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第78話 二つの強靭

 ――イタリア。

 

 一般にそう呼ばれる人間界地球の地があった。

 建造物は石造が多く、都会のようなビルは見当たらない。

 緩やかな透き通った大河を挟む、風情のある街並みが優雅に立ち並んでいた。

 看板には見慣れない言語ではあるが、『Venezia』と表記されている。

 秋葉原のような白灰で荒廃した様子はなく、原形を留めている町でもある。


「何故、わらわは貴様と一緒なのじゃ……」

「ふざけるな痴女め。それはこっちのセリフだ――」


 イタリアの地に足を着くは、ゼクスとセレスティナ。

 二人共人間界では知られていない顔ではあるが、その異色な雰囲気に現地の人々は徐々に注目の眼光を向けてきている。

 魔界の人々が二人が一緒にいることを見れば、また違う反応が見受けられただろう。


「痴女とは何の冗談じゃ……。わらわはそんなに価値の低い者ではおらぬ」

「そうか――安そうなその胸はベル王国の観点からすると高いようだ……」


 ゼクスの挑発にセレスティナの頭に血が上った。


「貴様、身分の違いというものを教えてやろうかのう?」

「身分の違いだと? 奢り高ぶるなよ――所詮戦力差では貴様の方が格下だろうが」


 元々、セレスティナとゼクスは仲が悪いと評判だった。

 そして今、それを止めてくれる人物などいない。

 これは学院長アイリスの人選ミスだったのだろうか。


 ――と、その刹那だった。



「やっと姿を現したな魔導師――」


 

 二人の頭上から聞こえる女の声。

 セレスティナとゼクスが瞬時に反応し、その方向を見ると、背中に堕天使の翼を生やした淫乱悪魔サキュバスが姿を現していた。


「おい、ゼクス・アーデルニア。貴様は拷問が得意じゃろう――ならば、あの淫女からアジトを聞き出すがよいぞ」

「何だと? 俺に容易く命令をするなよ貧乳痴女――」

「わらわに喧嘩を売っておるか? 人間界の砂となれゼクス」

「ふん、まあ、いい……。貴様では頼り甲斐がないからな……。俺が直々に手を下してやろう」


 その刹那、ゼクスは一瞬にして姿を消す。

 時空間移動を使った、瞬間歩法だ。

 

 ――突然、サキュバスの首から血潮が溢れ出す。

 

「Ho visto la scena del delitto!」

「Sfuggirle!」


 現地の言語と思われるものを発しながら足を速めて逃げていく人々が見られた。

 目の前で人が首を双剣で貫通させている現場を見たら無理もないだろう。


「まったく――嫌な男じゃ……」


 サキュバスが反応しきれないスピードを誇るゼクスの歩法は魔界でも一位か二位を争う。

 故にスピードこそがゼクスの最大の武器でもあった。


 双剣はサキュバスの喉を貫通している。

 そのためかサキュバスは言葉の一つも発することができなかった。


「おいサキュバス――お前らのアジトの場所を吐け」


 サキュバスはゼクスを睨めつけている。

 目に微量な涙を浮かべ、体の自由が奪われていた。

 ゼクスの固有能力である魔法――。

 斬りつけた対象物を十分間支配する『支配』の魔法だ。


 ――が、その刹那。

 

 ギィィィィン!

  

 奇妙な金属音を思わせる音を立てるとサキュバスは姿を消した。

 サキュバスは空気中の魔力と化して、死の世界の狭間へ召されていったのだろう。


「何ッ!?」


 セレスティナも少し驚いていたのか、ゼクスまで驚愕した。


「自分に危機が迫ったとき、自然消滅するような魔法でも掛けられてんのか――」

「おぬしは馬鹿じゃのう……サキュバスの喉を刺したら喋ることもできんくなる……」

「いいや――アジトの場所は分かった……」

「……え?」


 あまりにも無茶なゼクスの回答にさすがのセレスティナも困惑する。

 先ほどの工程で会話なしに攻撃だけで敵のアジトを割り出すのは不可能に等しい。


「貴様も愚かだ。気づかないのか。自分たちが人間界に降り立って三分も経たないうちにサキュバスが俺を魔導師だと断定した――こんなに人混みの中でどうやって俺達を断定し、ここまで辿り着けるか……」

「何が……言いたい……?」

「それにこの地はサキュバス共の攻撃や関与は受けていないようだな――普通に暮らしていれば絶対に人に気づかれなくて効率的にアジトで活動ができる場所――そして一瞬で魔導師を発見できる場所……」


 ゼクスは双剣を地に突き刺す。


「おい、何をしている……」


「ソニック――ブレード……!」


 ゼクスが言い放った刹那、双剣の振動とともに地面が亀裂が入った。

 その後、地面は崩壊しその下の巨大な空洞に二人は飲まれていく。


「まさか、アジトは地下なのか!」

「あったりまえだよなぁ? そうだ――アジトはこの下だ」


 地面が崩壊しながらも、岩石が次々へと下落する。

 下落する岩石に自分の足場を作り、滝のように下って行った。


 300(メートル)は落ちただろうか。

 漸く二人は安定した地面に立つことができた。

 その場所は単なる空洞のできた洞窟らしかった。



「やぁ、君たち――よくこの場所が分かったね……」



 その時――洞窟(アジト)の奥から爽やかな優しい男の声が聞こえた。

 しかし、その声の裏腹には何か奇妙な感情が入り混じっているかのようだった。


「誰だ……てめぇは……。魔導師か?」


 ゼクスが人間だと仮定するなら、人間だという条件は先ず消される。

 ならば、もう一つは魔導師という選択肢。


「僕のことかな……? 僕は魔導師だよ――人間界のね」

「そうか――貴様が人間界の魔導師という……アイツか……」


 ゼクスは率先して男に話しかけていた。


「アイツって何だよひどいなぁ――。魔界の人たちにせっかく名乗ってやったっていうのにさぁ――はぁ……」

 

 男はため息をつきながらも、余裕の笑みを浮かべている。


「わらわは覚えているぞ――確か、赤黄金虫(あかこがねむし)とか言ったのう……」

「い、いや、全然カスってもないんだけど……。僕の名は黒蝮雷蓮(くろまむしらいれん)だよ」


 雷蓮と名乗った男はセレスティナやゼクスを前にしても、自分が勝つという確信しかないようだった。

 表情を見れば一目瞭然だったからだ。


「あぁ? んなもん興味ねぇんだよ――だって今から殺す相手だからな……」


 ゼクスは気づいた時には既に雷蓮の背後に回っていた。

 ゼクスが瞬間的に双剣を上段に振り下ろす――が、剣先一つも雷蓮には届かない。


(ちっ――さっきは確実に当たったはずだぞ……!)


 正確には透き通っていたのか。

 そう思わせるほどトリッキーな動きをしていた。


「それが時空間移動なんだ。君はいい動きをするね……。でもさぁ、当てられなければ意味無いよね?」

「――ッ!?」


 ゼクスは動けなかった。

 

「ぐはっ!」


 大量の吐血。

 残酷な深紅の液体が腹からも噴出していた。

 雷蓮の腕がゼクスの腹を貫通していたからだ。


(なんだこいつは……! いつの間に……。完全に気配がなかった……)


 雷蓮はゼクスを一蹴し、セレスティナの元まで蹴り飛ばした。


(馬鹿な――このゼクスがやられる……じゃと?)


 セレスティナは唾を飲み込んだ。

 魔界最強説を立てられているゼクスがやられたという信じられない事実を眼前にして――。


「君の行動は背後から相手を狙う――単純すぎるんだよ。ただスピードと威圧だけで押し返せると思っているだけの野獣の行動だね……。さぁ、次はそこの女だよ――かかっておいでよ……」

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