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第79話 雷撃の音色

 ――人間界・秋葉原陣。


 ソラとイリス、ミリィ――そして、ルークとエステルで二手に分かれてアジトと思われるビルに乗り込んでいた。


「ルークさん、もしボスサキュバスを目撃したらどうしますか?」

「そうだな。ゼクス達のイタリア陣にも手間をかけさせたくないところだからな――一気に仕留めよう

「わかりました。急ぎましょう」

 

 ルークとエステルサイドでは長い非常用階段を上り、一気に最上階まで上り詰めるという算段だ。

 一方でソラサイドでは、一階から虱潰(しらみつぶ)しに探し出すという作戦。



「あらあら。男女が二人でこんなに狭い階段を駆け上がって――何をしているのかしらねぇ」



 階段の幅は実に狭かった。

 例えるなら洋式の個室トイレの狭さなのか。

 エステルとルークの眼前にはサキュバスが十体大鎌を持って構えていた。


「ルークさん。ここは私が行きます――この狭い空間だと狙撃は不利でしょうから」

「おう、頼むぜ」


 ルークが階段を十段降り、後ずさると、エステルは右手を豊満な胸の前に突き出した。

 エステルが魔力を集中させると、一本の弦楽器――エレキギターが召喚される。


(そういえば、エステルの戦闘ってあまり見たことなかったな――弦楽器なんて使ってたか?)


「何かしらそれ、私たちサキュバスをそんなギターで倒せると? 嘗められたものねえ……」

「ボコボコにしますわよ!」


 サキュバスが痛覚倍増魔法をかけた鎌を振りかぶる。

 

「打ち取ったわよ!」

「馬鹿ね! よく見なさい!」


 その時、鎌に打たれたはずのエステルの姿が稲妻(いなずま)となって姿を消した。

 地形の運もあり、サキュバスは狭さのためか一人ずつの攻撃になっていた。

 無理もない。


「でも、あの女どこに消えたの!?」


 エステルは十体のサキュバスの列の中央に現れた。

 

「なっ、いつの間に!」


 エステルは攻撃の直前に電気と化すことで、実体のない姿に変身していた。

 

「エレクトリックブリザード――」


 エステルのギターの弦が弾かれると、サキュバスの足元に無数の魔法陣が出現し、雷撃を足場から放出。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 嵐のような威力に圧倒され、サキュバスは空気中の魔力と化した。

 ルークが当然の勝利のようにエステルを見守っていた刹那――エステルの足元が微かに膨らみかけた。


「エステル!」


 ルークの声に反応し、エステルが後ろに跳ぶとサキュバスが階段の床を突き破って襲撃してくる。

 エステルはギターに雷撃と魔力を混合し集中させ、最大限の力でサキュバスの脳天をぶっ叩いた。


「はぁ、さすがにこの狭さだと自由が制限されますね……」

「挟み撃ちに合ったら少し厄介でもあるな……少し急ごう……」

「そうですね……」


 エステルが消耗している気配は微塵も感じなかった。

 

「エステル――今ので何パーセントの力なんだい?」

「いやいや、十パーセントも出してませんよ」

「さすがだな……」

「いえ……」

「それと弦楽器使ってたよな? ――使い始めたの最近……だよな……? 初めて見たぞ」

「三か月前です。弦楽器を使えば音の反響が有効に使えると思って活用したところやはりそっちの方が魔力の消費が少なく済むと思ったんです」

「お、おぉ――」


(エステル。こいつは本当にすごい。女の子でソラよりも若いのにこの強さ――本当に並みの魔導師じゃない……。あの技を使ったらどんな威力がでるんだよ……)


 近いうちに自分が越されてしまうのかもしれない。

 ただただそう思っていた。

 




   *




 

 ――人間界・秋葉原ソラサイド。


「やっぱり、虱潰し作戦はサキュバスが大量に出るわね……」

「ああ……キリがない」


 ソラは魔剣紅血の剣ブラッディ・クレイモアと聖剣シリウスを両手に持ちながらサキュバスを打倒していた。

 戦闘スタイルではゼクスとほぼ似ている。

 イリスとミリィは己の炎魔法と風魔法を使い、究極のコンビネーションを生み出している。


 ソラの手際の良すぎる剣舞にサキュバスは圧倒される。


剣薙(けんなぎ)――!」


 漆黒の魔力と閃光の魔力を込め、白と黒の剣が弾くように薙ぎられる。

 地面を(えぐ)るような威力にサキュバスは皆消滅していく。


葬弾放射火(エンストラルバーナー)――!」


 イリスが手の平に魔法陣を発生させ、超巨大火炎放射を放つ。

 それに加えて、ミリィの風魔法のバフ効果により、さらに威力を増した火炎放射が放たれた。

 ――ドォォォン!


(こっ、これ――ビル火災起きるぞ……)


 その威力はソラでさえも驚愕するほどで恐れる威力。

 イリスとミリィの新タッグは高熱の油に水を注ぐようなものでもあった。

 イリスが放つ炎魔法にミリィの風魔法が上書きされることで、数倍にも増した炎が放たれる。

 そして、ミリィの空中からの援護によってイリスの背後は常に守られていた。


「サイクロンバースト!」


 イリスの背後にサキュバスが寄ると、ミリィが高濃度に凝縮させた空気塊を凄まじい速度で放射する。

 ミリィの放つ空気がサキュバスの心臓部を貫通させるほどの威力で一瞬にしてサキュバスは消し去った。


「お、お前らいつからそんなに息ピッタリになったんだよ……」

「何言ってるのソラ。元からじゃない……」


 イリスの言うことも間違いではない。

 実際、ソラが魔界に転移し、《クレア学院》に入学する前はイリスとミリィは仲がいい方だ。

 その上、ソラの入学前のイリスとミリィの関係はあまり知らない。

 聞いたこともなかった。


「しかし、案外サキュバスも弱いもんなんだな……」

「ダメだよソラっち。あまり、気を抜いちゃうと痛覚のアレ受けちゃうよ?」

「でも、聞いていたよりかは弱すぎるわ――」

「確かにそうだな。俺がこの前サキュバスと戦った時はもっと強かった筈だ……」


 ソラが以前人間界の丘で戦ったサキュバスは、ソラに鎌を的確に当てる集中力とパワー、そして痛覚倍増魔法を含む魔力はあった筈だった。

 しかし、今、その要素のほとんどが機能し作用していない。


 ――と、その刹那だった。


「ミリィ!」


 イリスの突然の叫び声。

 しかし、気づいた頃には遅かった。

 

 ――ドォォォン!


 その時、低い轟音を立てながら他所から襲撃してきた魔力がミリィを襲った。

 ソラとイリスは襲撃の勢いから生んだ風に体ごと吹き飛ばされた。


「ミリィちゃん! ――クソッ!」


 ミリィは酷い砂埃を身に纏い、黒い焦げ跡を肌に残しながら地面に伏せた。


「しまった、直撃よ……ミリィ!」

 

 イリスがミリィを心配して駆けだそうとしたがソラは肩を押さえつけて止める。


「イリス待って! 今は危険だ! 第二撃が来る可能性がある!」

「ええ、そうね。――ごめん」


 イリスが興奮を抑えると、背後から女の声が響く。




「うふふ……どう? 仲間を一人失った気分は……」




 ソラが瞬時に反応して振り向くと見覚えのないサキュバスが一体立っていた。


「お前は……!」

 

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