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第82話 黒蝮の悪魔

 黒き悪魔。

 これを黒蝮雷蓮(くろまむしらいれん)と呼んでいいのだろうか。


 元人間の魔導師が、突然悪魔の姿に変貌を遂げてしまった。

 筋肉の膨張で3(メートル)級の漆黒の悪魔。


「こやつ、サキュバスを喰ったのう……」

「そのようだな。元々、この洞窟にサキュバスの姿を一つも見かけないのは不審だったからな……」

「嘘をつくな。わらわが指摘したら気づかなかったような顔をしたではないか」

「なっ、貴様――」


(言い返せないようじゃのう……。まあ、今は言い争っている場合ではなさそうじゃ)


 口籠るゼクスを前に悪魔は人間の原形を留めつつ、セレスティナを睨めつけている。

 刹那、悪魔が突然姿を消した。


「――ッ!?」


(なんじゃ……この感覚。心臓が――)


 セレスティナは気づく。

 自分の死を思い知らされる感覚――いや、幻覚だった。


「くっ!」


 ――ドン!


 一瞬でセレスティナの目の前に現れた悪魔はセレスティナの体を掠り、壁を殴った。

 壁は大きくへこみ、ダイナマイトでも爆発させたかのような傷跡が残った。


(危なかった……今の当たっていたらわらわは……!)


「ちっ、何だよこの怪力――人間じゃねえな……いや、外見で人間ではないことはわかるが」


 ゼクスが呟いていると第二撃はやってくる。

 

(見切った……!)

  

 悪魔が次に姿を現したのはゼクスの眼前だ。

 両手を握り合わせながら思い切りゼクスをプレスした。

 ゼクスは双剣で受けるが――弾き返そうとしても弾き返せなかった。

 重量と怪力――これこそが悪魔の強みなのだろう。


「ヴァニシング・イン――!」


 ゼクスは剣ではなく自らの体に速度の瞬間移動魔法をかけた。

 時空間移動とは異なり、己の筋肉の活動機能を瞬間的だが俊敏にする芸当だ。

 悪魔のプレスの速度を上回る速度でしゃがみ、僅かな空間が生まれたところで時空間移動を使用し、プレスの罠から抜け出す。

 悪魔のプレスは威力を増し、地面を叩きつけた。

 尋常ではない重量と怪力で地面に隕石が落ちたかのようなクレーターを刻んだ。


「GURURURURURURURURURU……」


「狂ってやがるな――」


 だが、ゼクスの双剣自身は悪魔の腕に触れることができた。

 故に、対象物を斬った――支配したこととなった。

 

 ――が、


(動きが止まらないだと!? 馬鹿な……!)

  

 悪魔にゼクスの支配が通用していなかった。

 悪魔はゼクスに向かって歩を進めてくる。


 ――無理矢理、怪力だけで魔法に抵抗している。

 ――或いは、魔力を無効化する魔法を使用しているのか。

 

 悪魔に理性がないのは好都合だったが、支配が通用しない。


雷霆砂漠(らいていさばく)――!」


 セレスティナの声とともに、悪魔の足元にいつの間にか忍び込んでいた大量の砂が悪魔を囲うように巨大な砂の壁を作った。

 足元は砂の渦を巻いていて、逃げ出せない。

 砂の壁は一瞬で凝縮し、悪魔を押し潰そうとする。


「GUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」


 悪魔は雄叫びとともに、体を超高速回転させ怪力を共にし、砂の壁をぶち壊す。


「そんな――!」


 セレスティナは驚愕する。


「いい足止めだ!」


 ゼクスは既に悪魔の頭上にいた。

 双剣の剣先を合わせながら悪魔に向かって急降下。


「ヴァニシング・カオス・ブレイク――!」


 自分の速度を瞬間的に飛躍させる《ヴァニシング・オン》と剣先を合わせ鋭い突きを放つ《カオス・ブレイク》の合わせ技だ。

 悪魔は避けることなく、右手で双剣の鋭い突きを受け止める。

 ――刹那、双剣が微かに右手の平にめり込んだ。


「ソニックブレード――!」


 双剣がめり込んだ瞬間、剣を振動させ、威力を一時的に高める魔法をかける。

 

 ――グシャ!


 惨い音と共に、悪魔の右手は双剣によって串刺しになった。

 ゼクスが双剣を振り切ると、悪魔の右手は破壊。

 完全に骨と共に砕け切った。


「GUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」


 ここで悪魔は初めて後退の行動をとる。

 さすがにゼクスの双剣の威力は誤算だったのか。


「はぁ……はぁ……」


 ゼクスが息を切らしている。


「まずいのう……。このままでは消耗戦じゃ。いずれにせよ、こちらの体力が先に尽きよう……」

「こいつ――《六魔サーヴァント・セイス》と同等かそれ以上か……厄介だ。弱点も見つかりそうにもないな」

「スピードもパワーも向こうが上だとすれば……」

「ああ、だが実際にそうだ。ちっ、この俺がここまで押されてしまうとはな……」


 ゼクスはあることを決心した。


「セレスティナ――」

「何じゃ……」

「一つ提案がある……」

「ほう、打開策でも見つけたのかのう……?」

「一分こいつを足止めしろ」

「なっ、貴様――何を言い出すかと思えば、他人に役を投げるのか……!」

「んなわけねぇだろ……この淫乱女――」


 ゼクスの煽りに歯向かいたくなったセレスティナだったが無理矢理気持ちを抑え込む。


「俺の魔法にはもう一段階上が存在する――そのための時間稼ぎだ、この馬鹿!」

「馬鹿とは子供か貴様は! ……まあよい。ここは貴様に賭けるとするかのう」

「ふん、そうか。ならば話は早い……」




 次の瞬間、ゼクスは自分の心臓に自ら双剣をぶっ刺した。

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