孤闘の果て

 ――人間界・秋葉原。


 ビルのある階の中心で、ソラとボスサキュバスは対峙していた。

 周囲を男性のみしか入れなく、入ったらどちらかが力尽きるまで解除されないという特殊な結界に囲まれている。

 

「ふっふっふ、片腕だけで何ができるのかしら……?」

「お前を――お前の存在を消すことだ! 世界と世界の時空の狭間に落としてやるよ!」


 ソラはサキュバスの鎌を紅血の剣ブラッディ・クレイモアで受け、弾き返す。


「片腕を失ったって、無力なんかじゃねえぜ……。無力のままで終われるかよ――仙鶴ノ雨(せんづるのあめ)!」


 ソラは空中に魔力で足場を作り、それを踏み台にサキュバスに究極の突きを放った。

 ソラの突きは完璧で、サキュバスが鎌で防ぐも滑るような動きにサキュバスの鎌を通過し、中腹を斬り裂いた。

 サキュバスの深紅の血が舞う。


「ちっ……!」

「化け物のくせに血は赤かよ――笑わせんな」


 ソラは余裕を振舞っていたが、実際限界に近かった。

 聖剣シリウスという純白の剣――国王アインストから授かった剣を使えなくした今、状況は不利だ。

 左腕を消失したリスクはかなり大きい。

 それでも、ソラはサキュバスに対抗しなければいけなかった。


「化け物? サキュバスは化け物じゃないわ……捕食者の頂点!」


 サキュバスは鎌を横に薙ぎ、ソラの右足を引っ掻く。

 ソラは体の軸を傾け、攻撃のダメージを最小限に抑えた。

 ソラが地面に着地すると尋常ではないほどの痛みが(ほとばし)る。


(まずい――攻撃を五回受けちまった……。痛覚は32倍……着地しただけでも激痛が……!)


「あらあら、どうしたの? 痛い? ――さて、何故でしょうね……」

「ちっ、調子に乗るなよ……」


 ソラはエステルに貰った痛覚を一に戻す注射器を打とうとするも、左腕を失った今、注射器を打てる状況ではなかった。

 その上、一度右手から紅血の剣ブラッディ・クレイモアを手放し、注射器を打っていればサキュバスに隙を狙われ、殺される。

 注射器など使用している場合ではなかった。


(でもまだ、32倍ならギリギリ耐えることができる……! もう一回喰らえば64倍。これは耐えられねぇな……)


 ソラはもう一度攻撃を喰らうと大変なことになることを悟った。

 64倍にも上れば、歩くだけでも痛みを感じ、動きが鈍り、勝機はサキュバス側に渡る。

 イリスがルークを呼びに行っている。

 それまでの時間稼ぎという案も浮かんだが、逃げてばかりではいけない。

 ――自分の仁義があるから。


 ソラ紅血の剣ブラッディ・クレイモアに漆黒の魔力を集中させた。


「知ってるかサキュバス……。俺の魔剣も――血を吸えば吸うほど強くなるんだよ……。ここに来るまでにどれ程のサキュバスを殺してきたんだと思ってるんだよ」

「何かしら……お互い様とでも言いたいわけ?」


 その時、ソラの頭上に漆黒の雲が発生する。

 ソラの紅血の剣ブラッディ・クレイモア稲妻(いなずま)の如く魔力が降り注ぎ、魔力を剣の力へと変換する。


「最大火力の斬撃を喰らえサキュバス! 天斬(てんざん)……」


 刹那、ソラは時空間移動で一気にサキュバスとの距離を詰め、漆黒の魔力で唸る紅血の剣ブラッディ・クレイモアをサキュバスに叩きつけた。


 ――ドォォォォォォン!


「ぐあっ……!」

 

 ソラの瞬発力とその威力にサキュバスは回避し切れなかった。

 叩きつけた紅血の剣ブラッディ・クレイモアの周囲から砂煙が立ち上がる。


(ヴァージョン吸血鬼(ヴァンパイア)でこの技を使うのは初だったな――。これはかなり体に来るぜ……)


 ソラはサキュバスから距離を取ると、砂煙の向こう側を伺った。

 ――が、当然のごとくサキュバスは死んではいなかった。

 寧ろ、立ち上がっていた。


「まさか……無傷だなんてことないよ……な……」

「あらあら、このサキュバスを今の技で倒せるとでも思っていたの? だとしたら――さっきのが奥の手だったりするわけ?」

「いや? まかさ……な……。そういえば、てめぇに聞いておきたいことがあったな……とな」

「いいわ、答えられる範囲で答えてあげるわよ……」

「なんだ、案外軽い女じゃねえか」


 ソラは挑発半分で放った言葉だったが、サキュバスは特に気にする様子も見られなかった。


「お前らサキュバスの目的はなんだ……」

「目的? そんなものないわ――」

「何……言ってんだよ……」

「わたくしは常に魔王様の忠誠心のもと行動しているの――そう、本能のままにね」

「そうか、俺の質問が悪かったか? なら質問を変えよう。人間界を征服して何をしようとしていた?」

「人間界の征服? まあ、確かにそんなようなことはしようとしたわ――だから言ったじゃない、わたくしは本能のままに動く……と。元々サキュバスはそのような生き物よ」

「何も答えてはくれないか」

「そうよ。でも、一つあなたはお馬鹿なところがあるのね。このサキュバスであるわたくしが何故あなたの質問に答えようとしたのか……」

「――ッ!?」


 ソラははっと気づかされた。


「気づいたところでもう遅い!」


 ソラが気づいたとき、足元が何かに固定されていた。

 ――(いばら)

 それがソラを固定しているものだった。

 植物が育つ環境でもないのにどうしてそのような不自然なものに気づかなかったのか痛感した。


(おいおい、まずいなこれ……)




「ドレイン――!」




 サキュバスがそう声を上げた刹那、ソラの体中から何かを奪い取られる感触に陥った。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああ――! てめぇ……何をしてる……!」


 突如、ソラは激痛に襲われた。

 今まで蓄積した痛覚の潜在が覚醒し、最大限まで引き出される。

 荊の棘が徐々に鋭く、締め付けが強くなりその痛みは余計に大きくなる一方だ。


「あなたから奪っているもの――それは精力よ」

「何だと……」


 精力。

 身体の活動元となるエネルギーのようなものだ。

 

「わたくしサキュバスは男性の精力がなければ生命活動を維持することができないの」

「ちっ、そういうことだったのかよ……」


 何故、サキュバスが男性ばかりを襲っていたのか合点がいった。

 徐々にソラの精力は荊に吸い取られていく。


「それにあなたのような強い男性はとても精力の濃度が濃いの――わたくしの大好物ですわ」


(まずい……体に……力が入らない……)


 ソラが強く握っていた右手の拳は活力を失い、緩く垂れさがる。


「くそ……!」


 ソラが諦めかけたその刹那だった。


 ――ドン!

  

 突然、鳴り響く銃声音とともに、ソラを取り巻く荊が消滅した。

 ソラは膝をつき、息を切らす。


「どうしたよ、ソラ……ボコボコにやられてんじゃねえかよ……」

  

 そこには微かに微笑んだ二丁のライフルを両手に下げたルークの姿があった。

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